サウナの神様。
サウナに行くと大抵1人は、外人のお客さんがいる。髭モジャの屈強な男性から、美しいと感じるほどの美少年まで、バリエーションは様々だが、最近よく見る気がする。
近年のサウナブームの影響はここまで及んでいるのか。
新橋アスティルに行った。
サウナまとめを見ていても、必ずと言っていいほど名前を見る。アメトークにも出ていたので、気になっている人や、訪れたことがある人も多いと思う。
アスティルのサウナは、2種類ある。オートロウリュ付きのサウナと、ミストサウナ。
人気なのはオートロウリュが着いているサウナだろう。私が訪問した時も、席は8割くらい埋まっていた。
その中に、1人。中東の顔立ちの男性がいた。髭を生やし、サウナハットからは、長い少し縮れている感じの髪の毛が見えている。熱が最も伝わりやすい上段で胡座をかきながら、威厳を放っていた。これが覇王色。
男性は汗をかきながらも微動だにしない。目も開けずに、静かに呼吸を繰り返す。なんだかかっこいいなと思った。
私は、流れる汗を観察したり、他の人の発汗量や様子などを伺い、その時の光景を楽しむ。サウナストーンの鳴らす音や、外から聞こえる桶の音。色んなところに意識が向いてしまう。
一方、その男性は、無駄なものを全て削ぎ落としストイックにサウナに挑んでいるように見えた。
外国人は男性でも女性でも絵になる。
日本人のぺったんこな顔とは違い、輪郭がはっきりしている。私は典型的な日本人顔だ。輪郭や目鼻立ちは薄く、肌も白く、ナヨっとしている感じがして、なんだか頼りなさを感じる。モンハンで私をキャラメイクする人は、ドスジャギーにすら苦戦するだろう。
私の顔を日本人代表として扱うな、と多方面から言われそうだが、一旦そこは置いとこう。投げようとしてる卵を今すぐしまっておくれ。
私は水風呂に向かった。アスティルの水風呂は、壁から水がつたい小さく跳ねる。水に漬かりながら、パラパラと水のつぶが頭に降り注ぐのだ。私はアスティルの水風呂が好きだ。こじんまりしているけど、欲しいものが全てある感じ。秘密基地感がある。
しかし、小さいが故になんだか端の方で浸かっている寂しさも覚える。まるで庭園の池にハマってるみたいだ。人生すみっコぐらしなのにな。
そこに先程の外国人男性が入ってきた。息を吐きながら、ゆっくりと肩まで沈む。手で水を掬い、顔から頭に冷えた水を浴びた。(これは、サウナによってはマナー違反なので注意)
顔からこぼれる笑み。なんだか神聖なものに見えた。黒い髪と髭、ニコニコの笑顔。上から舞い降りる水しぶき。人間の誕生とはこのような景色だったのかもしれない。
先程まで庭の池だった水風呂が、命を産んだ始まりの泉となる。
男性はザバっと上がると、体の水分を軽く拭い、姿勢よく椅子に腰かけ目を閉じている。整う時くらいだらしなくいてくれたら、人間味も感じるが、そこまで完璧だとまるでサウナの神様じゃないか。
神様の横で、愚かな人間(私)は整いに身を任せ、口を開き天井を見上げる。アスティルは外気浴が無い分、じんわり暖かい室内で、ゆっくりと体温が戻るのを感じられる。
その横でボソッと「違うなぁ」と残念そうな声が聞こえた。横を見ると神様がサウナに戻る途中。休む時間がだいぶ短い。
これは私の憶測なのだが、神様はストイックにサウナと向き合い、時間きっちりとセットをこなしながらも、整いには繋がっていないんじゃないか。『整う』という言葉が浸透したことにより、『整う』『整わない』という分断が生まれる。
「今日は整わなかったな。」
という言葉は、なんだか悲しいものに聞こえる。
しかし、サウナは整いだけが全てではない。サウナに入ってる時間、水風呂の爽快感。それがある時点て、サウナは最高なんだ。
神様。
もし、整いを求めているならいつかたどり着ける日が来ます。しかし、それが全てでは無いのです。私は、あなたのサウナでのストイックな姿勢にも、水風呂での笑顔もとても素敵だと思いました。
どうか、色んな情報に飲まれず、あなたのサウナを楽しんでください。いつが良い整いが、あなたに訪れますように。
ちっぽけな人間は、そんなことを思いながら浴槽から出た。
脱衣所で髪を乾かしていると、神様が出てきて、自前の炭酸水をぐいっと飲み、ぷはぁ〜 と大きな息を漏らしていた。ニコニコの笑顔で。
この人、めちゃくちゃサウナ楽しんでるじゃん。
私は訳もなく、嬉しくなってしまった。
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