■筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)/線維筋痛症/HPVワクチン患者について

■筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)/線維筋痛症/HPVワクチン患者について

     Version 1.0 (2020/6/17)
      文責: 澤田石 順(内科医) jsawa@nifty.com
  文書の所在: https://note.com/sawataishi/n/n58677626dac8

▼はじめに
2010年夏、現「筋痛性脳脊髄炎の会」理事長の篠原三恵子さんと出会いました。衝撃でした。瞬間的にこれは大変な疾患だと直感。篠原さんからいろいろと教えて貰いました。こんな病がこの世にあることが驚きでしたが、社会的な疎外(家族等の私人からも政府の制度からも!)にも衝撃を受けました。
 それ以来、患者さんたちとかかわってきました。私は回復期リハビリ病棟の勤務医で外来診療はしてないので、ME/CFS患者の診断・治療には関与できないので、身体障害者の意見書を書くことを主としてます。新型コロナの余波で3月から身体障害者の意見書を記載するための外来診察(外来はしてない私ですが例外的に認めて貰ってます)予約は中止。5月から今日まで患者さんを1人も診察してなく、メールの問い合わせには「新型コロナがおさまるまでお待ちください」としてます。
 看護を確立した偉人=フローレンス・ナイチンゲールはME/CFSに罹患していたと言われてます。彼女にちなんで、毎年5/12はME/CFS+線維筋痛症(FM)+化学物質過敏症の啓発デーです。今年は新型コロナのために、リアルの場でのイベントは中止。そのため、ME/CFSについての社会的周知を広める活動は弱まってます。
 私、新型コロナでのPCR検査抑制問題とかの言論活動で2月からしばらく心が一杯となってましたが、少し落ち着きまして、ME/CFSについて知っていただくための言論活動を再開する気持ちになった次第です。

▼線維筋痛症、HPVワクチン接種後患者の症状はME/CFSと多く共通していること、そして、それら疾患の患者は身体障害者手帳の取得困難
 皆様に強調したいことがあります。筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、線維筋痛症、HPVワクチン(←子宮頸がん予防のため)接種後患者の諸症状の多くが共通していることであります。私は肢体不自由での身障の意見書を書いてきましたが、それら患者さん(200人くらい)の機能障害の内容を意見書でこのように記載してます。

 ◆四肢の機能障害: 筋力低下、筋力の持続時間短縮(筋の易疲労)、
 筋疲労からの回復の極端な遅延

 この機能障害と慢性のだるさ・疲労・倦怠感のために、日中の8割以上時間は臥床せざる得ない方が少なくないのです。トイレ往復は、壁伝いでやっとのことでできるという両下肢として2級の障害の方が多いです。握力が左右とも1~3kgくらいしかないために、両上肢とも4級とか。ME/CFSは医学教育でほとんど触れられてなく、現役の医師のほとんどは知らないし、少し知ってても経験はありません。なので、身体障害者1~3級の深刻な機能障害であっても、主治医が障害者手帳取得のための意見書を書くことができる都道府県の指定医を見つけることが極めて困難。指定医は知らない病気については意見書をなかなか書く気持ちになれません。なので、北海道から宮崎県の患者さんが神奈川の私にところに来る事例が200ほどにも。

▼手足の不自由のみでない多彩な症状
 三種類の患者さん達の中で重症な方は、寝たきりになっているだけでも大変ですが、他にも深刻な症状があります。おおかれ少なかれ頭痛、筋肉痛等の痛みがあり、睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、睡眠の質低下)、思考力や集中力の低下(霧がかかったような脳)、光・音・臭い・化学物質・電磁波への過敏、下痢や便秘、少しの身体負荷での頻脈や低血圧・・・等々。
 手足の不自由以外の、あちこちの痛み、高次脳機能障害、自律神経障害、様々な過敏症のいずれも深刻です。これほど多彩な症状があり、仕事や通学ができないどころか、寝たきりになっているのに、正しい診断を受けるまであちこちの医療機関をめぐり巡り、診断までに五年もかかることが少なくありません。
 診断されるまでの間に、精神科で鬱病と誤診されたり、医者から自分で病気を作っているとひどいこと言われたり、家族は怠けているとみなしたりという悲惨な疎外が多いことも普通の病気と異なる苦境です。
 診断されるとようやく病気だと認められて喜び安心しますが、対症療法しかないために、あまり良くはならない。幸いにも rTMS、和温療法、上咽頭擦過療法、免疫の暴走を抑制する分子標的薬とか、有効な治療法が見つかり、実践されてきてますが、そのような治療は一部の患者だけに有効であり、画期的な治療法はまだ見つかってないと言えます。新しい治療法のどれが目の前の患者さんには有効かを推定する方法は見つかってません。

