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ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(ダニエル・カーネマン)

どんな本

「エイモス・トヴェルスキーを偲んで」
本書のハヤカワ文庫版を開くと、この献辞があります。

著者はダニエル・カーネマン。プロスペクト理論や認知バイアスで著名な心理学者であり、2002年にはノーベル経済学賞を受賞しています。
対象研究は「特に不確実性下での人間の判断と意思決定に関して、心理学研究からの洞察を経済科学に統合したこと」でした。
経済学者以外で経済学賞を受賞することは珍しく、それだけ影響ある業績であったと言えるでしょう。
(ちなみに、ノーベル経済学賞の経済学者以外の受賞としては、他にも安定マッチング理論で受賞したロイド・シャプリーやゲーム理論で受賞したロバート・オーマンの事例もあります。)
献辞を捧げられたトヴェルスキーはカーネマンと共同研究を行っており、1996年に彼が亡くなっていなければ、2002年のノーベル経済学賞は彼と共同受賞していただろう、とカーネマンはいいます。

本書「ファスト&スロー」、原題「Thinking, Fast and Slow」はこうした研究成果を下敷きにしながら、心理学的アプローチによる脳の機能、特に「直感」について説いていきます。
私たちは直感に基づいて錯覚し、過ちを犯すことがあります。
直感に基づく錯覚の実験や事例が数多く、そして易しく書かれており、心理学や経済学に興味がなかったとしても興味深く読むことが出来ます。
タイトルのファスト&スローは人間の思考のタイプです。
速い思考は直感のみならず、知覚、記憶に基づいて自動的に行われます。
一方、遅い思考は制御された熟慮熟考であり、速い思考を優越的に制御することもあります。
また、第4部のエコンとヒューマンも経済学の見地から興味深いです。
伝統的経済学では常に、合理的に、冷静に、完璧な計算で、ブレない意思決定を人間(エコン)が行う事を前提に進むことが多くあります。
しかし、現実にそんな人がいるわけもありません。
巷にいる普通の人間(ヒューマン)の認知や判断を研究することで、エコン前提では解析不能な経済事象を検討することができるのです。
ここから行動経済学の萌芽を見られます。カーネマンは新たな経済学の分野を生むだけではなく、ヒューマンから資本主義の正体すらも明るみに出そうとします。
この正体が私が本書で一番興味をひかれた点でした。

誰が、いつ読むのがおすすめ

判断を行う人におすすめ。つまり、誰にでもおすすめ。
普通、書籍の帯は書店で本を手に取ってもらうためにあるものです。
しかし、本書の帯は「東大でいちばん読まれた本」とあります。
これは逆にとっつき辛いのでは、と私は懸念するところです。
難しい内容では、と構えられるかもしれませんが、内容は身近であり、かつ、人間誰でもが犯す過ちを冷静に見つめる良書です。
特に生活、勉強、仕事などで自己判断に自信が無い方におすすめしたい。
上下巻でボリューミーですが、何章かに分けながら読み進めてみてはいかがでしょうか。

なぜこの本

本書冒頭にて、共同研究者のエイモス・トヴェルスキーを偲んでいたダニエル・カーネマンは先週2024年3月27日に亡くなりました。享年90歳。
21世紀の現代、行動経済学のみならず、一般世界においても、その研究成果は多く活用されています。
彼の業績は今後も永く、広く残ってゆくことでしょう。

ダニエル・カーネマンを偲んで


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