だれしもの思い出の場所
"Hils far" af Hanne Dagmar Raaberg, illustreret af Mo Maja Moesgaard, Eksistensen, 2017, Denmark. 「パパに、よろしくね」ハンネ・ダオマ・ローベア作、モー・マヤ・モエスゴー絵 デンマーク 絵本
1843年からずっと今と同じ場所にあるチボリ公園。かつてはアンデルセンもお客として訪れたこの場所は、デンマークの人々にとって、なくてはならない憩いの場だ。子どもや若者にとっての遊園地であるだけでなく、大人や老人にとっても季節の美しい花々を眺めたり、昔懐かしい遊びを楽しんだりできる場所。だれしも幼い頃からたくさんの思い出があり、いくつになってもそれぞれに楽しめるからこそ、ずっとそこにあるのかもしれない。そんなデンマークの人々にとって大切な場所を舞台とした作品。
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今日、アンナとママはチボリ公園へ行く。パパはいないけれど、2人はチボリへ行くのをとても楽しみにしている。チボリにはハトがたくさんいる。アンナはハトに向かって走っていく。
「アンナ、ハトをおどろかせないようにね」とママは笑顔で声をかける。
「だって、飛ぶのがおもしろいんだもん」とアンナ。
「でも、びっくりしちゃうから」
「このハト、パパのハトとおなじ?」
「そう、おんなじ」
「パパが飛んでいっちゃうよ」
「そうね」とママは答える。
「あたしも飛びたい」というアンナに、見て、とママは声をかけ、観覧車を指さす。「あれなら、飛んでるみたいな感じかな」というママに、「あたし、あれに乗る!」というアンナ。
その後も、アンナは高く上にあがる乗り物に乗ったり、ハトにパンくずをあげたりしながら、ママとチボリ公園で過ごす。空を飛びたいと言い続けるアンナに「次のお休みには、飛行機でどこかにいけるかなぁ」というママ。すると突然、ふうせんがアンナの目にとまる。
「見て、ふうせん!あれは飛べるよ!」
「ひとつ買ってあげようか」
「あれ、高く飛べるでしょ?」
「そうねぇ、でもそれじゃ戻ってこないよ」
「でも、パパに、見えるかも」
「うん、そうね」
2人はおじさんから赤いふうせんを買う。糸をアンナの手に結ぼうとするおじさんに「いいの。このふうせん、今から飛ばすの」とアンナ。それはきっとうまく飛ぶだろうね、とおじさんは答える。
ママとアンナは草の上で赤いふうせんを見つめる。
「すてきな、赤い、ふうせん。高く飛んで、パパを見つけて。あたしたち、パパの赤いパンケーキが食べたいって、伝えて」とアンナ。
「パンケーキだったら今度作ってあげるよ?」
「ちがうの、パパのパンケーキ。それじゃないといけないの」
「そっか。じゃあ、赤いふうせんさん。わたしからもパパによろしくってつたえてください。元気にやってるからって」とママ。
そして、アンナは手を放す。
ふうせんは少しゆらゆらしながら、ゆっくり空へと舞い上がる。上へ、上へと登っていく。2人は静かにそれを見つめる。赤い丸いふうせんが、青い空に浮かんでいく。少し高いところまでくると、風がふわっとふうせんを持ち上げた。
「ふうせん、パパに、見えたね」とアンナ。
「たぶんね」とママ。
次の日、2人はパパのお墓を訪ねる。そこには、チボリ公園にいた時と同じハトがたくさんいた。地面を見つめていたアンナは、何か赤いものを見つける。
「ママ、見て!これきっとパパからだよ。パパにふうせん、届いたんだ」ママはうなずく。
「あたし、うちに帰ったら、赤いパンケーキが食べたいな」
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