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映画『ブライトバーン』のツッコミ所を考察した

基本的には、滅多なことでは酷評しない(つまらないと思ったものは興味もないし、興味があれば多少なりともポジティブな感想を書く)私なのですが、友達がたまたまチケットを譲って下さったので観に行った映画があまりにも虚無だったので、備忘録的に書き留めておく。

友達に失礼ではないかと言われるかもしれないが、ツイッターでフォローしあってウン年目のタメで会話できる方だし、何よりもその方も「酷評していいよwww」という似たような感想を抱いていたので……。

というか、よくよく考えてみるとシナリオを作る上にやったらいけない見本としては非常に優れているなと感じたので、そういう意味での備忘録です。

すでにクソミソに言ってしまったんですけど、もちろんこれを面白かったと感じた方はいるだろうし、感性が違うだけだと思うのであくまで個人の感想としてお読みください。

作品はタイトルにもある通り『ブライトバーン 恐怖の拡散者』です。

マジで一言も褒めていないし、全面的にネタバレしています。以上を踏まえて、ご了承いただける方はスクロールしてどうぞ!
















いや、本当に、大体のものにちょっとはポジティブなことを言う私が、珍しく「褒めるところがひとつもない」と思ってしまったんですけど。

コンセプトが「スーパーマンがもし悪の存在だったら」的なオマージュ作品らしいのですが、まずオマージュ元のスーパーマンについて「マントに青い服のすごいパワーを持ってるマッチョなアメコミヒーロー」程度の知識で観に行ったこともあって、このコンセプトに対して何の感情も持ち合わせていないんですよね、私。

で、オマージュ元のスーパーマンについてある程度の素養がないと、ある種の壮大な二次創作IFと言えるこの映画を楽しめない方が多いのではと思います。

バタフライエフェクトという元ネタを知らなくても、シュタインズゲートは物語として成立するし、今話題の『ジョーカー』だって、ぶっちゃけバットマンの元ネタを知らなくても作品として成立しているわけですが、ブライトバーンについては作品の骨軸が完全に「もしもスーパーマンがry」に頼りすぎていて単体作品として物語が成立していません。

予告編だけを見ると、それなりに楽しめそうかなと思ったのですが、予告編の方が内容があったのではと錯覚した映画は初めてです。


おおまかに脚本・演出上の問題(と私が思った点)を整理してみました。

①宇宙飛来物の謎が全く解明されていない
②主人公ブランドンの思考回路が浅はかすぎる
③しかし子供ゆえの残酷さ・宇宙人ゆえの不気味さにも振り切れない

④驚かせる要素はほぼ音と衝撃のみ
⑤基本的にほぼ瞬殺なので迫りくる恐怖感がない
⑥クライマックスにいくにつれてショボくなるグロ描写

①から順に思った点をつらつら書いてみます。


①全く解明されない宇宙飛来物の謎

オープニングで隕石が落ちたような描写があるし、予告編でがっつり主人公のブランドンが宇宙から飛来した生命体であることがネタバレされているんですが、この宇宙船、割と重要なファクターなのに「何故飛来してきたのか」など全く解明されません。というか、明らかに宇宙から飛来したっぽいオープニングなのに宇宙船ネタは中盤から……。
10年後にブランドンを突然侵略者として覚醒させますが、何で10年後だったのか、人間を殺してどうするのか、目的も正体も何も明かされないので「何だったんだコレ」感が残ります。
宇宙船だということが半端に明かされるので余計に「だから何だよ?いっそ何もわからない方が不気味だった」的なモヤモヤが残る。


