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原作ファンが観た映画『夏への扉』感想

本当は10日前くらいに観ていたのに感想を書くのが遅くなった。

『夏への扉』はロバート・A・ハインラインが書いた海外SFの古典である。

驚いたことに、2021年の日本でまさかの映画化をされるまで、本国でも映画になったことがなかったという。

まぁ、理由には何となく心当たりがあって、ハードなSF大作にするにはジュブナイルの雰囲気が強すぎるのだ。

それと1950年代当時からみた1970年、そして2001年と、「途方もない未来」の情景が、実際にその年代に近づいて追い越しているうちに、現実とのズレが大きくなっていくばかりだったからではないだろうか。

まぁ、要するに古い時代の人間が考えたスーパー未来が、リアルにその年代になってしまうと荒唐無稽になってしまう。そうすると、もう時代を先に先にとずらしていくしかなくなる。ので、あえて映像化しようと思う先人がいなかったのではないか。

ということで、そんなSFを果敢にも映像化に踏み切ったのが日本製映画『夏への扉 キミのいる未来へ』である。

ネタバレ上等の解説をする前に、原作ファンがこの映画を観る上でここはハードルを下げておいた方がいいだろうという点を挙げておく。


①ダン=主人公の発明したロボットは全種類出てこない

そもそも、現在ではとうに実用化されているとか、ソフトウェアがその役割を果たしているロボットがあるので、全種出すのはまぁ無理ですね。おそうじガール(ハイヤード・ガール)はチラ見せで出てきたけど、あれも現代ではほぼル●バだから。


②ピートのバトルは控えめである

原作のピートはきままに外に行っては喧嘩をして、ジンジャーエールがやたらと好きなネコチャンであるが、もちろん現代の価値観ではネコは基本室内飼いであるし、ジンジャーエールも飲ませてはいけない。ピートが人間相手に果敢に戦うシーンを撮るには、ネコチャンに人間を引っ掻きまくるハードな演技を要求するし、それを無理にやらせるのはほぼ動物虐待であるので控えめでも仕方ない。扉を探して回るピートとボストンインのピートはちゃんといます。


以上のことは割り切って、心のハードルを下げておくと素直に楽しめる気がします。

色々言いたい事がある人もたくさんいると思うけど(私も気になるところはあったし)、私は観て良かったと思った映画でした。興業的には苦戦しているようなので、観たいけどどうしよっかなーと思っている人には、ひとまず勧めておく程度には面白かった。



それではネタバレ感想は下にスクロール!














先に述べた通り、原作は1950年代の発表。

つまり1950年代から見た1970年代、そして2000年、2001年が描写されている。2021年の人間が2050年を空想しているようなもの。

しかし、技術革新のスピードがハンパない現代社会から2050年の説得力を持たせるのは難しいし、そもそも映画という90分から120分の枠におさめるにはあまりにも途方もない世界を描きすぎるとついていけない人も多かろう。

原作ではその途方もない世界の描写も魅力のひとつではあるのだけど、2001年も20年以上前である我々にとって、ハインラインが想像した2001年はすでにファンタジーの領域なのだ。

ということもあってか、日本に舞台を移した『夏への扉 キミのいる未来へ』は、1995年から2025年という「何となく想像がつく過去と未来」になっている。IF世界線でも説明がつく範疇だ。

もっとも、1995年に素晴らしいヒューマノイドの原型を作っている主人公は、あくまでフィクションの存在なんだけども、はじめの段階で3億円事件の犯人が捕まったニュースが流れていたりと「これは別の世界線」だというフラグがしっかりたてられていた。意外と芸が細かいのだ、この映画は。ハイヤードガールもチラ見せするし。

登場人物の名前がベル→リン(鈴)、リッキー→璃子、トゥイッチェル博士→遠井博士、サットン夫妻→佐藤夫妻と、名前も微妙に被せてきている。芸が細かい。

ストーリー自体は、舞台を日本に変えて年代を大幅に入れ替えたこと、2025年代に(恐らく原作で言う万能フランクの後継機、護民官ピートにあたる)アンドロイドピートが主人公のサポート役を担う以外は、原作とそんなに変わらない。ちゃんと原作に沿っててむしろびっくりした。(舞台が違いすぎるからもっと変わるかと思ってた)

アンドロイドピートの藤木直人は、この映画のかげの主役と言っても構わないくらいの存在感だった。アンドロイドらしい動きが絶妙だったし、人間の主人公に反して瞬きもしない。笑い方や喋り方にロボットらしさが見える。それでいて「めんどうくせえ(棒読み)」とか絶妙な人間っぽさを出してくる。もう藤木直人に助演男優賞をさしあげてほしい。

あと、ネコチャンのピートは予想以上に良くて、特に冒頭の扉を開けて回るシーンとかは「ああ、これこれ!」ってなった。パスタちゃんとベーコンちゃんという名前のネコチャンが2匹1役を演じ分けていたらしい。スタッフロールにも名前が出てきてウフフってなった。

ネコ成分が少ないという意見もあるようだけど、そもそも原作でも中盤はほとんどネコピートが出てこないし、ほぼ原作通りだと思うな……。映画オリジナルキャラのアンドロイドピートがキャラ濃すぎるから、というならそれはそう。(でもアンドロイドピートがいないとこの映画、話が詰むと思う)

リッキー=璃子役の清原果那ちゃんは可愛かった。原作の通りの年齢差でやってしまうと、11歳の娘を十年後にコールドスリープするようにそそのかしたみたいになるので、それを現代日本でやっちゃうとな!ってところでもあるので、璃子のところはアレで良かったと思う。『キミのいる未来へ』というサブタイトルがWミーニングになってたんだな!最初ちょっとダサい副題だと思っててごめんな!

山﨑賢人は、私はファーストコンタクトが『キングダム』で、信役があまりにもハマっていたイメージが強すぎたので科学者役ってどうなのかなぁ?と思っていたのですが、すんなり入りこめた。ピートにツッコミ入れているシーンが好きだ。

残念だったところをあげるなら、序盤の騙されて全てを失うシーンと、遠井教授にあってタイムトラベルをするシーンがめちゃくちゃ駆け足だったところだろうか。まぁ、ベル=鈴に関しては原作でも割とさらっとネタバラシされるのでいいとしても、タイムトラベルは原作的にも重要なシーンなので、もう少し丁寧だと良かったかな。でも、削らなかったら冗長になったかもしれない。難しいところだ。

総合的に見たら、星5つのうち4つくらいはつけてもいい出来だったと思う。

LiSAさんの曲は好きなんだけども、あのラストシーンで流すんならどちらかというと、作中で二人の絆を感じさせるシーンで使われていたミスチルのCrossroadを流してほしかった気がするな!

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