あなたの住む街で寝◯ロする。

「彼」から突然、LINEをブロックされて2ヶ月半。

少しずつ気持ちの整理も付き、彼のことで感情が荒れることはまったくと言っていいほど無くなった。彼のことを思い出さない日は無いけれど、執着からは抜け出せたんじゃないかな。

最近新しく気になる男性ができたことも、私の気持ちを和らげさせた。

3回デートをして一度彼の家にも泊まった。ただいろいろと理由があって付き合うには至らないだろうと思っている。

それでも、手を繋ぐだけでドキドキしたり、抱きしめられて頭を撫でられる幸福感、そしてそこに「嘘」や「下心」の影を感じないで済む安心感は、恋愛は楽しいものなんだよ、と私に思い出させてくれた。



そんな感じで平穏を取り戻しつつある私の恋愛事情だけど、どうしても「彼」を思い出して闇落ちしてしまう時がある。

それは「彼」が住む街を歩いている時だ。

偶然だけど、私は「彼」が住んでいる街に友人が多い。行きつけの店もある。ちなみに彼の家に招かれたことは無い。

昨日もその街の行きつけのバーで、友人の誕生日会が開かれるということで行ってきた。集合時間までに少し余裕があって、軽く食事をしてからバーに向かおうかと思って歩いていると案の定、恨みつらみ妬み嫉み、あらゆる負の感情がじわじわ頭を侵食してくる。

もしここでばったり彼に会ったら?

しかも、女性と一緒に歩いていたら?

私は彼の肩をしっかり掴んで呼び止めて、声をかけるだろう。

「久しぶり、急に連絡が取れなくなったけどどうしたの?」

「こちらの女性は彼女?それとも奥さん?ずっとパートナーはいないって言ってたけど、いい人が見つかったんだね、良かったね。」

「・・・ねえ、私のことずっとどう思ってたの?」

妄想の中の私は、彼と、女性にもはっきり聞こえるように彼を糾弾する言葉を並べ続ける。なるべく彼を傷つけるように、なるべく彼を狼狽させるように、罵詈雑言を浴びせたい気持ちを堪えて、これまで抱えていた鬱屈する気持ちを針のようにしてぢくぢくと彼を刺す。


結局、自分が何を食べたいのかすらわからなくなって、私は妄想散歩を終わらせてバーへと向かった。

見慣れた友人たちの顔。今日は貸し切りだ。

席について生ビールをもらう。少しずつ人も増え、ある人はギターを掻き鳴らし、ある人は歌い、いつもの賑やかさ。私は調子よくお酒を飲んだ。大いに笑った。友人たちと談笑していると、さっきまで私の心を埋め尽くしていた負の感情は嘘のようにすっきり無くなっていた。

空腹に勢いよくビールを流し込んだせいか、酔いが回るのが早い。気持ちが悪くなって、お店のソファにごろりと横になった。仲間内の集まりだし、そういうことも許容してくれるお店なの。

それにしても、こんなに酔ったのは久しぶりだった。私は2時間くらい寝てしまっていたらしい。マスターの声が聞こえる。

「お〜い、サバ、そろそろ店閉めるぞ〜。みんな次行くってよ。」

店を閉める時間ということはもう私の終電は終わっているということだ。朝まで飲むしか無い。

「は〜い・・・ドッコラショ」

??? 起き上がろうとして、顔が、ネバネバしていることに気づいた。

何が起きたのか理解するのに少し時間がかかった。

私は寝ながら吐いていた。しかも、お店の布のソファに。

「・・・私、寝ゲロしてる。」

みんなの目がギョッと丸くなる。

「えっ!」

「おぉぉぉぉぉぉい!」

マスターがまじかよ!!と叫びながらおしぼりを山ほど持ってきて渡された。もーーーめちゃめちゃ拭いた。

周りは笑っていた。中には一緒になって私の服や髪を拭いてくれるひともいた。

呆然としているような、気が動転しているような、とにかく必死で片付けた後、それでも消えることのないソファのシミにため息を付いた。

「ほんと、すみません・・・。後で汚損代払います」

「汚損代なんていいよ、あとはやっとくから。みんな待ってるから行きな。」

「はい・・・。」

マスターの優しさに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、私は店を後にした。まだ髪や顔が汚れていたので、見かねた友人がコンビニに寄って除菌シートを買ってくれた。

私は情けなさと恥ずかしさに苛まれながら「彼」のことを考えていた。

今この街の、そう遠くないどこかで、彼は家族と一緒に眠っているんだろう。かたや私は酔っ払って人様の店で寝◯ロを吐いている。人としてどうかと思う。

彼のパートナーは、酔っ払って吐いたりする女性ではないんだろう。彼もあまりお酒を飲まない人だった・・・。そもそも、男の友人が大勢いる店で朝まで一人で飲む女、私は自分がそれでいいと思っているけど、モテるかと言えば間違いなくモテないよね。

その後、私は二軒目の店で優しい友人たちに慰められながら、水を飲んでいた。

「酔っ払って店の中で立ちションしたやつもいるんだから大丈夫だよ」

「う◯こ漏らすよりマシだよ」

フォローになってない。というかこの界隈の飲み客はとんでもねえ奴が集まってんな、と思ったけど、みんなの優しさは素直に身に沁みた。

その後、まだ始発が出ていない時間に解散となってしまった。私は漫画喫茶で少し眠ろうと思い、タクシーで帰るみんなを見送ると、最後に残った一番仲のいい男友達が私を呼び止めた。

「ホテル代払うから、泊まろうぜ。」

この友人とは何度かホテルに行ったことがある。恋愛感情はないけど、なんとなく。正直セックスにはあまり気乗りしないのだけれど、ホテルのベッドでゆっくり眠れるのならそれでもいいか。

「よく寝◯ロ吐いたあとの女とセックスできるね。」

「吐いてる最中なら立たんかもしれんけど、全然大丈夫だよ、てか風呂入りたいだろ?」

「うん。」

私はすんなり友人についていった。

歩きながらまた思う。

「彼」はこんなネゲラー尻軽女は選ばないのだ。遊ばれる女には遊ばれるだけの理由があることを思い知らされてまた情けなくなるけれど、

「ま、それでもこれが私だし、仕方ないな」

と居直った。

友人とのセックスは相変わらずつまらなかった。







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