②主人公の思考回路が浅すぎて謎

主人公のブランドン君、非常にクレバーな少年なはずなんですよ。
それは、授業のシーンでハチの生態について先生もびっくりするほど難しい知識を、スラスラとのべて見せることからも明らかなんです。いじめっ子はいるけれど、ヒロインは頭のいいブランドンに一目置く。
そのはずなのですが、悪の波動に目覚めてからのブランドン君、はっきりいってどんどんアホになっていくんですね。
君はクレバーな頭良い子ではなかったのかね????
下着の女性グラビアと一緒に内蔵のグロ写真を隠し持つ……まではまぁ良いとして(何でだよ感はあったけど)、それについて性的なことに興味を持ってもいいけど、内臓とか身体ではなく、心の方が大切なんだよってパパンに言われて、ヒロインの家に夜這いしにいくブランドン君(何で??)
気味悪がるようになったヒロインの手を、怪力でバキバキにへし折るブランドン君(何で???)
ヒロインに「ママに話すなって言われているの」と言われて(そりゃそうだ)邪魔になったヒロインのママを惨殺して解決するブランドン君(完全なる逆恨み)
そこまでしたのに、やりきったらヒロインのことはみじんも思い出さない様子のブランドン君(以後ヒロインは出てきません)

おばさんにカウンセリングで悪びれた様子もなくドヤ顔決めて「このことは保安官と両親に言わなければならない」と言われた途端に、おばさんを脅しにいくブランドン君(もはやクレバーだった頃の面影もない)
おばさんをターゲットにしていたはずなのに、おじさんに怒られたらおじさんを惨殺するブランドン君(おばさんは見逃す)
パパンに問い詰められて「悲しんでほしいの?」とドヤるブランドン君。学校にいくはなししているけど、君はヒロインの手を握りつぶしたことで休学になるんではなかったのか?

とにかく、「嫌がられた」とか「怒られた」とかいう非常につまらない理由で虐殺していくのですが、なまじ最初に頭のいい子である描写があったせいで「宇宙の波動でアホになった」感がぬぐえないのが演出として微妙すぎる。


③子供の残酷さや宇宙人の不気味さもあまりない

ブランドン君、本当につまらない理由で人を虐殺するのですが、基本的に無表情で情緒がない感じなので(それと、初めに頭がいいという設定が開かされているので)「子供ゆえの無知が残酷にさせる」という方向にも振り切れていない。
しかも、両親は明らかに愛情たっぷりに育てているので、環境がそうさせた感も全くない。宇宙船で来た宇宙人だってことが判明した時も、ママは「それでも貴方は愛しい我が子」という態度なのですけど、「嘘つき!」ってキレちらかすだけキレちらかして(まぁ、この点についてはいきなりお前は宇宙人と言われたらわからんでもないが)以降ふっきれて宇宙人パワー全開で虐殺をしていく。つまらない理由で。そこに愛はない。

宇宙人だから感情がない、というなら宇宙人に覚醒してから感情がすっぱりなくなったとか、だんだん感情がなくなる描写があればいいのだろうけど、不気味で理解不能な行動規範を持って人を殺すのではなく、ちゃんと理由はあって(その理由が非常にささいであるだけで)人を殺しているので、宇宙人怖いな~~という方向にも振り切れない。

残酷さも不気味さもホラーとしてはイマイチな点が、この「半端に小賢しい上に半端に人間臭い」ところに集約されている。


④脅かし要素がほぼ音と衝撃のみ

一応、この映画ジャンルはホラーなのですが、ホラーに振り切れていないのが主人公のブランドンが残酷さも不気味さも足りていない点に加えて、ホラーにおける重要な要素である「脅かし要素」がほぼ音とそれに付随する衝撃演出のみなところ。

ドーンガシャーングシャッドドーン!(ビカッ)

みたいな感じなんですよ、どれも……。もっとあるでしょ、演出がさ……。
しかも、ブランドン君、とても素早いので肝心の場面、見えないんですよ……。見えないけど何かデカイ音がして誰かが吹っ飛ぶ……。

意味もなくニワトリが惨殺されるシーンとかあるんですけど、朝チュンばりの事後描写だし……あれ、結局ニワトリなんで殺したのブランドン君。練習台か何か?


