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全国自然博物館の旅【36】おしかホエールランド

人伝に博物館を薦めてもらうことは多々あります。今回訪れたのは、noteで出会った方からご紹介していただいた施設です。これからも、いろいろな場所でのご縁を大切にしていきたいと思った次第であります。
オススメしていただいたおしかホエールランドでは、期待をはるかに超える素晴らしい学術体験ができました。


クジラを食べて、クジラの秘密を学ぼう!

クジラは人気の高い海洋哺乳類であり、彼らを愛するあまり、好きが高じて海洋生物学者になった方もいらっしゃいます。高度な知能を有する彼らの生態は謎だらけで、その不思議さに魅せられた人はたくさんいます。
神秘にあふれた海の巨獣の真理が学べる博物館。その魅力的な学術施設は、石巻市の海岸沿いに立っています。

ということで、仙台からJR仙石線に乗って石巻駅にやってきました。おしかホエールランドは駅から離れているため、レンタカーもしくは路線バスで向かうのが定石です。

スタートはJR石巻駅。石巻市の隣に位置する登米市は、仮面ライダーやサイボーグ009の生みの親・石ノ森章太郎先生の出生地です。

石巻駅前から車で走ること約40分。ウミネコの舞う牡鹿半島の真っ青な空と海が見えてきます。たくさんの船が停まっている鮎川港は、観光地としても有名な漁業の重要拠点。定期的にクルーズ船も運行しており、東北の海の魅力を多面的に体感できる場所です。
そして、牡鹿はクジラ漁の聖地。至るところにクジラを模した造形物があります。心地よい潮風を浴びながら、捕鯨に支えられて発展してきた街の空気を感じましょう。

たくさんの船が並ぶ鮎川港。牡鹿で味わえるおいしい海の幸は、本港の漁師さんが獲ってきてくれたものなのです。
港には、多くのウミネコが集まっています。春夏の東北ではよく見られる光景ですね。
鮎川港に築かれたアーチ型のオブジェ。クジラの世界へのゲートのようにも見えます。
ザトウクジラの親子の模型。牡鹿は捕鯨の聖地であり、クジラとの関わりがとても深いのです。

鮎川港に面して立っているのは、牡鹿の観光拠点「ホエールタウンおしか」です。学術施設と商業施設が融合した魅力的なスポットであり、牡鹿の自然や文化を学べるうえに、おいしい地元の幸を堪能することができます。
お腹が空いていたので、まず最初に腹ごしらえ(笑)。観光物産交流施設「Cottu」にはお土産屋さんからレストランまで多くの店舗が入っており、新鮮な牡鹿の海の恵みを味わえます。牡鹿と言えばクジラ、ということで筆者はクジラ料理を選択! 肉厚の刺身は噛めば噛むほど味が出て、最高においしかったです!!

地域の観光拠点「ホエールタウンおしか」。博物館・レストラン・物産店などを擁する人気スポットです。
ホエールランドの食と買い物の中心・観光物産交流施設「Cottuコッツ」。牡鹿のクジラや魚介類を味わいましょう。
ランチはクジラの刺身。噛みごたえ抜群で、最高においしいです!

クジラ料理を堪能したら、コメットに隣接する学習施設へGO。牡鹿の自然と文化を総括的に学習できる「牡鹿半島ビジターセンター」は、まさに地域の博物館とも言うべき素晴らしい学びの場。地域自然の特性を知るのは、本当に楽しいですね。

ホエールランドと並ぶ素晴らしい学術施設「牡鹿半島ビジターセンター」。牡鹿の自然環境について濃密な学習ができます。
立派なニホンジカの剥製標本。哺乳類だけでなく、鳥類の剥製も展示されています。
動物標本・植物標本の展示も充実。牡鹿にはどのような生命が息づいているのか、美しい展示スタイルで楽しく学べます。
タッチパネル式モニターを用いた生物解説。新しい施設ですので、デジタル展示技術もふんだんに盛り込まれています。
情報満載のポスター展示。牡鹿のみならず、シカによる食害は日本全国共通の問題です。

牡鹿半島ビジターセンターでの濃密な学習に大興奮。嬉しいことに、さらに生物学習の時間は続きます。
牡鹿の街と最も馴染みの深い海洋生物であるクジラたちの博物館が、ビジターセンターの隣に設けられています。とてつもなく大きな海の生き物だということは知っているけれど、クジラたちの実像は最先端科学をもってしても、まだまだ謎だらけです。驚異に満ちたクジラたちの世界、捕鯨の街の博物館でとことん学びたいと思います。

