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自信の拠りどころ『さつま福永牛』


はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは『さつま福永牛』を作る有限会社福永畜産林 英男さん(精肉部長)と米倉 麻紗子さん(経理)です。

認証品のこと、未来のこと、はたして"自信"はどこに生まれるのか…。



聞き手:青嵜(以下省略)
畜産業を営む”有限会社福永畜産”さんの認証品『さつま福永牛』。

ブランド牛の育成だけでなく、食肉加工や食事の提供まで関わる事業展開をされているそうです。
そんなお話を、今回はお肉に関われて30年以上、出荷から販売までの統括をされている福永畜産の林 英男さんと、経理の米倉 麻紗子さんにお聞きします。

それではまず最初に、お仕事の全体的なところから、普段どのようなことをされているか教えていただけますか?

(林さん)
仕事の内容を大きく分けると、牛舎に関わる班と、店舗販売の班の2つに分かれます。
さらに、牛との関わり方という点においては、大きくは肥育(ひいく)と生産という形に分かれますね。

肥育というのは、出荷する牛に餌を与えたり、床替え(寝床をふかふかの状態に保つこと)をするなど体調の管理をしてます。
生産では、親牛の種付する班と、子牛が生まれてから育成する班との2手に分かれてます。

さらに、肥育後に出荷された牛を屠場で屠畜し、枝肉加工場で部分肉にしてもらい、弊社の加工場へ戻って来ます。その部分肉の筋をひいて、ステーキや焼肉、すき焼き用として切り分けて販売していますね。

あと、関連会社になるのですが、焼肉屋も経営していて、鹿児島市内の天文館に2店舗、東京の三軒茶屋に1店舗があります。

私を含めて、この記事を読む方も牛肉を食べる機会は多いと思うのですが、食べるまでのプロセス、つまり、動物として生まれ育ち食品として加工されて、という部分をリアリティをもって知っている方は少ないと思います。

その部分を少し詳しくお聞きしたいのですが、成長した牛はどのようなタイミングで食用になっていくのでしょうか?

(林さん)
生まれて9ヶ月から10ヶ月くらいで親牛として種付をする生産牛にするか、食用としての肥育牛にするかを判断します。

実際に食用になるのは、セリに出した後の大体30ヶ月(2歳半)前後で、食用として加工されてスーパーやお肉屋さんで目にするような形になります。


育成から加工し販売もされている訳ですが、冒頭のお話にもあったように、関連会社では焼肉屋さんとして”食べる”という行為の一番近いところも担われている。
ある意味、牛の一生に関わられている訳ですが、そのメリットやこだわりといったものはありますか?

(林さん)
やっぱり、一貫経営にすることで、飲食店でも良質なお肉をリーズナブルな価格で提供できるというメリットがありますね。

また、実際にお肉を食べられるお客さんの声や、自分たちが商品として扱う中で、飼料を含めた育て方で実際にどういったお肉になりましたっていう味が分かるので、飼料の改良だったり、育て方に色々と反映していけるというのが大きいです。

農家さんにもよるのですが、多くの農家さんは、自分の肉をどこに出荷したとか、そういうことはあまり分かっていない場合が多いので、自分の牛を食べる機会がないのが実情のようですね。

なので、自分のところの牛の味をしっかりチェックできるし、その先の血統にもどういう種を付けていくかとか、そういうことも考えて、おいしいお肉にすることを追求できる体制にあります。


全ての行程を把握される中で、お客さんの声を反映しながら品質を管理されている。

まさに牛のプロフェッショナル集団とも呼べる福永畜産さんですが、さつま福永牛としてのこだわりのポイントを教えていただけますか?

(林さん)
まず、牛の餌に炊き餌というものを使っていることがポイントです。
これは、今は大きな釜に火を入れて餌を蒸気で蒸すことで、食べた牛の肉が柔らかくなり甘い感じに仕上がります。

この炊き餌というのは昔ながらの飼料なのですが、毎日蒸す必要があるので結構手間がかかることから、(炊く方式ではない)通常の飼料に頼ってる農家さんが多いのが実情です。

ただ、やっぱりこの炊き餌を肥育後期の牛たちに食べてもらうことで肉に照りが出たり、脂の融点が下がることで、口に肉を入れたときにすっと溶けるような感じになるので、手間はかかりますが、おいしいお肉にするために、そこはこだわっている点ですね。


餌と合わせて環境にもこだわりがあるそうですが、具体的にはどのようなことをされているのですか?

