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ソニー・ロリンズ『ウェイ・アウト・ウエスト』

『ウェイ・アウト・ウエスト』はピアノ奏者がいない編成、ピアノレス・トリオで演奏が展開します。奏者はリーダーのソニー・ロリンズ(テナー・サックス)、レイ・ブラウン(ベース)、シェリー・マン(ドラム)です。

ピアノレス・トリオとは

そもそもピアノレス・トリオのサウンドとは何かですが、ソニー・ロリンズに即して言えば、テナー・サックスとベースの2声のメロディからなる音楽です。ドラムはリズムをつけるにとどまらずベース以上にビートを刻む役目を担います。

ソニー・ロリンズは1959年の2度目の引退に至るまでピアノレス・トリオ編成で3つのリーダーアルバムを録音します。『ウェイ・アウト・ウエスト』(コンテンポラリー)は第1弾であり、第2弾が『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(ブルーノート)、第3弾は『フリーダム・スイート』(リバーサイド)となっていますが、それぞれ違いがあります。

『ウェイ・アウト・ウエスト』はいろいろ違う

『ウェイ・アウト・ウエスト』は、ソニー・ロリンズがこれまで録音してきたすべてと比べと違いがたくさんあります。

・レコーディング場所が東海岸ではなく西海岸でロサンゼルスです。
・レコード会社はプレスティッジでもブルーノートでもなくコンテンポラリー。
・レコーディングスタジオはヴァン・ゲルダー・スタジオではなく、コンテンポラリー・スタジオ。
・プロデューサーはボブ・ウェインストックでもアルフレッド・ライオンでもなく、レスター・ケーニッヒ。
・録音技師はルディ・ヴァン・ゲルダーではなく、ロイ・デュナン。
・レコーディングメンバーでは、初顔合わせとなるレイ・ブラウン(ベース)とシェリー・マン(ドラム) 。
・またソニー・ロリンズが『ウェイ・アウト・ウエスト』のレコーディングの場所となったロサンゼルスに赴いたのはドラマーのマックス・ローチのクインテットでやってきたためです。にもかかわらず、盟友ローチとはセッションをしません。
・レコーディングは数曲、数枚などのレコード会社との契約ではなく「自然な成りゆきでつくられた」。

レコードのライナーノートにレスター・ケーニッヒは「しばしば彼(ソニー・ロリンズ)はピアノ抜きでレコーディングをしたいと思っていた」とロリンズの思いを書きます。ソニー・ロリンズの思いと環境の違いがあいまって、いつもの東海岸のレコーディング風景から自由になり、ピアノレス・トリオの演奏録音を促したようにも思えます。

いままでのアルバムのジャケットデザインは本人がスーツを着てテナー・サックスを吹く姿、あるいはイラストでしたが、荒野でウェスタンハット、ガンベルトに挙銃は無いのですがテナー・サックスを携えた西部のカウボーイ姿となります。いまでいうコスプレです。

アルバム『ウェイ・アウト・ウエスト』

『ウェイ・アウト・ウエスト』は1957年3月7日に録音されます。リーダーはソニー・ロリンズ(テナー・サックス)、レイ・ブラウン(ベース)、シェリー・マン(ドラム)のピアノレス・トリオの演奏です。

収録曲はレコード基準で、①俺は老カウボーイ、②ソリチュード、③カム、ゴーン、④ワゴン・ホイール、⑤ノー・グレイター・ラブ、⑥ウェイ・アウト・ウエストです。A面は①と②、③、B面は④と⑤、⑥が収録されています。

曲調でまとめると、①と③は西部劇映画のナンバー、②と⑤がジャズのバラードスタンダードナンバー、③と⑥はロリンズのオリジナル楽曲です。

レコードで聞く流れを基準とするとA面とB面ともに、西部劇のナンバーではじまり、ジャズスタンダードをはさみ、ロリンズ・オリジナルで終わる。この順序で収録されています。収録順を意識し聞きますと本アルバムにロリンズの世界観があるように感じます。

西部劇ナンバーの世界

①「俺は老カウボーイ」と④「ワゴン・ホイール」はのどかさを感じるサウンドです。この聞こえを指してソニー・ロリンズのユーモアある演奏と呼ばれがちですが、ロリンズというよりもおそらく!? 原曲(原曲だと言い切れませんが、おそらくだろうです、ご注意!)を聞くとそれ自体が牧歌的な雰囲気が溢れ、そのエッセンスを汲み取ったまでと思えます。

