コムギの目が見えない理由 HUNTER×HUNTER キメラアント編 解説 その1

メルエムとコムギの恋の物語には、恋愛の持つ残酷性が上品に織り交ぜられていた。一見、二人の関係性はどこまでも美しいものに見える。白く輝く駒の美しさに目を奪われてしまう。しかし、その駒を冷静な眼差しで眺めれば、駒が二段重ねになっていることに気づくだろう。白い駒と盤上の隙間には、どんよりと黒い駒が隠されている。ダークサイドが忍のように息を殺して潜んでいる。その罠に気づいたとき、この物語の真の美しさが立ち現れるのだ。

コムギは目が見えない。もしコムギに視力があったら、どうなっていただろうか。メルエムをその目で見ていたら、どうなっていただろうか。想像にたやすい。二足歩行のアリのような、おまけに緑色の化け物を前にして、恐怖のあまり失神していただろう。恋愛どころはない、挨拶以前の問題だ。身も蓋もない残酷な話ではあるが、危うくそうなるところだった。コムギがメルエムに好意を持てたのは、真実を見ずに済んだからだ。つまり、盲目だったからだ。

恋は盲目。恋するということは盲目であるということだ。物語の最終局面、メルエムが間もなく死のうという頃、コムギは死にゆくメルエムの手を握り、顔を撫ぜる。指の数が足りないことや、顔の形質、皮膚の触感から違和感を持たない方が不思議なくらいだが、コムギが意に介す素振りは見られない。コムギだって毒に侵されているから、メルエムの正体に気づく余裕がないという見方もできるが、僕はその見方をとらない。二人の最期のシーンに恋の盲目を視ようと思う。と、ここまで書けば僕も直視せざるを得ない。誰よりも盲目になっているのは、二人の物語に惹かれっぱなしの僕の方だった。

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