長期投資の鐘を鳴り響かせよう
こんにちは。さわかみ投信の熊谷幹樹です。
日本や社会の未来に向けた意見や考えを発信しています。
題してコラム「未来飛行」。それでは早速滑走を始めることにしましょう。
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世界の金融が向かう先
数十年の長きにわたり、世界の金融がたどった道とは“short-sighted investment”つまりは短期的視野に基づいた投資の加速である。投機:speculationと表現してもよい。
テクノロジーは日々進化し、株式の売買においては100万分の1秒単位のスピードで勝負するようなシステム売買が世界的に普及した。情報においては四半期に一度の業績開示が義務化されて久しい。企業からしてみれば、3ヶ月ごとに経営状態をせっせと開示しては、市場で投資家(投機家)に“高速”で売り買いされていくわけだ。経営陣の内心を想像するだけでぞっとする。対応するだけで大変だ。そもそも企業は本業に集中できるのか?と心配にもなる。
だが、りんごが木から地面に落ちるように、万物には原理がある。作物がいきなり育たないように、人もまた一朝一夕では育たない。企業の成長においても同じこと。成長には時間を要する。短期的に芽を摘めば成長できない。あたり前の話であり、あたり前の原則だ。だが、悲しいかな、世界の金融は逆の方向、それもますますの短期化へ向かってきたのが今日までの歴史だ。
# 投機よりも投資を
そういった時代の潮流に対して、私たちさわかみ投信は「#投機よりも投資を」プロジェクトを2022年に立ち上げた。短期化する世の中の金融に対して一石を投じよう。そんな思いからだ。
実際、次のように経営者の声が当時の調査で集まっている。
なんとも皮肉な話だ。本来、企業の成長と繁栄を期待するはずの株主が、短期的な成果を追い求め、企業の中長期的なチャレンジを阻む存在にもなっているということだ。論理破綻もいいところだ。
今日、私たちが生きる豊かな文明社会とは、多くの企業のチャレンジから生まれたサービスや技術の上に成り立っている。だが、企業が長期的な未来への挑戦を選択できなければ、社会の発展も減速する。これまたあたり前の話だ。さらに、企業が短期目線で経営の舵をとれば、これから企業として存続できるのかも疑わしい。となれば、サービスや技術を司る企業は衰退し、その連鎖は結果として社会の劣化につながりかねない。
長期投資で未来を覚醒させる
だからこそ長期投資が必要だ。長期的な視野に立ち、株主として企業の成長、そして社会の発展を共創していく。結果、企業の成長から生まれる社会の発展というリターンと、必然的についてくるであろう経済的な投資リターンにつながるわけだ。そう、長期投資とは二つのリターンを生み出す合理的な選択なのだ。
さわかみ投信は四半世紀にわたり長期投資を実践している。そして長期投資家をこの日本においてさらに育成していくことに情熱をそそいでいる。このことは一民間企業の事業という枠組みを超えて、この元気をなくした日本を力づけるための挑戦でもある。
さわかみ投信は4月1日より「長期投資家デビュープロジェクト」を開始している。いつだって、何歳になっても長期投資は開始できる。そんな思いからのネーミングだ。
卓上の教科書的な小難しい話は一切しない。長期投資を実践するさわかみ投信の社員自らが手作りでつくった温もりあるカリキュラムをオンラインで受講してもらい、共に長期投資を学び実践していこう!という“ド”ストレートな取り組みだ。
私たちが掲げる真の目標とは、この日本に長期投資家を増やし日本の未来を躍動させることだ。そう、長期投資家がこの日本で生まれ育っていくこととは、未来をつくる長期投資そのものなのだ。
マーティンルーサーキング牧師は、“I have a dream”の演説の最後でこう謳っている。
Let freedom ring from Stone Mountain of Georgia.
Let freedom ring from Lookout Mountain of Tennessee.
Let freedom ring from every hill and molehill of Mississippi.
From every mountainside, let freedom ring.
アメリカ中で自由の鐘を鳴り響かせよう、と。
ならば私はこう謳いたい。
Let “long term investment” ring from every mountainside。
今こそ長期投資の鐘を鳴り響かせよう。
この日本で。
取締役 戦略室長 熊谷 幹樹
【初出:長期投資だより2024年4月号(2024年4月15日発行)】