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あの窓にさよなら

雨に打ち叩かれて溶け出した色香
骨を拾うように灰に差した箸
昔、ここら辺は商店街があって
母ちゃんと手をつないでいた
夕暮れとコロッケの匂い
懐かしいな
鯉のぼり、今はこんなんだけど
「風死す」っていうのかな
夏の季語らしいよ

光、祈り、死、それから
椅子の上に積もった枯葉と
場末のスナック、朝
天井に下がったイルミネーションが消えるのを
まるで子どもみたいによろこんでいた
ファインダー越しのあなたが
唇に人差し指をつけて
寝ているのか死んでるかわからないね、って
ベンチの下のネコ
和解できなかった私たちの中庭
今はガラス一枚隔てた水景のように
鼓膜を小さく濡らし続ける

片目を隠したターコイズのネイル
それ以外はぜんぶモノクロでいい
取り繕われた作り笑いに絵の具を一滴
ほら、血みたいでしょう
これ緑色なのにね
涙には色がないから
彼女は永遠に泣けないのかもしれない

カビの生えた景色
もしも死者と会話ができたなら
生きてるってどんな気持ちって聞かれるのかな
生きてるってどんな気持ちなんだろう
生きていてもわからないや
もう
本当に生きているのかどうかも
あやしいね

0と1の羅列でできた久遠の夏に
逆光したあなたの顔は
今では泣いているようにも見える
支柱だけ刺さったプランターに
幼少の頃の僕の名前
何も知らない
とめ、はね、はらい
今はそれを大切に抱えて
素足のままで浜辺を歩く
ガラスのかけらに気をつけながら
たまに、傷つきながら

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