人と違うことを気にするのは、世界共通のテーマ

"Johannes Jensen føler seg annerledes" af Henrik Hovland, Torill Kove, J.W.Cappelens Forlag, 2003.「ヨハネス・イェンセンはみんなとちがう」ヘンリック・ホウランド作、トーリル・コーヴェ絵、ノルウェー 絵本

この本はもう15年も前に出版された本ですが、出会ったときから私は好きで、初めて絵本イベントをさせていただいた時にも紹介した絵本です。

ワニのヨハネス・イェンセンは、いつも自分が周りの人々と違っていると感じている。オスロ市役所で仕事をしている彼は、通勤バスに乗っている時も、皆にジロジロと見られているように感じている(実際のイラストでは、人間の中に交じって一人だけワニであるにも関わらず、だれも彼に関心を払っていない)。もしかすると自分の服装のせいかもしれないと、ヨハネスは周りの人々に合わせて蝶ネクタイを普通のネクタイに替えてみるも、やはり皆と違うと感じる気持ちはかわらない。そしてある日、ヨハネスは、自分の尻尾が原因だと気づく。そこで彼は白い布で尻尾をぐるぐる巻きにして腹部へまわし、尻尾を隠して仕事へと向かう。しかし、尻尾が両足の間に挟まった状態は苦しく、ヨハネスは王宮裏の道で倒れてしまう。タクシーを捕まえて、救急病院へ行くヨハネス。痛みのせいで涙が頬を伝う。ヨハネスが病院につくと、人間に交じって唯一の大きなゾウの医者が彼を診てくれた。「どうしてまた、尻尾を隠そうとしたんだ」と尋ねるゾウの医者に「ぼく以外に尻尾のあるひとはいないから。尻尾のせいでぼくは他のひとたちと違って見えるし、それがとっても嫌なんです」と答えるヨハネス。ゾウの医者は「皆、色々なのさ。だれも同じ者なんていないんだ。私だってこんなに大きな耳があるんだから」と語り、自分の大きな耳をヨハネスに見せる。そして「怖い映画なんか見るとするだろう?そうしたら、この耳を使えば目も耳もふさげるんだ。便利だぞ。君の尻尾だって何かの役に立つんじゃないかい?」それを聞いてヨハネスは、確かに自分の尻尾は泳ぎに役立つこと、スケートの時にバランスを取るのに役立つこと、サッカーではゴールキーパーが尻尾のおかげでうまくできることなどを思い出す。退院したヨハネスは、国王の誕生日を祝いに王宮前へ出向く時、いつものように蝶ネクタイをしめ、尻尾にリボンを結んで、堂々と国王に国旗を振るのだった。ヨハネスは今でもまだ皆とちがっていると感じるけれど、それは何も悪いことではないとわかったのだった。

自分が他者と違うことを気にするのは、世界共通の問題なのだなぁとこの本を読んで感じる。移民がいて様々な人種が住むノルウェーでも、このようなテーマの絵本が出版されるのだから、どこで暮らそうと、このテーマは、子どもたちと、言葉にして話し続けなくてはいけないことなのかもしれない。他の人と同じようにしてもそれは自分自身ではないし、自分自身でいないことは、実は想像以上に辛いこと。人と違っても、その違いにこそ良いことがあるんだよとゾウの医者が教えてくれる。淡々とストーリーが展開しているけれど、とても大切なメッセージが込められている絵本。

この本は、主人公のワニのヨハネスが王宮裏の道で倒れるシーンや、国王の誕生日を祝うシーン(国民が皆ノルウェーの旗を振っているイラスト)など、とてもノルウェーのローカル色が濃いのだけれど、扱っているテーマは世界共通。デンマークでも良く読まれているようで、2年間貸出がないと除籍(廃棄)されてしまうという、本にとってはとても厳しい環境のコペンハーゲン図書館でも、出版後10年以上生き残っている。時々借りて読みたくなるこの絵本。これからもずっと残っていてほしいなと思っている。

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