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【小説】異世界転移した同人ショップですが、通常営業中です。(18)【完結】

第18話 異世界同人ショップ、通常営業中

 もしもーし、アニゲーブックスイケオウル店、小田でーす!
 え? テンション高いですか? いやいや、テンションもあがりますって。こちらの世界の同人誌、続々入荷予定ですよ!
 はい? ええと、報告ですか。ええ。はい。そうですけど。
 へ? や、やっとですか? やっと俺たちが異世界にいるって信じてもらえたんですか? よかったー!
 え? また大騒ぎになってる? そりゃなりますよ。ええー? 部長、俺が送った異世界の写真、証拠として提出しちゃったんですか? 何か恥ずかしいなー。
 いやいや、こっちは特殊メイクなしのオークやエルフやドワーフがバンバン店にきているんですからね。もう俺はすっかり慣れましたけど。そりゃ日本じゃコスプレじゃないの? マジ? って感じですよね、ハイ。
 ああー。異世界のことが何もわからないのに荷物を勝手に送るなって話になっているんです? いやいや、送ってください。こっそり、こっそりで! こっちもこっそり送りますんで!  
 とりあえず、そっちからも戻れる方法は模索してくださいよ。こっちでも安全に日本に渡る方法、色々試してはみているんで。
 いやいや頼みますよ。俺、そろそろ日本の飯が恋しいんですよ。戻ったら寿司奢ってください。あ、この店から寿司の出前したら届くと思います? うーん、腐りそうなんで食品はまだ試したことがないんですよねぇ。
 あ、写真見ました? コミウォのアニゲ積みタワー。俺、久々にやりましたよ。ええ、店の方は、大野に任せました。そっちの写真も送りますね。
 異世界専売っていっても、異世界にいる内はあんまりインパクトがないんで、各店の配本数決まったら連絡してください。再版かけますんで。印刷所から直納すれば、本が届くタイムラグもないでしょう?
 コミウォの時に委託契約とったBLの作家さんも、そろそろ本が入荷しますね。こちらは本の冊数が少ないのであんまり数出せないです。あ、そうか。じゃあ通販に回していただけます? はい。はい、よろしくお願いします。
 あ、この前話したドワーフさんからも、同人誌の作成依頼が来ましてね。そうです、すっかりこっちのコミックになじんだみたいで。
 元々好奇心が強いんでしょうねぇ。芸術家ってそういうところありますよね。こだわりだしたらどこまでも、みたいな。
 みんな元気でやってますよ。
 お疲れ様です。今度また、アキハーヴァラのケモミミ娘の写真、送っておきますね。

「アニゲーブックスイケオウル店、開店しまーす」
 アニゲーブックスイケオウル店は、今日も元気に通常営業中だ。
 コミウォ以来、新規の客が圧倒的に増えた。俺とセージの名刺営業のたまものである。
 同人文化がない土地だけに、さすがにすぐに同人誌の制作と委託依頼の相談が増えるわけではなかったが、同人誌説明会を行うための予約チケットは即日完売の大盛況だった。
 異世界初委託となるミシェルの同人誌も、良く売れている。
 何せ、初参加にしてコミウォを制した期待の新星だ。話題性としては十分だった。
 そう、ミシェルはコミックウォーズの最高売り上げを出したのだ。これはコミウォの歴史に残る快挙である。
 初参加で成人指定までついていたのに、コミウォの頂点に立った学生の作品となれば、とがった性癖も武器として機能する。己の性癖を信じて突き進んだことがプラスになった。
 この前ミシェルは、この世界におけるリアルふたなりだという友人と一緒にやってきて、仲良く本を買って行った。そういえば、彼女の本のヒロインたちは、ミシェルとその友人に似ている気がする。メロディがリアル百合だとハァハァしだしたので、適度に遠ざけておいた。おさわり厳禁。
 アイリーンのBL本も、少数ではあるが明後日には入荷する。こちらの技術で製本した本も、今後は積極的に取り扱っていきたい。
 ところで、ミシェル、アイリーンに続き、三人目の同人委託を検討してくださっている例のスゴク・ツヨイ氏であるが、ここ最近ではすっかり常連となっている。
 今では姫様のとりまきであるオークさん以上に、この店に通い詰めているといっていい。そして、彼もさりげなく姫様と仲良くなっている。さすがオタサーの姫。ドワーフも落とした。
 そして、今日は新入荷の商品に夢中である。
「これは……芸術だ! なんという技術力!」
 彼が手に取って感涙しているのは――。
 セージがこっそり耳打ちしてくる。
「あの、いいんですかね。俺としては、あんまり推し作家にそっち方面いってほしくないんですけど……」
「んん、まぁ、多分感動しているのは、造形に対して……だと思うぞ?」
 セージに対してさりげなくフォローをいれるも、エロ大好きあんたまが「お目が高いわ」などといい、台無しにしてくれる。
 スゴク氏が手にしているのは、人気エロサークルのエロエロおっぱいマウスパッド。
「芸術は、同人は自由であるべきなんだよ……」
「異世界にあかん性癖もちこんでません? ふたなりの次はおっぱいマウスパッド」
「年齢制限を守っていればOK! ふたなりやおっぱいには成人向け要素が含まれるが、その言葉自体は全年齢向けです!」
「屁理屈!」
「ちがうぞセージ、これは自由だ! 法律に違反していなければ自由! ご予算の限り自由! それが同人活動!」
 そう、この店では、どんな表現も、違反がなければ受け入れられる。たとえ並行世界のイケオウルであっても。

 ――自由で奥深い。それが同人専門店だ。

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