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あの夏、僕は、大戦犯になった。

あの夏、快進撃を続ける弱小県立校が挑んだ、強豪校との延長戦の死闘を終わらせたのは、目を瞑り、空を眺めているこの僕である。


今から9年前、2011年夏の全国高等学校野球選手権兵庫大会、いわゆる甲子園予選での出来事。

僕の高校は良くも悪くも普通の県立校。偏差値が高いわけでもないし、スポーツが特別強い高校でもなかった。もちろん野球部も例外ではない。
今までの歴代最高で3回戦進出。ベスト32にでも入れば高校新記録と言う平凡な野球部だ。

2年の秋の大会ではなんとか県大会に進むも、1回戦で敗退。3年の春の大会では県大会どころか、地区大会で同じ地区の県立高校に負けてしまった。そんな平凡な野球部の僕の話。

僕はその平凡な野球部でキャッチャーをしていた。キャッチャーと言うとカッコイイかもしれないが、足も遅く、少し太っていたため、キャッチャーしか守れなかったのである。

そんな僕たちが迎えた高校最後の夏。

2回戦をコールドで勝ち、今日で高校野球人生も終わりかーと思いながら挑んだ3回戦、延長戦までもつれるも勝利を掴んだ。

次の4回戦は昨年、先輩たちの最後となった因縁の相手。下馬評では圧倒的に劣勢だった中勝ち、気がつけば学校の歴史を塗り替えるベスト16。

続く5回戦、相手はシード校の強豪。
3回戦で負け、受験勉強に本腰を入れる予定だった僕たちがここまで来れたのも奇跡だが、ここでもまた勝利を収め、なんと144校ある兵庫県で8校にまで残ったのである。

他の7校は甲子園の常連校。
僕たちの高校など存在すら知らなかった人たちがほとんどだったと思う。

実質2chではスレッドが立ち、当時流行っていたドラマROOKIESを彷彿とさせる快進撃などと書かれた。僕たちはヤンキーではない、平凡な高校球児だっただけだ。

チームメイトの1人は大会前、親にベスト8まで進んだら新しい携帯を買ってくれという無謀な賭けをしていた。まさかそこまで行くとは思っていなかった親は、冗談半分で約束したのだが、それがまさか現実になってしまったのである。

甲子園を目指すなんて冗談でも言えなかった僕たちが、甲子園に手が届きそうなところまで来てしまった。

そんな中、4ヶ月前テレビで見ていた春のセンバツで全国ベスト8まで勝ち残った高校との準々決勝当日。

今でも覚えている、その日は雲ひとつない真夏日の快晴だった。

夏の大会が始まってから、とにかく試合で精一杯で、正直何がなんだか理解もできない状態だったのだが、毎試合ごとに観に来てくれる友達が増え、応援の声がどんどん大きくなり、この日は地元の球場と言うこともあり、たくさんの友達、OBの人たちが応援に駆けつけてくれた。

優勝候補筆頭の強豪校と無名の県立高校。

応援に来てくれているみんなには申し訳ないが、
正直結果は見えている、はずだった。。。。




試合は意外にも9回を終え1-1の延長戦へ。

正直ここまでもつれると予想していた人などあの球場に誰もいなかったと思う。僕たちも含めて。

もしかしたら勝てるんじゃないか、そう思い始めた10回裏、10年近くたった今でも忘れられない事件が起こる。


一死一三塁、サヨナラ負けのピンチ。


スクイズ来そう、外すか。


バッターは案の定、スクイズの構えになる。


3塁ランナーが走ってくる。


バッターはボールを当てることができず、ボールは僕のミットの中に。


三塁を見る。よしアウトにできる。


やばい、サードもスクイズだと思い飛び出している。


僕は一瞬躊躇するもサードに投げる。


夏の暑さと緊張感から生まれた僕の手汗を乗せて、ボールはサードの左へ。


サードは捕れず、ボールはそのままレフトにまで転がり続けた。


三塁ランナーは手を叩きながらホームインし、仲間と抱き合っている。


僕は頭が真っ白になり、空を見上げた。


そう、この時僕は、母校の歴史的快進撃を終わらせた、大戦犯になってしまったのである。

平凡な県立校の野球部だったなりに、夏の暑い時期に朝から夜まで練習に明け暮れ、冬の寒い時期に死にそうになるぐらい毎日ひたすら走って、やっとやっとたどり着いたこの舞台。

チームメイトや学校の友達、OBや父母会の全ての期待と夢を、僕が一瞬にして消し去ったのである。

正直ここから球場を出て、反省会を行うまでの記憶はほとんどない。

しかし覚えていたこともある。

本当ならば泣き崩れ、一生立ち直れないくらいにあの瞬間に後悔し、チームメイトに謝り続け、野球なんか一生やりたくないとそう思うのだろう。

ただ、チームメイトは歴史的大戦犯になった僕に、どんまいと声をかけてくれた。僕たちらしい終わり方だと笑ってくれた。逆に最後がお前でよかったと言ってくれた。次の日には笑い話にまでしてくれた。

試合後のラストミーティング。僕の涙は後悔と懺悔の涙ではなく、もうこれ以上このチームで、みんなで野球ができないと言う寂しさと、これまで努力してきた思いが詰まった汗と少しばかりの後悔を含んだ、青春の涙だった。

試合のレポートあります→第93回兵庫大会準々決勝


現在

コロナの影響で野球だけではなく、様々なスポーツが中止になっている今。甲子園中止と言うニュースを観て、自分の高校時代の思い出を少しばかり思い出したので、書いてみました。かなりエモくなりました。

ちなみにチームメイトとは10年経った現在でも繋がっており、この間もみんなでZoom飲みをし、あの頃あったことなかったこと語り合いました。

今の3年生にはかなり厳しい現実かもしれませんが、1番は一緒に一つの目標に向かって頑張りあった仲間がいて、時間があったと言うことです。どうか野球だけではなく、全てのスポーツや部活を頑張ってきた高校3年生がいい形で最後を締めくくれるよう願うばかりです。

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