北の果てまでサンタを探しに

"Drengen der drog nordpå med sin far for at finde julemanden" af Kim Leine, illustrationer af Peter Bay Alexandersen. 2015, Gyldendal. 「サンタを探しにパパと北へ向かった少年のおはなし」キム・ライネ・作、ピーター・ベイ・アレクサンダーセン・絵 絵本 デンマーク

デンマーク王国の一部であるグリーンランド。そこは北欧の人々が暮らす地とは大きく異なる気候や文化の地でもある。15年間グリーンランドに暮らした作者が、グリーンランドの厳しい冬と自然を舞台に描いたファンタジー。冬のグリーンランドの暗闇と、雪のもたらす幻想的な自然の景色を、ピーター・ベイ・アレクサンダーセンがやさしく美しいイラストで描いている。

グリーンランドに暮らす少年、アンドレアス(デンマーク人)は、今年もクリスマスを楽しみにしている。ところがアンドレアスの父はクリスマスが好きではない。残念に思ったアンドレアスは、父をサンタに会わせようと画策する。気の進まない父を説得し、2人は犬ぞりに乗って北にある掘立て小屋まででかけてゆく。

雪で屋根まですっぽり埋まった小屋に到着した2人は、入り口を掘りおこし、ストーブをたいて暖まりながらクリスマスの話をする。幼いころからクリスマスを祝ったことも、クリスマスプレゼントをもらったこともないという父をかわいそうに思ったアンドレアス。クリスマスなんてなくてもかまわないという父に「パパ、クリスマスはとっても楽しいよ。もしクリスマスがなくなったら、サンタさんはどうすれば良いの?サンタさんのことを考えてあげなくちゃ。パパはいつも言ってるじゃない、みんな、自分が得意なことをしたら良いって。サンタさんはクリスマスを楽しくするのが一番得意でしょう?」。彼はきっとサンタが小屋へ来てくれると信じている。

その夜、小屋の前で寝ているはずの犬たちが不気味にうなる声でアンドレアスは目を覚ます。父はその声に猟銃を構える。ドンっという大きな音が屋根の上でしたとたん、小屋の扉を開け中に入ってきたのはなんとサンタだった!

翌朝、2人は小屋から出て犬たちの様子を確認する。その真っ白な景色と小屋が埋まった雪の様子が2ページにわたるイラストで描かれている。そしてそこには何かの足跡が。夜、犬がうなっているイラストに描かれた影と、この雪景色のイラストに描かれている足跡。それが何なのか、説明は一切ない。

その後2人は掘立て小屋を離れ、犬ぞりを走らせて自宅へと戻る。そしてクリスマスイブの日、アンドレアスの父はプレゼントを受け取る。中身はとても暖かそうなルームシューズ。それは最近、北の方で仕留められたシロクマの皮で隣人のカリーナおばさんが作ったものだとか。「サンタさんがね、シロクマでできたものをパパにあげなさいって言ったから」とアンドレアス。驚きながらも、クリスマスは悪くないかもしれないとアンドレアスの父は思い始めるのだった。

前回に続いてグリーンランドとクリスマスに関するお話。自然の描写、犬ぞりの様子など、作者がグリーンランドで暮らしていたことが良く伝わってくる。雪に埋まった小さな小屋の中で、アンドレアスたちがランプとストーブに火をともし、寝袋にくるまって本を読んでいる姿は、いかにもヒュッゲな感じでほほえましい。その一方で、猟銃を手放さない父、恐ろしい目つきで吠える犬たちの様子など、厳しい自然の中での暮らしも描かれており、クリスマスだけではなく、グリーンランドについて様々なことを伝えてくれる作品だ。そして何といってもこの本のイラストが、この作品を更に幻想的なものにしている。日本にはまだまだ馴染の少ないグリーンランドだが、この絵本は、デンマークの子どもたちだけでなく、日本の子どもたちにも(もし翻訳されたら)グリーンランドについて知るきっかけになるかもしれない。


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