①「俺は老カウボーイ」は西部劇映画のワンシーンで登場する曲です。トランペットがテーマを提示すると、集りの場面で俳優や女優らが輸唱をします。

ソニー・ロリンズのピアノレス・トリオの演奏は音色が異なるメロディ、騒がしくワイワイガヤガヤをテナー・サックスとベースの2 声のメロディ化していきます。オーディオ環境によりベースの音の聞こえが悪いかもしれません。

ジャズスタンダードの世界

②「ソリチュード」と⑤「ノー・グレイター・ラブ」は原作者の手を離れて多くのジャズの巨人達がさまざなアレンジで録音をしています。

私が思い出すのは、「ソリチュード」はセロニアス・モンクの演奏でアルバム『セロニアス・モンク・プレイズ・デューク・エリントン』に収録されたそれです。「ノー・グレイター・ラブ」はマイルス・デイヴィスの『マイルス~ザ・ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット』です。

モンクとマイルスの演奏の特徴はピアノソロとクインテットと演奏形態に違いがあるもののメロディと伴奏の組み合わせです。上はモンク、下はマイルスです。モンクは最高です。

もうひとりあげるとビリー・ホリディ

ビリー・ホリディです。モンクもマイルスもこの2曲を片方しか録音をしていませんが、ビリー・ホリディはこの2曲の組み合わせてレコーディングしています。

ビリー・ホリディのサウンドはビリーの歌声を中心にその合間をトランペットやピアノが寄り添い、すり抜けて出入りして進んでいきます。モンク、マイルス、ビリー・ホリディのサウンドを聞いて感じる良さはさまざな音色の響き合いです。
上は「ソリチュード」、下は「ノー・グレイター・ラブ」です。


対してソニー・ロリンズのピアノレス・トリオ

ロリンズの演奏が聞き手に与える聴後感は、テナー・サックスとベースが独立のメロディであり音色です。スマホやPCでは聞こえ方がちがいますが、ピアノレス・トリオの特徴を感じます。
上が「ソリチュード」、下が「ノー・グレイター・ラブ」です。

ドラムがビートを担いブラッシュワークを刻み、ピアノ奏者がいればテナー・サックスのメロディに合わせて伴奏をつけるだろう場面にピアノは何も聞こえません。
豊かな響きに満ちたジャズのスタンダードナンバーが、骨格を残した2本の線が独立に進む渋いメロディとなります。

ロリンズのオリジナルナンバーの世界

③「カム、ゴーン」、⑥「ウェイ・アウト・ウエスト」です。最後はピアノレス・トリオによるオリジナルナンバーの演奏です。

過去のソニー・ロリンズのリーダーアルバムで聞こえていた、テナー・サックスとドラムのかけ合い奏法、インタープレイは聞こえません。変わって聞こえてくるのは、レイ・ブラウンのベースソロ、その後をシェリー・マンへの繋ぎとドラムソロです。上が「カム、ゴーン」、下が「ウェイ・アウト・ウエスト」


ジャズの聞き方として、1曲のなかでテーマとアドリブを分けたり、各楽器のアドリブ繋がれ方を意識するのですが、「カム、ゴーン」と「ウェイ・アウト・ウエスト」はロリンズのオリジナル楽曲で聞きなじみがないことも手伝って、この聞き方も上手にできません。

ピアノレス・トリオによって演奏がテーマもアドリブも合体してしまった、という聴後感があります。テナー・サックスのテーマの後に、同じ楽器でアドリブらしきものが続きます。

まとめ

『ウェイ・アウト・ウエスト』はピアノレス・トリオというソニー・ロリンズの新しい演奏形態とサウンドです。全体として非ジャズ要素を取り込み、新しいジャズを作り始めた、二歩先を進めたアルバムという思いがします。

アメリカのエンターテイメントに映画とミュージカルがあり、ジャズのスタンダードナンバーのおおくはミュージカル曲を採用してきましたが、本アルバムではもう一方の映画音楽に着目しています。さらにこれもアメリカならではの「西部劇」から曲を選択する、という曲の選び方にソニー・ロリンズの達見があります。

演奏ではジャズのバラードのスタンダードナンバーを取り上げます。ジャズの巨人達が音を重ね、和音を響かせ、音色を華やかに演奏してきたナンバーをテナー・サックスとベースというふたつの楽器に還元してポリフォニーで聞かせるスタイルをとります。

またソニー・ロリンズのオリジナル曲では、テナーサックスとドラムのインタープレイが鳴りをひそめ、テーマとアドリブの区別が以前よりもはっきりしない最初から最後までアドリブが続く感じの演奏です。

アルバムジャケットを含めコンセプトなアルバムと言っても良いようなソニー・ロリンズの一枚です。

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