満を持して、おしかホエールランドへ。ミステリアスなクジラたちの生態の学習、楽しみでたまりません。

巨鯨たちの海へと誘う特化型博物館

海に還った哺乳類の進化と生態

ホエールランドは広大な展示ホールがメインとなる学術展示施設です。入館すると、目の前に巨大なクジラの全身骨格が現れます。
当該標本は推定全長17 mに達するマッコウクジラのオスであり、鮎川港の捕鯨船によって捕獲された個体です。クジラの巨大さと神秘性が伝わってきますね。巨鯨たちの秘密を知る探究の始まりです。

入館直後、いきなり大物が登場。推定全長およそ17 mに及ぶマッコウクジラの全身骨格です。
マッコウクジラはシャチよりも強力なハクジラ類。頭部の上部が凹んでいるのは、ここに「脳油」という特殊な油を貯めるからなのです。
本個体は、鮎川港に拠点を置く捕鯨会社の船によって、小笠原の海にて捕獲されました。どこから見ても、すごい迫力に圧倒されます。
タッチパネルを用いたマッコウクジラの画像・映像解説。驚きの能力、体の構造、特殊な生態について視覚的に学ぶことができます。

クジラを知るために重要なのは、五感を駆使して「体で感じて学ぶこと」です。というわけで、本館にはクジラの骨に触れる体験展示コーナーがあります。
海に生きるクジラたちの骨の重さ・形・密度を、自分の手を通じて感じてください。これらは巨大なクジラの一部であり、骨1つ1つに命が通っていたのです。骨から得られる情報は、クジラたちの秘密を解く海からのメッセージなのです。

マッコウクジラ全身骨格前の展示コーナーでは、クジラの骨にタッチできます。こちらはアカボウクジラの腰の椎骨にあたります。
同じく大型種の腰椎骨。質感はもちろん、どれくらいの重さがあるのか、実際に手に取って感じてみてください。
ミンククジラのクジラヒゲ。彼らのヒゲは厳密には「ヒゲ」ではなく、水中の小動物を濾し取って食べるための「歯」なのです。

本館では広大なホールの壁にクジラの巨大イラストがあしわられていて、そこには彼らの生態や進化にまつわるキャプションが多数配されています。クジラは神秘と奇跡に満ちあふれた存在であり、彼らの秘密に触れると生命のたくましさを強く感じます。
ぜひとも、本館のキャプションを余すところなく読んでいただきたいと思います。きっと、クジラに対する関心が何倍にも膨らむことでしょう。

ホールの壁面を大胆に活用したキャプションの表示。クジラに関する様々な謎を説いてくれます。
クジラの回遊についての解説。彼らはかなり大規模な移動を行う海洋生物であり、その生態を理解するためには地球規模の研究を実施しなくてはなりません。
クジラの進化の解説キャプション。古代クジラの復元図が添えられていて、とてもわかりやすいです。
キャプションと合わせて各種標本も展示。シャチの下顎の骨であり、ハクジラ類が恐ろしい肉食動物だと容易に見てとれます。
イワシクジラのクジラヒゲ。前述の通り、ヒゲは濾過食用のフィルターであり、見た目よりもかなり頑丈にできています。

標本展示とキャプションでたっぷり勉強したら、活き活きとした野生のクジラたちの姿を見に行きましょう。本館のシアターコーナーでは、自然界に生きる様々なクジラの超美麗なドキュメンタリー映像が上映されています。
無限なるマリンブルーを舞う、雄大なクジラたち。その姿は現世の生き物というより神話の民のようです。それほどまでに深い神秘性も、クジラが人を惹きつける要因の1つなのかもしれません。地球と海とクジラ、超壮大な存在が織り成す世界に身を投じてください。

ダイナミックにクジラの生態映像が見られるシアターコーナー。映像の録画と撮影は禁止ですので、ぜひとも現地にて壮麗ななクジラたちのドキュメンタリームービーをご覧ください。

捕鯨の街がクジラの神秘に迫る!

展示は後半戦へ突入。ここからは、様々なタイプのクジラたちが来館者を出迎えてくれます。
ホール中央のパワフルかつダイナミックはマッコウクジラとは対照的に、コククジラの子供やハナゴンドウなど可愛いクジラが登場(とはいえ、他の多くの海洋生物と比べてかなり大きいので迫力は十二分にあります)。
これらの個体は宮城県の海で捕獲されたクジラたちです。日本の海にもこれほど多様なクジラたちが泳ぎ回っていると思うと、とても誇らしい心地になりますね。

ここまでの観覧で展示ホールを半周しました。ここからが後半戦。多種のクジラたちのイラスト展示を拝むと、彼らの多様性に圧倒されます。
子供のコククジラの全身骨格。鮎川港から近い江島の沖にて、大型定置で混獲された個体です。
ハナゴンドウの全身骨格。イルカのような体型ですが、体のサイズは一回り大きいです。
小型のハクジラ類スナメリの骨格標本。石巻港で発見されたときには多くの部位が白骨化しており、

