「粗悪なネット記事」に出会っても腹が立たなくなる雑学
これから、
「ネットで粗悪な記事に出会った場合は、晒すよりもスルーしたほうが、実は相手のダメージは大きいし、みんなも幸せになる」
という話をしたいと思います。よろしくお願いします。
なぜこの記事を書こうと思ったか?
ご承知の方も多いかもしれませんが、今週あるネット記事が、とあるTwitterの界隈で話題になりました。
なるべく主観を入れずに書きます。
その記事はワイン選びに関する手引きを解説するもので、内容を要約すると
・白ワインやスパークリングワインを味わうなら、グラスの形はどんなものでも構わない
・安くておいしいワインを選ぶコツは、ヨーロッパ産のものを避けること
・ワインに杉材の割り箸を漬けると、美味しく変身する
といったものでした。
これに、ワイン好きな方や、仕事でワインに携わっている方々から
「解せない」「誤りだ」「悲しい」という反応が寄せられました。
なかには、記事の掲載元の運営会社へ問い合わせをされた方もいらっしゃり、
そのためか当該の記事は一時公開停止を経て、現在は一部の断定的な表現を改めたのものに修正されています。
ここまでが経緯の説明です。
……さて、それを見ていた僕はというと、
Webメディア側ではなく、反応をしていた「プロの方々の側」にもどかしく思うところがあり、
嫌味と思われないかどうかドキドキしつつ、下記のようなツイートをしました。
このツイートに、
ありがたいことに早急にいい反応が集まったため、内容を掘り下げてひとつの記事にさせていただきます!
雑学程度にお楽しみいただければ幸いです。
また以下の言及は、上記のワイン記事の掲載媒体をはじめ、特定のWebメディアを対象としたものではありません。ご承知おきください。
「粗悪な記事」を上げるメディアは何を考えているのか?
食の分野に限らず、
「健康」「贈り物選び」「パソコンのトラブル」「ゲームの攻略情報」など、ネット上はあらゆる疑問・悩みに回答する記事で溢れています。
そして、それらの多くは「多数のアクセスを獲得する」ことと「読者をサービスへ誘導する」ことを使命として作られています。
ここに、その分野に詳しい「玄人」が満足できる記事がネット上にほとんどない理由が隠されています。
玄人向けの記事は、出しても“損”
ネット記事の作成・公開は、
・よりアクセス数が稼げる見込みのある内容
・記事中の広告をクリックしたり、読後にサービスに登録してくれる人の割合
を追求して、収益を上げることを目的として行われる「事業」です。
そうなると、記事の内容は自然と、人数ボリュームの多いターゲットに向けたものになります。
つまり「素人」「ビギナー」を対象にしたものを作成するのが基本です。
反対に、「玄人」を相手にした場合はどうなるでしょうか。
もともと、「素人」に比べて人数があまりいませんから、
1記事あたりさほど多くの人に読んでもらえず、収入が発生しづらくなります。
また、詳しい人を満足させる内容の記事を作るのも大変です。
そのため、制作費が収益をこえて、事業が傾いてしまう可能性が高まります。
突然ですが、ここでクイズです。
Q:
以下の表をみて、あなたが収益目的のメディアを運営しているとしたら、「素人」「玄人」どちらに向けた記事を多く作るべきと思うでしょうか?
これだけの基準で答えを出すのも本当は強引なのですが……、
ほとんどの方は、「素人」をターゲットにすることを選びますよね。
ここまで分かっていただけた方に、ちょっと寂しいことを言います。
あなたが何かしらの記事を読んで「粗悪だな」と思った場合、ただあなたが記事のターゲットではないだけの場合がほとんどです。
メディア側も正直、
「詳しい人には面白くない記事」であることはわかって公開しています。
とはいえ、「不特定多数の人の目に触れるのだから、しっかり作ってくれ!」と思いますよね。
クリックした記事が期待はずれだったときはとても残念だし、
時間を無駄にされて腹立たしい気持ちになるのは当然です。
僕自身も非常によくあります。
でも一方でそれは、ファストフード店に行って、高級店のサービスを期待するような行為でもあったりします……。
(業態に関わらず、できる範囲で最大限きちんとしたサービスをするべきなのはホントそうです)
ちょっと話がそれてしまいましたが、
自分の得意分野に関してネットサーフィンをする際は、
「ジャンクな情報に遭遇する確率のほうが高い」と思って、
時間つぶし程度に楽しむほうが、気がラクなんじゃないでしょうか。
ちなみに今、「玄人」でも楽しめる情報は、登録制・課金制のWebメディアに多く掲載される傾向があります。
理由は、Webは本の流通に比べてコストが低く、少ない分量の記事でもコンテンツとして成立しやすいため、紙媒体で活躍してきた書き手やメディアが、集まってきているからです。
「ずさん」「言い過ぎ」な記事があふれるのは、AIと人間のせめぎあいのせい
主に解説したかったことはもう終わったので、ここからは+αの考察を、シンプルに挙げていきたいと思います。
アクセスした記事が「簡単すぎて期待はずれ」なだけならまだしも、明らかな間違いや、おかしな断定が含まれていることもありますよね……!
