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酔いどれ雑記 134 ナキウサギ


大学へ現役で行っていたとき、母が「これ、あげるから使いなさい」と言って渡してきたバッグーーいやほとんどただの袋、今で言うならばかなりたよりない厚さのキャンバス地で出来たエコバッグみたいな袋を学校に持って行っていました。よく言えばナチュラルな生成り色で、ただ取っ手が縫い付けられていただけのトートバッグ。しかも表側には一般的には可愛いとは言いがたいウサギの絵がでかでかと紺色で描かれていました。私はそれが恥ずかしくて、柄のある方を自分の身体の内側に、無地の方が外に見えるように持っていました。ウサギには罪はないしなんだか心が痛みましたが(母に対してではありません)、やっぱり恥ずかしくて。みんなはブランドのバッグや、そうでなくとも思い思い好きなものを持っていたし、私は母に強制された、しかも哀れなウサギの柄のよれよれの袋......。これが無地とか、別に可愛いともかわいそうと思わないようなものだったらまた違った感情がわきおこったはずです。ただダサい、嫌だな、と思ったくらいで済んだ気がするのです。

ある日、友達の一言で私は消えてしまいたい気分になりました。
「どっかでカバン、安くなってたら教えてあげるね」
友達は私がウサギを隠していたのをとうに気づいていたんだ、そしてそれを恥ずかしいと感じていたことも......。その子はお互い家の悩みとかも話せる子でしたし、嫌みで言ったわけではないことは理解しています。なのでその子に腹が立ったりなどもしませんでした。でもただただ、ひたすらみじめで、哀しかったんです。

夏休み前に、バイト代でバッグを買いました。スーパーの値下げワゴンに入っていたバッグ。2.980円とかそんなものだった気がします。ものすごく気に入ったわけではありませんが、気に入っているつもりでした。新しいバッグを手にしてから、ウサギのバッグはどうしたのか覚えていません。私のことだから捨てたとは思えません。母がくれたからじゃない、ウサギがかわいそうだったから......。どこにいったんでしょうね、あのウサギ。