▼三種類の病気の原因は?
 ME/CFSとFMについてはいろいろな仮説がありますが、未だに不明です。HPVワクチン患者については、ワクチンが「原因」ですが、ワクチン成分の何が原因なのかについては医学界者での共通認識には至ってません(免疫反応を増強するアジュバント説が有力)。

▼三種類の病気の誘因・引き金は?
 ME/CFSの多くは風邪症状(微熱、咽頭痛)から始まってますので、ウイルス等の感染が引き金であることが多いと推定されてます。なんという名前のウイルスが引き金となるのかについてはいろいろな仮説が提唱されてきましたが、ある特定のウイルスが引き金ということは否定されていると言えます。
 FM(線維筋痛症)患者にては、手術とか交通事故とか痛みを伴う事象がきっかけであったように見えることがありますが、誘因についていろいろと推定はされているもののよくわかりません。

▼三種類の病気の病態は?
 これについては脳内炎症の存在が強く示唆されてます。免疫の暴走による自己免疫的な病態が共通しているとはほぼ確実に知られてます。PET(陽電子を用いた画像診断)による脳内炎症検出、血中や髄液中の自己抗体の存在、血液中の免疫細胞の構成異常、血中のサイトカインの異常とかです。
 三種類の病気の患者にて、多くの事例において上咽頭炎が存在することが判明してます。先ほど言及した上咽頭擦過療法は上咽頭炎を緩和・治癒する手法でありました、その治療により目覚ましい改善を示した患者さんがたくさんおります。上咽頭は免疫に関与する部位ですから、その場所における炎症が上咽頭擦過療法により緩和すると、免疫の暴走が弱まるから、結果として脳内炎症がおさまるのかも知れません。
 いろいろな説があり、諸国の研究者による知見が積み重なり、だんだんと三種類の疾患の病態がわかってきており、共通していることが強く示唆されてきてます。
 病態が共通しているならば、治療法も同じであろうと考えられます。現に、堀田修先生(仙台の耳鼻科医)は三種類の患者さんに対して治療を積み重ねており、大きな成果が得られてます。ただし、その治療法が効かない患者さんも少なくはないのが現状ではあります。

