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メレンゲにときめいてしまうキウイのお菓子 〈菓子四季録 vol.3〉

菓子四季録では、菓子研究家 福田淳子先生と一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら

メレンゲに、不意にときめいてしまった。そんな話をさせてほしい。

好きなお菓子は?と聞かれたら、多すぎるので悩んでしまう。でも、いまハマっているお菓子は?と聞かれたら、間違いなく即、「パブロヴァ」と答える(正確にいうとパブロヴァに登場するメレンゲなのだが)。ハマっているというか「推し」に近い気持ち。応援したい、もっと魅力を広めたい!というような。

そう思うきっかけをくれたのが、この記事で紹介するキウイとヨーグルトクリームのパブロヴァだ。パブロヴァとは焼いたメレンゲの上に泡立てた生クリームと果物をのせたデザート。発祥の地はニュージーランドまたはオーストラリアなのだが、論争には決着がついていないとのことである。

「メ、メレンゲ…!」「このお菓子をいろんな人に食べてもらいたい…!」
これが、食べた瞬間のわたしの感想。

特筆したいのはメレンゲの衝撃。そんな魅力を持ってたのね…と不意にときめいてしまった。普段は特に話すことのないただのクラスメイトが、年に一度の球技大会で突然輝いて見えた瞬間のようなときめき。しかも彼(メレンゲ)は運動部ではない。たぶん。湿気に弱いから。いつもはモンブランのマロンクリームと生クリームの下でそっと静かに座っている姿しか見たことがなかったのに…ギャップの破壊力たるや。

このレシピでメレンゲが魅力を発揮している理由が二つあると思う。「複数の食感を有していること」と「チームメイトの存在」だ。

理由(1)複数の食感を有していること

口に入れる瞬間を想像しながら聞いてほしい。皿に置かれたパブロヴァにフォークを入れる。フォークは一口大にカットされたキウイの隙間からクリームにすっと入り、続いてメレンゲに遭遇する。口に運ぶ。ひやっ、さくっぽわんふしゅわぁん(補足:「さくっ」は外側部分の食感、「ぽわん」は内側部分の食感、「ふしゅわぁん」はクリームに触れた部分の口溶け)。ひんやりした無糖のクリームからはオレンジのお酒コアントローが香り、キウイの酸味がきゅっと口に広がる。そしてメレンゲだ。「さくっ」&「ぽわん」&クリームと馴染んだ部分の「ふしゅわぁん」という食感が一度に訪れる。

これには本当にびっくりした。メレンゲ部分は〈泡立てて混ぜて、焼きっぱなしにする〉という大変簡単な工程で作るからだ。というのも手軽に作れるお菓子ほど、食感もフラットになりやすいというのがわたしの標準認識だった。全体がふんわりなら全てふんわり、全体がもっちりなら全てもっちり。それは手軽さゆえの結果なので、悪いというわけではない。

対照的に、工程が多く手の込んだケーキや洋菓子店のショーケースできらびやかに並ぶケーキたちは、ベースのジェノワーズやサブレ生地/ボディを担うムース生地/間に挟まれたジュレ/全体を覆うクリーム/アクセントになるクッキーやクランブル/飾りのソースやチョコレート……などなど食感が複雑に仕上げられるケースが多いと思っている。その分、工程は複雑で手間がかかる。

でも、このキウイのパブロヴァのレシピは、簡単に作れるにもかかわらず食感がフラットに終わらない。しかもメレンゲ部分に至っては〈泡立てて混ぜて、焼きっぱなしにする〉というお手軽工程にもかかわらず「さくっ」「ぽわん」の二種類の食感を有しており、クリームと合わさることで「ふしゅわぁん」食感まで生まれる。リズムがある

実はここに、淳子先生のレシピのこだわりが隠れている。
『メレンゲは儚い食感を目指したの』

そうだったのか。何も考えずにただメレンゲを焼いたら、平坦で、単にさくさくするだけのかたい物体になってしまう。考え抜かれた配合と焼き時間だからこそ、複数の食感を実現するメレンゲになっているのだ(そういえばメレンゲを美味しく食べるにはスピード感が大切。仕上げから時間が経ちすぎると、クリームとの馴染みが進んで食感が変わってしまうのでご注意を)。

理由(2)チームメイトの存在

このお菓子におけるメレンゲのチームメイトはキウイ、水切りヨーグルト、生クリーム、コアントロー。生クリームは無糖。無糖が大切。メレンゲという食べ物の印象を問われたとき、「うーん、甘いよね」と答える人がいませんか。わかる。でも「うーん」と言われたその甘さは、このチーム編成では重要で不可欠な個性になる。生クリームと水切りヨーグルトが合わさったクリームは無糖でクール、コアントローはふわっと香る爽やかさ担当、そしてキウイは元気いっぱいな酸っぱさだから「しっかり甘くてありがとう、メレンゲ〜!」という気持ちになるのだ。

普段は物静かで、でも実は二面性があって、チームメイトからの信頼も厚い(チームメイトにしか見せない表情もある。キウイの酸っぱさはもう最高にメレンゲを引き立たせるので二人は親友)。そんなメレンゲにときめかないわけがない

突如パブロヴァ沼(メレンゲ沼?)に足を踏み入れたわたし。食べてもらわないことにはおそらく何も皆様に伝わらないと承知しております。ヨーグルトの水切りとメレンゲの焼成に時間はかかりますが工程自体はとっても簡単なので、ぜひお試しください。


キウイとヨーグルトクリームのパブロヴァ

7月。とにもかくにも暑い。嬉しそうに太陽を見ているひまわりを横目に日傘が欠かせないこの季節。ひんやりしたお菓子が食べたくなりませんか?キウイのきゅっとした酸味とヨーグルトクリームのひんやり感、メレンゲの軽やかな食感を味わえる「キウイとヨーグルトクリームのパブロヴァ」でリフレッシュするのはいかがでしょう。

材料

作り方

詳しい作り方やポイントは
福田淳子先生の記事に解説があります

作り方(全文)


菓子研究家 福田淳子先生のレシピ解説はこちらです。レシピが生まれたきっかけ、作り方や材料のポイントが掲載されています。
7月の菓子四季録でキウイのお菓子を紹介すると決まったとき、「キウイと向き合ってみる」と先生は言いました。おうちお菓子のプロ・ベテラン菓子研究家の淳子先生でさえ、改めて向き合う余白と伸びしろを持っているフルーツなのかキウイよ、と思ったことをよく覚えています。キウイのための、キウイのレシピ。想いがたっぷり詰まった解説をどうぞご覧くださいね。

パブロヴァの菓子四季録、おしまい。

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