この原因として考えられるのは、
・Googleは「記事の満足度や人気」はわかっても、「記事の正しさ」はわからないから
・メディアの初期段階において、粗製乱造でもたくさん記事を投下することは、アクセスアップに有効だから
・Webの記事は、紙媒体と違って文句を言われたら修正ができるから
・断定をすることで、頼もしさを感じてサービスに登録する人がいるから
などです。
Web記事の提供者は、Googleをはじめとした検索エンジンでの表示順位を非常に気にします。
理由はもちろん、アクセス数が大違いだからです。
表示順位がどのように決まるかというと、
タイトルのクリック数や、読み手のページ滞在時間・読了率などによって
AIが機械的に判定しています。
いくらGoogleのAIでも、内容の正誤判断はまだできないとされていますので、かわりに「スクロール」や「クリック」や「スクロールをやめて注目する」といった
読み手のおこなう「操作」を頼りに、記事の「満足度」を判断してページの表示順位にしているのが現状です。
そのため、記事の内容が薄かったり、ずさんだったりしても、僕らがタイトルをクリックして、最後まで画面をスクロールしてしまえば、検索順位はだんだん上がっていくことになります。
先ほど「主に説明したいことは終わった」と言いましたが、
もう一個残っていました…。
「粗悪な記事」の代表例である…
・記事に大げさなタイトルが付いていて中身が大したことない
・分かりきった話からだらだらと始まって、最後まで内容がほぼない
…といったネット記事が世に少なくないのは、
「記事のクオリティを上げる」努力ではなく、
「Googleの評価メカニズムにウケる操作を僕らにさせる」テクニックで
アクセスアップをしようとしている書き手がいるからです!!
そして、
「『粗悪』な記事に出会った時は、まずスルーを心がけよう」と
僕が思う理由もこの点にあります。
SNSで、警告や提言の意味で記事をリンクしたとしても、そこから読む人が増えれば「満足度の高い記事」と判断され、検索順位が上がってより多くの人の目に触れてしまうかもしれないのです…!
これはメディア側からしてもメリットだらけで、収入源であるアクセス数を増やしてくれるうえ、プロによる記事チェックを無料で受けられたようなものです。
でも…誤りを放置するのはマズくないの?
「ずさんな記事の書き手を喜ばせることになっても、
記事を読んだ人のことを考えると、誤りを指摘したい…!」
ここまで読んだうえでも、このようにお考えになるプロの方のほうが多いと思います。
ここで最後に、
「問題のある記事ほど、すぐになくなる・誰もアクセスできなくなるよ!」
という、僕の考えをお伝えしたいと思います。
すべては「Webメディア運営は競合が激しい」ことから説明できます。
「いま、どんな分野の記事を書けば儲かるか」は、常に多くの企業や個人が探し求めています。
検索数や広告収入単価に対して、既存のメディアが少ない分野はすぐに発見され、競合がうわっ!と押し寄せてきます。
前述の通り、難しい内容の記事は求められていないため、サーバー維持費、開発費、クラウドソーシングでの記事発注費があれば、中小企業でも始めやすい事業なのです。
そして、競合同士で記事の検索順位の奪い合いが始まると、その分野の記事群のクオリティはあっという間に上がります。
例えば、
・専門家の監修を付けるメディアが出はじめる
・専属のライター部隊を組織して記事のブラッシュアップをはじめる
・その分野に実業をもつ老舗企業が、新事業としてメディア運営に参入してくる
など、一気に激しい争いが始まります。
こうなると、誤りや誤解を含む記事は、順位を下げる要素を潰すために日々修正されていきます。
反対に、記事品質とは無関係のテクニックでしか戦えなかったメディアは、検索順位を落としてほとんど記事にアクセスが発生しなくなるでしょう。
そして、いずれ事業として継続不可能という判断をされることになり、記事自体もネットから消え去ることでしょう。
検索順位によって、アクセスってどのくらい違うの?
ちなみに、記事にアクセスが発生する回数において、
Googleの検索結果「1位」と、表示が2ページ目以降になる「11位」では、100倍前後からそれ以上の差が生まれるのが通常です。
試しに、「ワイン 選び方」という検索ワードを例に、
“aramakijake”という検索数予測ツールで、
検索エンジン経由のアクセス数の差を調べてみました。
全体の検索数は、およそ「同期間の1位のアクセス数の5倍」と言われています。
つまり、月間約2300人いる「ワインの選び方」を知りたくて検索した人のうち、7人(約0.3%)しか11位以下の記事にアクセスしない、という予測になります。
ここで、ちょっと思い出して欲しいのが…
「SNSにリンクを貼ることで、アクセスする人が増えてしまう」という件です。
放っておけば「2300人中7人」(いや、それすら行かない)のアクセス数になると思われるダメな記事に、プロやそれに近い方のSNSからリンクが貼られ、見に行く人が増える影響も、この予測で実感していただけたかと思います。
ご説明したいことは、これでホントのホントに終了です!
この記事でおこなった想定のように競合が激しくならず、全体的な質の向上が起こらないこともありますし、この記事の趣旨も、SNS上での指摘・発信を否定するものではありません!
改めて、タイトルにあるように、こういう側面もあるんだよという「雑学」としてお楽しみください!
これを説明してるあなたは何者だ?
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます!
申し遅れましたが、僕は「サワサキ」と申します。
解説中にあった、Webメディアの「専属ライター部隊」にあたる仕事をしている者です。
企業が運営するWebメディアで、検索順位の向上を使命に日々リサーチや執筆・画像作成・Webページのコーディングなどをさせてもらっています。
なぜそんなヤツがなぜ、Twitterの飲食アカウント界隈での出来事を語っているかというと、
お酒や料理好きがこうじて、Twitterを通じたイベントに参加・主催するうち飲食関係の方々と仲良くさせていただくようになったのがきっかけです。
今回は、はなはだおせっかいとは知りながら、
冒頭でお話ししたやりとりをTwitter上で見たのをきっかけに、
コンテンツ作成側の思惑や背景を知ることで
「今後のイライラがちょっと減って、日々ネットを使う役にも立つ読み物ができるのではないか」
と思い、本記事を書かせていただきました。
お読みいただいた方にとって、そうであってくれたら大変嬉しいです。
以上、何気にちゃんとした文章としては初noteでした!
ありがとうございました!!
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