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かしまし娘の音楽革命(2010)

かしまし娘の音楽革命
Saven Satow
Dec. 27, 2010

「女は素晴らしい楽器である。恋がその弓であり、男がその演奏家である」。
スタンダール

 エバーライフの「皇潤」のCMに正司歌江が登場し、その効用について語っています。合間に、かしまし娘の映像が挿入されます。「ウチら陽気なかしまし娘、誰が言ったか知らないが、女三人寄ったら。かしましいとは愉快だね。ベリーグッド、ベリーグッド、お笑い、お喋り、ミュージック、明るく歌って、ナイトアンドデイ、ピーチクパーチク、かしましい」。三味線の歌江を中心に、妹の照枝と花江がギターで脇を固めています。

 けれども、この映像を見ても、かしまし娘が日本の音楽史における革命的グループだということに気がつく人は少ないでしょう。かしまし娘は女性がギターを弾いた史上初の音楽グループなのです。

 楽器の演奏は、歴史的に、性別役割が非常に強く見られます。三味線は女性も弾いていましたけれども、ギターは男性の楽器です。現在ではさまざまな音楽領域で活躍する女性ギタリストは少なくありません。けれども、紆余曲折の後、1956年に結成されたかしまし娘以前に女性ギタリストを擁したバンドはいません。アメリカのカントリー・バンドのカーター・ファミリー(1927~43)のサラ・ダウアティー・カーターとメイベル・アディントン・カーターがいましたが、日本においては初めてです。しかも、かしまし娘はエレキギターをとり入れたこともあるのです。この点はカーター・ファミリーより意慾的でしょう。国内のミュージシャンがかしまし娘の音楽革命に無知であるのはあまりにも情けない実情です。

 ロックバンドでは、「三大ギタリスト」という呼び名があるように、ギタリストが花形です。男女混成のバンドでギタリストは男性で、たいてい女性はボーカルか、キーボードを弾いています。ジェニファー・バトゥンは例外中の例外です。今でも、完全な男性中心主義です。

 カルチャー・クラブでボーイ・ジョージが女装して歌っていたのは、そうした玄奘に対するアイロニーとも言えるでしょう。

 ギターに限らず、ジェンダーから楽器を見ると、性別役割の根強さに驚かされます.。楽器とジェンダーの問題における最も悲劇的なケースは、カレン・カーペンターでしょう。彼女はもともとドラマーです。しかし、ボーカリストとして売りたいレコード会社は彼女からドラムをとり上げてしまいます。そのことだけが原因ではありませんが、今日カレン・カーペンターの名は、摂食障害の一種である神経性無食欲症、いわゆる拒食症の最も有名な症例として知られています。

 カレンの悲劇を思うと、日本の音楽シーンが鈴木さえ子を失わなかったことは、本当に幸いだったと言わざるを得ません。忌野清志郎=坂本龍一の『い・け・な・いルージュマジック』でドラムを叩く彼女の姿に多くの人々が魅了されます。その中にビートたけしや泉谷しげるもいるのです。

 かしまし娘の起こした革命は今も続いています。確かに、かつてほど楽器における性別役割分業は希薄になっています。けれども、音楽は非常にジェンダーの問題が根深い領域で、さまざまな研究がくわえられています。かしまし娘の意義がもっと広く認められるとき、楽器とジェンダーの問題も世間でより深く認知され、新たな音楽の発展も期待できるのです。
〈了〉


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