▼三種類の病気の素因は?
 いろいろな病気がありますが、病気の「原因」が明確でないことはとても多いことを指摘いたします。原因という言葉を精確に定義することが困難なのです。
 例えば、インフルエンザという病気に関しては、原因がインフルエンザウイルスなのですが、インフルエンザウイルスが指について、指で口とか目にさわったら必ず発病するわけではありません。発病する「素因」があって初めて発病します。素因は仕事が忙しいための睡眠不足による「体力低下」(免疫力低下)もあるし、糖尿病があるための免疫力低下、高齢であること自体による免疫力低下とかいろいろとあります。インフルエンザという病気の素因は、一時的なものもあれば、慢性的なのもあるわけです。
 三種類の病気のうち、ME/CFSは風邪症状が誘因となることが多いことが知られており、HPVワクチン患者の場合はワクチンが誘因(原因)ではあります。しかし、風邪ひいた人でME/CFSを発病する人は極めて希であり、HPVワクチン接種後に病気になる方は推定で5千人~一万人に1人くらい。私が診察したME/CFS患者100人ほどの中で、インフルエンザワクチン接種後に発病した方が2人いました。両人ともそれまでまったく元気だったのに、インフルワクチン接種後に仕事あるいは学業が継続できなくなり、自宅で療養してます。
 ME/CFSの誘因にはいろいろとあることは確実ですが、ウイルス感染だけでなく、ワクチン接種もあるのが事実かもしれません。HPVワクチン患者に関してはそのワクチンが誘因(原因でもある)であることはほとんどの事例で確実でありましょう。
 しかしながら、ウイルス感染、ワクチン摂取の人数は莫大であり、そのごくごく少数者のみが二つの疾患を発病していることからして、「素因」なくして発病しないと理屈では考えられます。
 素因は何なのでしょう? 圧倒的大多数の人にとっては無害な身体の外からの物質(ウイルスとかワクチン)が身体に入って免疫が暴走するから発病すると私はほとんど信じてます。免疫が暴走するという素因があるからこそ発病すると簡単に私は言いましたが、具体的に「素因」を示すことはできてません。
 素因について最も単純な仮説は、アレルギー体質ですが、ME/CFS等の患者において花粉症とか気管支喘息が統計学的に有意に多いと主張する医学論文を見つけたことはありません。
 この十年医学論文などを渉猟してきて、素因はこれだろうと半ば信じているのはミトコンドリア機能異常(ミトコンドリアの脆弱性)です。ミトコンドリアはすべての細胞にある微小器官で、ATPというエネルギーを産生します。ミトコンドリアの機能が低下すると、細胞のエネルギーが不足するので心筋、骨格筋、脳細胞などの機能が低下するので、体力がおち、脳の機能も低下します。ME/CFS患者におけるミトコンドリア機能低下はイギリスの Sarah Myhill医師による複数の医学論文に明確に示されてます。
 おそらく、ME/CFS、FM、HPVワクチン患者における筋力低下等はミトコンドリア機能低下により説明できますが、発病前は元気だったのですから、ミトコンドリアに問題があったわけではないと言えなくはありません。しかしながら、ウイルス感染とかワクチンによる刺激が、もともと存在したミトコンドリアの脆弱性(遺伝子レベルで)故に、何らかの機序で現実にミトコンドリアの機能低下をもたらしたとの仮説は成立すると思います。
 ちなみに、ミトコンドリア遺伝子(のほとんど)は母から子供に遺伝します。ME/CFS患者において、母が病気で子供も発病との事例は知られており、一卵性双生児の2人が発病も知られてますが、父が病気で子供も発病という事例は私が検索した限りでは見つからなかったです。
 ミトコンドリアは、細胞死二種類のうち壊死(necrosis)と自然死(apoptosis)の後者に関与します。壊死による細胞死では有害な物質が残り、それが異常な免疫反応の引き金になったりしますが、後者のアポトーシスだと綺麗な細胞死をもたらすのです。
 要しますと、ミトコンドリアの機能低下は細胞のアポトーシスという望ましい細胞死よりも、有害なネクローシスを増加させるのであろうと。ミトコンドリアの機能低下が壊死の割合を増加すると、免疫の暴走の引き金になるであろうと理論的に考えられます。
 なんと、話が長くなりました。いろいろと申しましたが、興味ありますれば以下のところをみてみてくだされば幸いに存じます。
 
☆2018~ 国立精神神経医療研究センター(NCNP)の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)研究班→ https://mecfs.ncnp.go.jp/
☆AbemaTV 2019/11/18放送
「突然発症した友人の言っていることが理解できなかった」原因不明で治療薬もない #筋痛性脳脊髄炎 / #慢性疲労症候群の実情とは (47分)→ https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p1479
↑MEの会理事長の篠原さん、新潟の患者さん、国立精神・神経医療研究センターの山村隆先生ら出演してます。

▼最後の一言
 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、線維筋痛症、HPVワクチン患者の200人ほどを診察して、身体障害者の意見書を書いてきました。ほとんどすべてのケースで障がい者として認定されました。症状の多くは共通してました。
 共通する病態は脳内炎症だと、症状と膨大な医学論文を根拠として信じてます。
 もともとの素因(ミトコンドリア遺伝子の脆弱性と私は半ば信じている)があり、誘因が加わり、それから発病したのだと考えてます。
 皆様に訴えることは、これら三種類の疾患が現存することを認識していただきたいということが第一。知る方が増えるとクラウドファンディングによる資金援助の量は増えましょうし、知った方がそのことを広めることで社会的認知が進み、政府による支援が強まることにもつながるでしょう。臨床医あるいは研究医の1人以上が知るようになることを第二に願います。医者の役割は大切です。診療する医師が増えること、身体障害者の意見書を書く資格を有する指定医の中で現実に意見書を書く医師が増えることを願います。

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