そして、人とクジラの関係を語るうえで欠かせないのが捕鯨です。クジラの保護と狩猟の狭間で揺れ動く世界の情勢。これからどのようにクジラと関わっていくのか、これから世界中の人々と共に改めて考えなければなりません。その未来を切り拓くヒントが、牡鹿の歴史の中にあると思います。
自然科学展示と同じく、牡鹿のクジラ文化の展示からも大いなるメッセージが伝わってきます。クジラたちを保全するためには、彼らと我々人類の関わりについて学ばなければなりません。クジラと共に生きるために人類は何を成すべきなのか、展示を通して考えてみましょう。

本館オリジナルキャラクターが、クジラの生態や捕鯨の歴史について解説。ボイス付きなので、とても愛着が湧きます。
クジラと共に歩んだ牡鹿の歴史年表。街の発展にクジラたちがどのように関わってきたのか、詳しく学ぶことができます。
美しい牡鹿半島の映像展示。海とクジラと人の関係性を学び、持続的な水産資源利用について考えてみましょう。
牡鹿の海で採れる水産資源のプロットマップ。クジラのみならず、多くの海洋生物が古くから人々の食生活を支えてきました。

日本の捕鯨産業を支えてきた牡鹿は、ホエールランドの設立により、今やクジラ研究の重要拠点となっています。広大な牡鹿の海をフィールドとし、謎めいたクジラの生態を解き明かす本館のスタッフの研究記録は、生物マニアの探究心を強く刺激してくれます。牡鹿をはじめ、世界中で多くの研究者が保全と生態解明のためにクジラを追っているのです。

パネル展示「ホエールランドニュース」。牡鹿で起こっている自然科学の事件を学芸員さんが紹介してくれます。
牡鹿半島に打ち上がったスジイルカの標本作成報告。クジラの骨には多くの脂肪が含まれており、入念な脂抜きが必要となります。
陸地にストランディングしたクジラの対応についての解説。海岸で弱っているクジラを見つけても決して自分で助けようとはせず、必ず博物館や役所に連絡してください

謎多き海の巨獣・クジラ。無限なる巨大な体躯、高度な知性、全身から放たれる神秘性ーーその全てが人類を魅了し続けています。クジラという驚異の生命の真理を感じ、クジラと人類の歴史を学べるホエールランドは、究極の特化型博物館です。人々の文化は、生物学の発展にも寄与しているのだと強く感じました。

最後にもう一度、マッコウクジラの巨体を拝んでおきましょう。後ろから見ても、圧倒的な大きさに驚かされます。

おしかホエールランド 総合レビュー

所在地:宮城県石巻市鮎川浜南43-1

強み:巨大なクジラたちの大迫力かつ神秘的な骨格標本、牡鹿半島におけるクジラの自然科学的・人文科学的記録資料、体験展示や映像展示の活用などクジラの魅力を多面的に伝える創意工夫

アクセス面:海沿いという立地の特性上、車でのアクセスがオススメです。旅行者の方は、JR石巻駅付近の店舗でレンタカーを借りるのがベストだと思います。公共交通機関をご利用の場合は、石巻駅前からミヤコーバスの鮎川線に乗ってホエールタウンへと向かいます。ただ、帰りの便の中には石巻駅で停まらないバスもありますので、旅程を組む前にしっかりダイヤを確認しておきましょう。

極めて濃厚な学習ができる、クジラに特化した専門博物館。古くからクジラと関わり、クジラまつわるの全てを極めた牡鹿の地にふさわしい学術施設と言えます。捕鯨対象としてクジラを狩るだけでなく、畏敬と謝意の念を持ってクジラと関わってきたという事実が、街の歴史の展示からよくわかります。
クジラたちの大迫力の骨格標本に人々は強く魅せられ、彼らへの関心が一気に高まります。図表やイラストを多用したキャプションはとてもわかりやすく、神秘的な生態を知れば知るほどクジラの世界に引き込まれていきます。自然科学的も人文科学的にもクジラの謎を深掘りしており、まさにこれぞ究極の特化型専門博物館と言えます。
なお、生物マニアの方は、できれば半日以上の時間を確保してホエールタウンを訪れていただきたいと思います。おしかホエールランドはもちろん、牡鹿半島ビジターセンターでもかなりのボリュームの環境学習ができますので、展示を1つ1つじっくり見るために、余裕を持ったタイムスケジュールを組みましょう。そういった観点からも、レンタカーでの来館がベストかもしれません。

ホエールタウンおしかの近くには、捕鯨船「第16利丸」が展示されています。甲板に上がることもできますので、捕鯨船のスケールを体で感じてみましょう。

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