(林さん)
牛がリラックスできる環境にすることは肉の質にも繋がるので、いつもふかふかの大鋸屑(おがくず))を用意した床にしてあげたり、夏は暑いので清潔な空間を保てるように調整したミストシャワーを入れたりしていますね。

あと、牛舎でジャズやクラシック音楽を流していることも特徴だと思います。
音楽が流れていると、牛がただ座って寝るんじゃなくてお腹出して寝てくれたりするので、それが、もうなんか気持ちよさの表現ですよね(笑)

やっぱり、リラックスしてる牛の肉って柔らかいように思うし、緊張した状態がずっと続くと身体も強張ってくるから、肉質もやっぱり硬くなるのかなって思っています。

あと、管理する環境という意味では、AI技術を取り入れているのも特徴ですね。

子牛や肥育中の牛、繁殖牛、生産牛だったり、それぞれの牛によって違うセンサーを付けていて、例えば、大きな牛とかは、一度倒れると自力で起き上がることができずに30分〜1時間程で死んでしまうので、ひっくり返したら「ひっくり返ってますよ」っていうのをお知らせしてくれたり、今これだけご飯を食べました、これだけ動いてます、これだけ座ってますとか、細かい情報が一頭一頭出てくるんです。

また、繁殖中の牛は、発情が来てますよとか、子牛はミルクどれだけ飲みましたよとか。
この子は、今日、いっぱいミルクを飲んだからもう大丈夫ですよとか。

それぞれを24時間体制で管理しているので、パソコンやスマートフォンからでもその数値を見ることができるので、この牛は病気の傾向がありますよとか、発情してるから種付けしなきゃなとかも分かります。

やっぱり、人ができるところとICT機器ができるところを分けることで、働きやすく、作業の無駄もない、さらに牛の状況も細かく確認することができるので、より高い精度で良い品質を目指すことができますね。


林さんは、そんな背景のある食品を、飲食店として食品を扱う中で、一番お客さんに近いところで商品を提供していらしたとも伺いました。商品をおすすめするという点においても、知っているということの強みはありますか?

(林さん)
実際に生きているときから牛を見ている訳ですし、その牛を加工して、こうした方が美味しくお客さんに提供できるとか、ちゃんと自分で確かめているので。

そういったことを評価いただけて、東京虎ノ門「The Okura Tokyo」(旧:ホテルオークラ東京)さんや、人形町今半さん、山形屋さんなどにお取り扱いいただいています。

まあ、安心安全という点を含めて自信はありますよね。
どこよりも。


話題は少し変わって、もう一つお伺いしたいテーマ”未来”についてもお聞きします。

薩摩のさつまには、次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれていますが、この地域ブランドを通して、さつま町や子どもたちの未来がどうなってほしいといった想いはありますか?

(米倉さん)
さつま町が地元で、福永畜産に勤めるようになって色々な事業者さんを知るきっかけができたんですけど、さつま町をすごい活気づけようとみんなが頑張ってるなって思っています。

だから、子ども達にも、その故郷のことを自信持って話せるように、これからもっとなっていけたらいいなって思いますね。


自信をもって胸をはって、故郷のことを想える未来。素敵ですよね。

一方で、自分の若いときのことを思い返すと、親や年上の方に自信を持ちなさい、と言われたことがあって、でも、自分では自信を持つにはどうしたら良いのか分からなくて悩んだことがあったのを思い出しました。

今、子ども達が自信を持って故郷のことを話せるようになるには、何が必要だと思いますか?

