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ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズ・アンド・ザ・ビック・ブラス』

新しい演奏スタイルへの取り組みとスタジオ録音ですが始めから終わりまで聴くとスーパースターのコンサートのような仕上がり。このふたつが重なりソニー・ロリンズの魅力がつまったのが本アルバムです。検索ワードは、Sonny Rollins and the Big Brass

🔵アルバム基本情報

ソニー・ロリンズはニューヨークで1958年7月10日と11日に録音をします。レコード基準で10日はB面をベルトン・スタジオで、11日はA面をメトロポリタン・スタジオ。

A面1曲目の「グランド・ストリート」


プロデューサーはジャズ評論家のレナード・フェザーです。アルバム名は『ソニー・ロリンズ・アンド・ザ・ビック・ブラス』です。レーベルはMGMレコード傘下の新興レーベルのメトロジャズです。

メンバーは
・アーニー・ウィルキンス(編曲と指揮)
・ナット・アダレー(コルネット)
・クラーク・テリー、レナード・ジョーンズ、アーニー・ローヤル(トランペット)
・ビリー・バイヤーズ、ジミー・クリーブランド、フランク・レハク(トロンボーン)
・ドン・バターフィールド(チューバ)
・ルネ・トーマス(ギター)
・デイック・カッツ(ピアノ)
・ヘンリー・グリムス(ベース)
・ロイ・ヘインズ、チャールス・ライト(ドラム)

収録曲は
A面は
①グランド・ストリート
②ファー・アウト・イースト
③フー・ケアズ?
④ラヴ・イズ・ア・シンプル・シング
B面は
⑤ホワッツ・マイ・ネーム?
⑥イフ・ユー・ワー・ジ・オンリー・ガール・イン・ザ・ワールド
⑦マンハッタン
⑧ボディ・アンド・ソウル


🔵不思議なアルバム名

アルバムタイトルにまず驚きます。ビックブラスは名前のとおり演奏編成がビックバンドです。なぜ1950年代後半に時代逆行的な先祖返りしたかのようにビックバンドでアルバム制作をしたのか、と。

ビックバンドはその演奏に多くのプレイヤーと楽器が登場します。統制する強力なリーダーや曲を編曲するアレンジメントを必要とします。実際に本アルバムには指揮とアレンジを担当したアーニー・ウィルキンスが参加しています。

すでにアルバムリリース当時、ソニー・ロリンズはテナーサックスの第一人者、即興演奏で名をあげたモダンジャズを作り上げた一人です。

演奏がアレンジ重視と即興重視では相反するのではないか、と。

また何か統一感の無さがあります。レコード基準ではA面にビックバンドの演奏、B面はピアノレストリオと独奏が収録されています。企画モノであったりコンピレーションでもないのに。

事前情報を組み合わせるといろいろと考えがちですが、すこしだけロリンズとビックバンドとの関係の希薄さを記します。

🔵ソニー・ロリンズの録音

ロリンズの録音のあゆみ、そのスタートをどこに定めるかは諸説あります。初レコーディングはバブス・ゴンザレスのアルバム『ウィアード・ララバイ』(ブルーノート)の1949年からです。ここから本アルバムを録音した1958年までの活動の軌跡を書いてみます。

ジャズレーベルは、ブルーノート、プレスティッジ、エマーシー、コンテンポラリー、リバーサイドへ吹込みあり。

プロデューサーは、アルフレッド・ライオン、ボブ・ワインストック、レスター・ケーニッヒ、オリン・キープニュースと制作あり。

演奏形態はトリオ、カルテット、クインテットなどの小編成。
共演奏者は楽器毎に5名程度としますと、

トランペットは、ファッツ・ナヴァロ、マイルス・デイヴィス、クリフォード ・ブラウン、ケニー・ドーハム、アート・ファーマー。

ピアノは、バド・パウエル、セロニアス・モンク、ジョン・ルイス、リッチー・パウエル、レッド・ガーランド、トミー・フラナガン、ホレス・シルヴァー。

ベースは、パーシー・ヒース、オスカー・ペティフォード、ジーン・レイミー、ポール・チェンバース、ダグ・ワトキンス、ウィルバー・ウェア。

ドラムは、ケニー・クラーク、アート・プレイキー、マックス・ローチ、フィリー・ジョー・ジョーンズ、シェリー・マン。

他に、チャリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、ジャッキー・マクリーン、ジョン・コルトレーン、ミルト・ジャクソン、アビィ・リンカーン。