⑤基本的にほぼ瞬殺なので迫りくる恐怖感がない

ホラーやスリラーって「迫りくる恐怖」的な要素があるじゃないですか……それがほぼないんですよ。あるにはあるんですけど、それなりにやったのは2回だけで、いざ殺す時はほぼ瞬殺なんですよね。

殺すってなった時にジワジワやる描写がなく、バーン!ドーン!で終わってしまうので「アッ、ソウデスカ」みたいな現実に戻ってしまう感があって没入できない……。

アベンジャーズだって、サノスの指パッチンすげーヤバいしまじ強いっておもうけど、あの指パッチンそのものは別に怖くないじゃないですか……。

一瞬で死んでいくので「アッソウデスカ」ってなるんですよ。怖くない。

しいて言うなら、眼球に刺さったガラス片を抜くシーンが一番怖かった(中盤の1分もないシーン)


⑥クライマックスにいくにつれてショボくなるグロ描写

これが一番ヤバいところだと思うんですけど、グロ描写がだんだん失速していくんですよ、この映画……。
まだ二人目のおじさんが殺されたあたりまでは、グロ描写は評価点かなって思っていたのに、それをピークに目に見えて雑にショボくなっていくグロ描写。クライマックスに向けて失速してどうするんですか?

パパを殺す時なんて、目からビームで頭燃やして瞬殺だし……。ママにいたっては、違和感バリバリのCGでお空に連れ出して、そこから落っことすだけ……。ついでに旅客機(CGバリバリ)も落としておきました。

あと、最初にころされたエリカさんの遺体が、あからさまなツクリモノ感バシバシな上に、死んでから結構な日にちが経っているはずなのに何一つ腐敗した形跡がない……。

グロ描写がチープでも『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』みたいに、チープで低予算ながら血のりは大盤振る舞いしたり、ハードなグロシーンを大画面で写すなどすれば「これはこれでアリ」な感じがするんですけど、なまじ1回目と2回目の犠牲者でそこそこ丁寧に恐怖感やグロ描写をやっただけに、以降のライトな瞬殺ぶりのチープさが際立って「途中で予算なくなったのか?」と邪推してしまう感じに。


と色々書きましたが、全体的に主人公ブランドン君の行動理念がちぐはぐ(人間の感情としては浅はかすぎるし、良識のない宇宙人としては常識的すぎる)なのと、音だけのびっくり要素と、クライマックスに向けて失速していく演出とシナリオで、何の謎も回収されないままにブランドン君の一人勝ちで終わるエンドにしばらく虚無の感情に包まれていました。


同じ宇宙侵略者ネタ映画としては『光る眼』がありますけれど、あれは良識のない宇宙人の子供は、徹底的に良識の通用しない不気味な存在として描写されているし、一応全く良識のない未知の敵に対抗策を考えるアタマのある人間も出てくる。主人公の子供だけが他の子供と違って人間の愛と良識を獲得できた理由も伏線として問題なく回収されている。

でも『ブライトバーン』のブランドン君、半端に人間の価値観を維持したまま、良識のない宇宙人の行動をとるんで「ちぐはぐ感」があるんですよね。

ラストの方でママが「貴方の中にも良心がある」っていうシーン

・最後まで信じてくれると思っていたママが自分を殺そうとしたから殺した
・ママが宇宙船の破片で自分を殺せることに気づいていたので殺した
・ママが息子を殺す決心がつかずに迷った隙にブランドンに殺された

とかいう描写が少しでもあったら、もう少し盛り上がった気がするんですけど、宇宙船の破片をスパーンってふりきってそのままなすすべもなくお空につれていってからポーイ!で……。

宇宙船が弱点であることは他の誰も知らないので、ブランドン君本当に完全勝利なんですよ……。

宇宙船がブランドンに対する対抗策だ!ってママが気づいた瞬間がクライマックスだったはずなのに、傷のひとつもつけずに瞬殺してついでに旅客機も意味もなく墜落させたな??(両親の死を偽装するためにしても、真上で撃墜したのが真下に落ちます?)

クライマックスで盛り上がり損ねたし、予告編がほぼ本編のダイジェストでしかなかったので、予告編が一番中身が濃かったという事態に。

アンチヒーローになったスーパーマンというコンセプトにこだわりすぎて、肝心のストーリーが設定をただ使ってなぞっただけのものになっている感がすごい。

設定は物語のエッセンスであって、設定では物語が完成しないということを理解するためにはすごく勉強になった映画でした……。

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