(米倉さん)
自分は福永畜産に勤めるまで、さつま町には何があって、どんなことしている、とか全然知らなかったので、そういったことを知ってもらうことから始まるのかなって思いますね。

私も知ることで、意外とさつま町もすごい頑張ってるな、って思うことがありましたし、勤めるまでは、まちゼミとかも含めて全然知らなかったです。

色々な事業者さんが皆さんそれぞれで頑張っていらっしゃるので、知ってもらえたら、若い子たちも結構みんな「お、頑張ってるじゃん、さつま町」みたいな感じで、必然的に自信に繋がっていくのかなっていう気はします。

だから、自信に繋がる1番の近道は、町のことをもっと知ってもらうことかもしれませんね。


知ってもらうことは、大きいですよね。

この取材も、ブランドのこと、認証品のこと、作り手の皆さん、町のことをもっと、より多くの方、それこそ地域の中にも外にも伝えたくて取材をさせていただいています。

一方で、自分の子どもだけならまだしも、町全体の子どもとなると意外と接点を持つことが難しかったりするのかなと思います。

その点で言うと、世代を越えて子どもにも知ってもらう機会を作るためには、具体的にどんなことができると思いますか?
アイディア等あれば、という意味でお聞きします。

(米倉さん)
知ってもらうためにも色々な方法があると思うのですけど、例えば、2〜3ヶ月前に求名小学校の3年生が社会科見学で来てくれたことがありました。

他にも、1年半前に沖永良部の給食に「さつま福永牛」を取り入れてもらったり。さつま町の給食でも地元産のお肉ということで、以前取り入れてもらったことがあります。

また、自分たちの会社の紹介や、商品になるまでの工程、仕事内容など、子どもたちに分かりやすくまとめた本や紙芝居を作るのも面白そうだなと思います。

あと、色々な事業者さんが集まって、子ども向けの職業体験のイベントを行うのもいいですよね。
そういった体験を通して、「将来ここで働きたい」と思ってくれる子が1人でも増えてくれたり。

そんなことの積み重ねが、子ども社会の中で知ってもらう活動になるのかなと思いますね。


確かに、大人の方が子どもの日常、つまり子ども社会に入っていくことで、知ってもらえる機会に繋がるかもしれませんね。

(米倉さん)
大人も子どもも集まる場所があると、もっと知ることができる機会が増えるかもしれません。

まだ目が離せないちっちゃい子ども達を遊ばせながら、隣でお母さんたちが喋れるような、そういった集まる場所があって、そこでなんかこうね、カフェとかあったらいいなーとか昔はよく思ってました(笑)

地元産の食材を色々と使って、雑貨とか売っててもいいんですけど、お母さん達がゆっくりしながら子どもたちが見える範囲で遊んでる〜みたいな。

なんか、そういう施設があればいいな!
みたいな(笑)


夢が広がりますね(笑)地域の人も商品も、それこそ町外の人も、子ども達まで自然と集まって、色々なことが交流する接点。顔が見えることで知る機会にも繋がる施設、素敵です。

その第一歩が、今は施設ではなく、この地域ブランドが拠りどころになっているようにも感じるので、そのうち本当に形を成して、拠点としての”拠りどころ”が生まれると良いかもしれませんね。

改めて今日のお話を振り返ると、さつま福永牛も、子ども達の未来の話も、”知ることで生まれる自信”というのが共通のキーワードだったように感じます。

今日は貴重なお話をありがとうございました。

(林さん・米倉さん)
ありがとうございました。


※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)


◆◆◆ 認証品のご紹介 ◆◆◆

   有限会社福永畜産『さつま福永牛』

ジャズやクラシックが流れ、夏は扇風機とミストシャワーで心地良い環境を維持している牛舎。そんな牛舎では、牛がお腹を出して寝るほどリラックスしています。
穀物と糖蜜の独自ブレンドを専用釜で毎朝ゆっくりと時間をかけて蒸し、湯気と共に甘い穀物の香りが牛舎一面に立ち上る。
人のご飯と同じように調理した「炊き餌」を食べて育った「さつま福永牛」は脂の融点が低く、口に入れた瞬間スーッととけるような口当りのお肉に仕上がります。
抜群の霜降り肉は、口の中いっぱいに広がる甘味とさっぱりとした後味が特徴。赤身は、黒毛和牛本来の旨味を堪能できます。
飼料・環境・血統・一貫経営にこだわった至極の逸品です。


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