Steps!! (1)

ナイロン素材のシャカシャカとした音がやけに大きく聞こえる。
まだ誰もいない居間では場違いに思えて、少しゆっくりと動いてみる。

靴に足を入れ、かかとでトントンと位置を整え、丁寧に靴紐を結ぶ。
この一連の動きが自分の気持ちに落ち着きを与える。

今日はどこまでいこうかな。
まだ夜の余韻を引きずっている街は暖かくは迎えてくれない。
頭の中でルートを描きながらとりあえず歩を進める。

途中で変えたくなったら変えればいいや。

日課のランニングはその場の気持ちを大事にしている。
予定よりも長くなったり、短くなったり。
知らない道を行ってみたり、同じ道を二周したり。
1年前からトレーニングのために始めたのだから、昨日までの自分と比較したほうが成果に現れるしモチベーションになるだろう。たしか理科では対照実験といったか。だけど結果のために毎日走れるほど私は芯の通った人間ではない。
つまり、自分の逃げ場を作っているのだ。毎日走るんだから、このくらいの甘えは許してよね。誰に見られているわけでもないが、いつでもこの言い訳を言う準備は出来ている。

10分ほど走ったところだろうか。
真っ白の花びらがカーテンになり緑色も顔を覗かせている並木道を通ってみる。風情を感じる、なんて言いたいがこれから毎日この道を通ることになることへの興味が大きかった。

自分が漠然と描いていた高校生というエネルギーに満ち溢れた期間は、あっけなく僕の元にも訪れた。僕が進んだというよりも、高校生という目に見えないラインが前からやってきて僕を通り過ぎて行った感じだろうか。しかし、そのラインを超えたからと言って自分にエネルギーが満ちることもなかったのは少々拍子抜けだった。わかってはいたことだが。

街が新しい日を受け入れはじめ、並木道の終わりに近づくと車道に合流した。
道の終点で踵を返すと、信号の先にいる人影を視界の端でとらえた。

「綺麗だな。」

僕は無意識のうちにそう呟いていた。


続く


久々に小説を書いてみました。
今回は一話完結でなく、続きます。
現段階では頭の中で着地点は見えてませんが一応まだ話の放物線は描かれてます。
やっと主人公以外の人も出てきます。

次回以降もお楽しみに。

お読みいただきありがとうございます!

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