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タトゥー 2

もうすぐ26歳になる春、ポルトガルに旅行した。オレンジ色の街灯、石畳、寂れた海岸、哀愁漂う街並みに空気、音楽のような美しい響きの言葉、出会った素敵な人々たち。すぐに再訪したい、戻って来たいと帰国する前から思った。

航空券を探す傍ら、タトゥーショップを探した。
あのタイミングでタトゥーを入れようと思った理由なんて本当は何もなかったのかも知れない。そもそもタトゥーを絶対に入れかったわけでも、入れることが自分にとって何か意味や信念、目的があるわけでもなかったのだ。あえて言うならファッション。それ以外の理由なんてない。

とにかく一生消えないものを入れるのだから、絶対にここでなくては嫌だという店を探して見つけたのは一癖も二癖もありそうな彫師。技術、センスが素晴らしいということにも惹かれたのだが(誰もが知っているであろうアメリカの俳優が来日した時直々に指名され、3日連続で彫ったとかのエピソード満載)、言ってることがいちいちカッコよすぎて。
「タトゥー入れちまえばみんな有色人種じゃない?」
「俺はガキには施術しない。ガキには早い。条例では18歳はokだけど俺は嫌だ。だって、順番がおかしいだろ?まず酒飲んで、煙草吸って、女に騙されてから来い」
こんな面白い人、超有名俳優のみならず私も放っておくわけがない。彼はヨーロッパのあちこちで勉強してきた人で、ポルトガル語が話せるってのも私としては運命?を感じた。

どの部位に入れるかというより先に、デザインは決めていた。彼はオリジナルしか絶対に彫らないので絵を持ち込んでもアレンジするとのことだった。彫る当日に打ち合わせをして、その時店にある資料を参考にしたり、頭にあるイメージを伝えてくれたらその場で描くと言っていたが、私は昔のクラブ遊び時代の、絵が抜群に上手い友達にデザインをいくつか描いてもらっていた。その時はほとんど付き合いがなかったんだけどね。もちろん彼女には言い値の報酬を払ったよ。当時彼女は絵を生業としていなかったけれど、人にこういった依頼をするのに無償はあり得ないと考えているから。今でもよく覚えてる。久しぶりに彼女と横浜のジョイナスの喫茶店で会ってさ。なんとなく話の流れで「そうだ!私、タトゥー入れたいんだよね」って話したら「どんなの?」ってその場でテーブルに置いてあったナプキンにボールペンでスラスラ描いてさ。そもそもタトゥーの相談するつもりで会ったわけじゃないから紙や鉛筆なんて2人とも用意してきてない訳よ。色々あってもう彼女とは縁が切れてしまった(いや、私が切ったんだが)けど、私の身体には彼女の一部がいるというわけだ。灰になるまでね。

6月には2度目のポルトガル旅行。出発の数週間前にタトゥーショップの予約が取れた。
「今度、私、タトゥー入れるんだよね」と店で仲良くしていた子に話したら
「え!?私も入れたい!店どこにあるの?いくらするの?」と乗り気になった。一緒に店のホームページに沢山載っていたデザインを眺めていると
「予約する!」と彼女。
ええっ、そんな勢いというかノリでいいの?もっと他の店も見てみた方がいいんでない?え、もうここでいいって?スゲー!って思ったわ。
で、その場で電話したらたまたまキャンセルが出て空いてたのが私が予約入れた日の午後。友達と同じ日にタトゥーを入れることが決まった。