これはジャズ・ミュージシャンとしてかなり華麗な経歴です。モダンジャズの中心で活躍してきたことを語っています。似たような歩みはポール・チェンバースくらいでしょうか。

気がつくことはビックバンドへの参加が無いことです。リリースされたアルバムを書いた方がよかったかもしれないですが。

🔵 アルバム『ソニー・ロリンズ・アンド・ザ・ビック・ブラス』

もう一度アルバムのタイトルに戻ると、ミュージシャンの活動をビ・バップの巨人達と始めてハードバップへ移り行くなかでモダンジャズの真ん中で活動していたロリンズにとって、この時期のビックバンドは時代逆行的です。

けれどもロリンズにはビックバンドでの録音の実績が無いです。不思議ですが。この点から新しい演奏への取り組みです。

またビックブラス、ビッグバンドという名前に隠れがちですが、録音にはギターも参加します。さらにB面のピアノレストトリオと独奏はレナード・フェザーとの組み合わせでは初です。初々しい録音として聞くのがこのアルバムの特徴となります。

🔵コンサートのようなアルバム

素朴に聴いていくともうひとつ気がつきます。本アルバムはソニー・ロリンズというスタープレイヤーが大きなコンサートホールでショーをやったとしたら、どう聞こえるのか。その様子を想像しレコーディングしてみた、と聴こえます。

アルバムの曲の配置が面白いです。A面は全合奏で始まります。現在の耳で聞くと、スーパースターがド派手な登場をしたり、巨大なショーの開始を予感させるサウンドです。B面の終わりは、ロリンズの独奏で終わります。静かにショーが閉じて行きます。

🔵聴後感 A面の世界

A面の始まり「グランド・ストリート」はオーピニングを飾るにふさわしいビックバンドらしいファンファーレから始まります。コルネットやトランペットが華を与えてサウンドの転換をする役目を果たします。
トランペットが既存アルバムと位置づけを大きく変えます。多くの楽器の音色をすり抜けるようにトーン高くロリンズは演奏します。スターの音色は埋没せず

「ファー・アウト・ストリート」、「フー・ケアーズ」、「ラブ・イズ・ア・シンプル・シング」と聴き進めると印象深いのがルネ・トーマスのギターとドン・バターフィールドのチューバです。

ギターは和音も出せるしシングルトーンも奏でることができます。ルネはホーン的な役目でシングルトーンでソロ演奏します。各曲にわたりソロへの入り方が絶妙です。他の楽器と合奏しながら切れ目なく自然にソロが引き継がれて頃合いをみて抜けていきます。

チューバは低音を担当する楽器です。ドンはロリンズと合奏をする場面があります。この合奏を低音楽器のベースが担うとビシッと引き締まますが、テナー・サックスにチューバが重なることで、もわっとしたスッキリしない心地良さが生まれます。

🔵聴後感 B面の世界

B面はピアノレストリオと独奏です。ピアノレストリオは3曲収録されています。この3曲を聴くとピアノ伴奏は確かに不要です。

「ホワッツ・マイ・ネーム」はロリンズのメロディメーカーぶりが発揮されます。「イフ・ユー・ワー・ジ・オンリー・ガール・イン・ザ・ワールド」は4ビートの上に流麗なメロディが展開し、曲の後半はドラムとのインタープレイです。

「マンハッタン」はドラムのドラミングがブラッシュワークに徹しているのか、音量が小さいです。そのため前面に出てくるのがテナーサックスとベースの音色です。二重奏の趣きがあります。

続く「ボディ・アンド・ソウル」が独奏です。聴いていると自分にだけロリンズが特別に目の前で演奏しているかの錯覚を感じます。またこの時代に独奏の録音はほぼ無いため、独奏と知りつつもリズム隊が演奏に加わることを期待した聴き方にもなるので没入感も出ます。

🔵終わりに

このビックバンド路線も続かなかったのが不思議です。ファンとしては、これはこれで良いんじゃないか、と感じるところです。メロディメーカーとしてのロリンズの良さがあります。独奏路線はロリンズの後年の活動で魅力を発揮するところです。

Sonny Rollins and the Big Brass

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