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全国自然博物館の旅⑱東京海洋大学マリンサイエンスミュージアム

海洋生物が好きな人はとても多く、それが高じて研究者を目指そうとお考えの方もいらっしゃると思います。そうなると、まず悩むのが大学選びです。
1つの回答として、筆者が今回訪ねた東京海洋大学をご検討していただければと思います。もちろん実際に訪問してみて「ここで学びたい!」と思える大学があれば、それが一番です。あくまで参考程度として、筆者の訪れた東京海洋大学の海洋博物館をご覧ください。


大都会から大海原へつながる学舎

東京海洋大学は、東京の港区と江東区にキャンパスを置く国立大学です。海の生き物の生態学、水産学、海洋環境の保全について学びたい高校生の方は、ぜひ進路候補の1つに入れていただきたいと思います。
マリンサイエンスミュージアムが位置しているのは港区の学舎です(住所は港区ですが名前は品川キャンパス)。最寄り駅はJR品川駅ですが、筆者は東京モノレール羽田空港線のルートを選択。天王洲アイル駅で降車後、徒歩15~20分ほどで大学に到着しました。

大学に近い駅の1つ、東京モノレールの天王洲アイル駅。この駅舎のホールは有名ですね。

大学の正門を通ると、マリンサイエンスミュージアムはすぐに見えてきます。学外の来館者のために案内標識もありますので、ストレートに辿り着けるでしょう。

キャンパス内の案内標識。学外からの来館者には助かりますね。

なお、本館は大学博物館なので、営業時間は大学の開校日に準拠しています。つまり、普通の博物館と違って土日は休館日となっています。ですので、ぜひ平日に時間を作ってご来館ください。

開館日は平日。閉館時刻は16時と少し早めになっていますので、来館の際はご注意ください

世界レベルの海洋研究の知に触れよう!

海洋生物学の冒険へ誘う貴重な展示

広々としたエントランスホールに入ると、大型の標本や解説資料が目に飛び込んできます。海洋生物の迫力と、無限なる海の桁違いのスケールを感じられます。
海の世界への導入として、ダイナミックでワクワクさせてくれます。これからどんな展示が見られるのか、楽しみになります。

エントランスホール。中央の柱には、深度ごとの海洋生物の分布図が設置されています。奥に見えるのは博物館の年表です。
ド迫力! 階段の横に立てられているのは、マッコウクジラの下顎の骨。長さ4 m以上あり、円錐形の歯が38本並んでいます。
クロカジキの頭骨。大型魚類も、インパクトならクジラに負けていません。

階段の前には、触って学べる展示があります。カメの剥製やクジラヒゲに触れる体験は他の博物館でもありますが、本館では珍しいクジラの耳の骨にタッチできます。ちょっとレアな品にお目にかかれるのも、大学博物館らしくていいですね!

海洋生物を肌で感じる展示。命が通っていた生き物の体に、そっと触れて海を感じましょう。
クジラの耳の骨。クジラヒゲに触れる展示は他の博物館でもありますが、耳の骨へのタッチは初めての体験となりました。

大学も博物館も、同じ研究施設。本館は各地の沿岸域に拠点を備えており、そこでの活動内容の研究報告ポスターもあります。

千葉県館山市での生態学・水産学に関する研究活動。地元の子供たちへの環境教育についても記されています。フィールドワークの好きな学生さんに最適ですね。
陸水域の魚に関する水産研究も行われています。魚の飼育技術や病理学の知識を身につけたい人にもオススメです。

「海洋生物の探究=冒険」と捉えている方も多いのではないでしょうか。近代文学の時代から海洋冒険小説というジャンルがあるように、壮大な海洋の調査とは、まさに大冒険に等しい挑戦です。
本館で紹介されている「冒険」は、南極大陸の海での生物調査です。東京海洋大学の全身である東京水産大学は、1956年より南極での海洋生物の研究に携わってきました。

南極にて海洋生物の調査を実施した「海鷹丸」の模型。海洋生物学の発展を支えた偉大なる調査船です。
南極海で採集されたウニ類の液浸標本。学術標本は長期保存が可能なので、時を越えて、私たちにたくさんの情報を与えてくれます。
底曳網で捕獲された南極のマダコ類。1列に並んだ吸盤が特徴です。

当時の現地調査は、本当の冒険のごとく、すさまじい苦難の連続だったと思います。AIもハイテク機器もなく、日本本土との通信にも相当な時間がかかります。そんな過酷な状況下でも、調査隊は人力と知恵を駆使して、素晴らしい研究成果を持ち帰ってくれました。
現代においても、深海をはじめ、海には未知の領域がまだまだたくさんあります。そういった環境へ挑むフロンティアスピリッツが海洋生物学には必要であると、南極調査隊の業績が教えてくれます。

南極調査隊が採集した貴重な海洋生物の液浸標本。ただ、一部の展示標本には撮影禁止のものもあるのでご注意ください
南極周辺に生息するカニクイアザラシの剥製。当時の調査隊は、アザラシやペンギンたちと共にどのような時間を過ごしたのでしょうか。

超膨大な展示標本! 7つの海に息づく無限の生命!!

