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元酪農家娘が語る牛乳の話

給食が止まってしまい牛乳がヤバイ!


という話題がSNSを飛び交っているのに、生鮮品で日持ちがきかないためかスーパーにいっても特に牛乳は売り切れていない。

ラーメンとかパスタは売り切れているのに!ラーメンとかパスタはコロナに関係ないだろ!(単に子供がいるご家庭にとって楽なメニューだからかもしれないけど、棚すっからかんにするほど買いあさる理由とは>?)


牛乳を買え!乳製品を買え!(酪農家育ちのクソデカ大声)



ところで、何で牛乳が残るとヤバいのかについてお話します。


①牛乳は急に減らせない

ホルスタイン様は生き物ですので、いらなくなったから今日は乳を出さないでといっても無理です。毎日乳搾りをせんと、普通に病気になります。人間も赤ちゃんがおっぱいのんでくれないからって放置していたら病気になるからね!哺乳類共通だからこれ!

なので、牛乳の生産量は急に減らすことはできないのです。

そして、牛乳は基本的に農協などを通して乳業に買取してもらいます。しかし、牛乳の需要が減ると買い取ってもらえません。

その買い取ってもらえない牛乳はどうなるかというと、全部廃棄です。

明日急に牛乳の需要が減っても、牛さんは授乳期間が終わるまで乳を出しますので、買い取ってもらえなかったら廃棄です。

特に補てんとかはありません。

何故なら農家は自営業だから!(法人化している場合もありますが、基本的に乳業の直営とかでない限り補てんはないと思います。そういうの向けの保険があるとかいう話も、少なくともうちが農家をやってた頃には聞かなかったですが、今はあるのかな?)


②牛乳を勝手に売ることはできない

これが野菜や果物でしたら、SNSなどで「助けてください!美味しい〇〇がこのままでは廃棄です!お安くしますから買ってください!」とできます。

牛乳に関してはこれがほぼできません。

なぜかというと、乳業に牛乳を売っている個人農家や農業法人というのは、ほとんどが牛乳を出荷して得る「乳代」(要するに売上)で生計を立てているので、生乳を自分で販売するルートを持たないからです。

牛乳を売るには殺菌加工、品質均一化、パッケージ加工が必須。その辺の瓶に入れて測り売りなどもってのほかです。

観光農場やいわゆるブランド牛乳(自前の工場や殺菌加工機材を持っている)場合を除き、個人農家が第三者に牛乳を勝手に売ることは衛生面的な意味でダメです。

そもそも、絞ったばかりの牛乳というのは乳脂肪を液体にしているようなもんです。市販の牛乳とは全然違います。ホイップ前の生クリームをそのまま液体で飲むのに近い。それこそ、飲み慣れていない人がガブ飲みなんぞしたらGO TO TOILET!です。

市販の牛乳に書かれている「成分無調整乳」というのは「カルシウムとかそういう成分に影響する添加物入れてません」という意味です。低脂肪乳とかはカルシウムとかビタミン添加するので成分調整乳です。

というわけで成分無調整乳も実際には殺菌加工の後、乳脂肪は飲みやすく一律になるよう調整されます。3.5とかの数字は乳脂肪分ですので、この数値が高いほど脂肪分が濃い。

私は酪農家育ちなので、自宅で絞った牛乳を自宅で煮沸殺菌したのを飲んで育ちましたが、沸かして熱殺菌しただけの牛乳は2日3日持てばいい方です。

あと、市販の牛乳を飲んでいるとまずわからないことですが、牛乳の味は季節によって差が激しいです。

具体的にいうと青草いっぱい食べる夏の牛乳は、青臭くて不味い!

冬のサイレージ(発酵牧草)や飼料だけ食っている、寒い時期の脂肪溜めこんでいる時期の牛乳は美味い。


ので、1年中同じ美味しさを保てる牛乳メーカーの神技術に感謝してくれよな、みんな!!!!!!青臭い牛乳とか生クリームやだろ!!!!!!


③牛乳・乳製品が高騰する

牛乳の需要が回復した頃には、①の逆のことが起こります。

というのも、ホルスタイン様が子牛を生んだ後の授乳期間に乳を搾って、ありがたく牛乳を頂戴しているわけです。

だけど、牛乳の減産が長期間にわたった場合、廃棄のリスクを下げるために、農家は牛の頭数を減らす、搾乳計画の練り直しをしなければなりません。

牛の頭数を減らすのは、売ったり処分したり、ということになりますね。

搾乳計画の練り直しというのは、これがちょっとややこしいのですが、基本的に牛に子供を産んでもらわなければ牛乳を生産できないわけなので、その授乳期間が一定の生産量になるように牛の妊娠期間を計画的に調整しているわけですね。

常に、飼っている牛の全頭が搾乳できるわけではなく、子供を産んで授乳期間が終わった牛さんは次の妊娠&搾乳に備えていっぱいご飯を食べてもらっていい感じに休んでもらわんとならんのです。

だから減産=農家にいる牛そのものが減ったか、授乳期間を終えている牛が多くなっているということ。

つまり、牛乳めっちゃ必要になったから戻して!といっても急には増えない!上手いこと需要回復する時期を見越して調整できたとしても、数か月とか生産量が落ちたりするブランクができたりするんですね!

昨今は、ほとんどの個人酪農家が後継者がいないなどといった理由で「いつ農家を畳むかチキンレース」をやっているような状態です。法人化で生き延びているところもありますが、個人農家はばかすか潰れています。

廃棄が長期間続くレベルの損害だと、経営やってられなくなって離農する農家も増えますので「生産者自体が減っていて元に戻せない」というリスクも爆上がりです!

そうするとどうなるかというと、需要に供給が足りなくなり牛乳・乳製品の価格が高騰します。


という①~③の理由によって、牛乳の需要落ち込みは生産者だけではなく割とマジでダイレクトに消費者にも跳ね返ってくるんです。

我が家はとっくの前に離農しているのですが、今までにも「日本人には乳糖耐性がないから牛乳を飲んでもムダ」とか「牛乳には成長ホルモンを阻害する」とかマジ根拠がないナンチャッテ科学者根拠不明のクソデマを受けて、何度か無意味に牛乳廃棄の憂き目にあいました。古い話だと「グリコ・森永事件」の時も酷かったそうです。

そして、減産したあとにバターなどが値上がりし、デマに踊らされた消費者がこういうわけです。


「乳製品、高くて買えないんだけど!」


お前らのせいだ!(釘バットフルスイング)


今回はデマではなく、給食の急なキャンセルが原因なので、栄養士さんも胃が痛い話だと思います。

牛乳を卸している先の工場が給食用の牛乳か、乳製品、乳加工品用の工場かは、農協の管轄によって違ったりするので、給食キャンセルであまった牛乳がそのまま市場にあふれるというわけではありません。

ただ、乳業はこの先給食で消費されるはずだった牛乳の買い付け量を絞らざるをえません。脱脂粉乳とか日持ちする乳製品もありますが、いくら牛乳があまったからって需要以上のものを生産する必要性はありませんからね。


というわけで、牛乳を飲もう!乳製品を買おう!

元農家の娘からは以上です!



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