本館では、小さなカニから巨大なクジラまで、非常に多くの海洋生物の標本が展示されています。たくさんの生き物の骨格や殻を見ているうちに、実際に海洋に繰り出して、生きている姿を見たくなってきます。

誰もがイメージする海洋生物と言えば魚たち。こちらのサメ類をはじめ、たくさんの魚類の剥製標本が数多く並べられています。
壁面に取りつけられたバショウカジキの剥製標本。全ての海洋生物の中で、最も速く泳ぐことができます。背ビレと口吻がかっこいい!
バラクーダことオニカマス。こちらも強そうでかっこいい。
かっこよさではサメたち軟骨魚類も負けていません。展示魚種はとても多く、きっと推しの魚が見つかります。
淡水魚類の展示も充実しています。こちらのニジマスのアルビノ個体はとてもきれいです。

甲殻類については、かっこいい種類も可愛い種類も豊富です。もちろん、おいしそうなエビやカニたちがたくさんいますので、ふとした瞬間に食欲をそそられるかもしれません(笑)。

おいしそうなエビ類が並んでいます。我々の食用となるエビには、多様な種類がいることを教えてくれます。
マッシヴで強そうなアサヒガニ。こういった大きめの甲殻類の標本は、内蔵や身を取り除いてから、プラモデルのように組み立てて作ります。
ヨーロピアンロブスター。ロブスター系のかっこよさには惚れ惚れします。

続いては貝類です。彼らは、食糧や真珠といった恵みを我々に提供してくれています。
こちらは他の動物群とは比較にならないほど多くの標本が展示されています。殻の形や産地などに注目しながら、じっくりと見ていただきたいと思います。

数えきれないほどたくさんの貝類の標本。素晴らしいコレクションですね。
世界最大の二枚貝オオシャコガイ。とんでもない大きさにびっくりしますね。

さて、海洋生物学の人気ジャンルと言えば海洋哺乳類です。彼らの生態研究がしたくて、海洋生物者になりたいと考えいる方は多いと思います。
海獣たちの骨格や剥製は迫力満点です。個人的に、ニホンアシカのものとおぼしき頭骨がとても興味深かったです。

セイウチの頭骨。立派な牙が特徴的で、生前はたくましいオスであったことがわかります。
絶滅したニホンアシカのものと思われる頭骨。コブ状に隆起した頭頂部が特徴です。
可愛いラッコの剥製。水族館などではあまり見えませんが、後足はヒレ状になっています。

世界最大の海洋生物であるクジラは、研究対象として人気者だと思います。本館の展示からは、クジラの生態や進化、生理的特性などの幅広い情報を得ることができます。
クジラの研究者になりたいと思っていらっしゃる方は、自分が大学でクジラのどんな秘密を研究したいのか、本館の展示を見ながら改めて考えてみましょう。クジラはとても大きく、世界的な回遊ルートを持つ海洋哺乳類です。研究者になったら、きっと世界規模の研究に携わっていくことでしょう。

クジラの生態や進化についてのキャプションも多いです。こちらは解説パネルとフィギュアの組み合わせで、クジラの進化を説いてくれています。
ヒゲクジラ類の胎児の液浸標本。実は、クジラの胎児には小さな後足(突起)が存在しています。
ドワーフミンククジラの全身骨格。ドワーフ(小人)の名が示す通り、世界で2番目に小さなヒゲクジラ類です。

クジラの展示はスケールが大きくなりますので、博物館本館の隣に特設展示エリアがあります。そこには、雄大なセミクジラやコククジラが佇んでいます。
海洋大に進学された皆さんが学部4年生、修士、博士となったときに巨大クジラ相手に研究するかもしれません。将来の自分をイメージしながら学ぶと、さらに展示を楽しめると思います。

博物館本館に隣接する「鯨ギャラリー」。クジラの生態を学びつつ、大迫力の全身骨格を堪能することができます。
セミクジラの全身骨格。本種の骨格標本としては世界最大級です。
コククジラの全身骨格。セミクジラと同じヒゲクジラ類ですが、摂食スタイルは異なっています。詳しくは現地で展示をご覧ください。

ここで紹介した標本・キャプションはほんの一部です。海洋大への進学を検討されている高校生の方は、ぜひ実際に本館を訪れて、海洋生物学の奥深さとロマンを感じ取っていただきたいと思います。
何より、学問の世界はプロから実際に教えてもらうのが一番です。オープンキャンパスや学会に参加したり、大学の催すイベントに行ってみたりして、一流の研究者と話すチャンスを掴みましょう。職業研究者の仕事内容を聞けば、海洋生物学の道に進みたい気持ちが、さらに強くなるはずです。

本館に展示されているクジラに関するキャプション。実は、同じヒゲクジラでも、種類によって大きな差があることがわかります。

東京海洋大学マリンサイエンスミュージアム 総合レビュー

所在地:東京都港区港南4-5-7

強み:無脊椎動物から脊椎動物まで数えきれぬほど多くの海洋生物の標本資料、希少性が高く迫力満点なヒゲクジラ類の全身骨格標本、日本の海洋生物学の歴史と紐付けられた貴重な学術標本の展示

アクセス面:東京海洋大学には、JR品川駅から徒歩10分ほどで到着します。別ルートとしましては、東京モノレール羽田空港線に乗り、天王洲アイル駅で降車→徒歩20分ほどで到着します。歩く時間は長いですが、品川駅から来るより人が少なそうと思ったので、筆者はモノレールルートを選びました(笑)。博物館は大学の正門に近いうえ、案内標識もありますので、キャンパス内で迷うことはないでしょう。

海洋生物学者を志す高校生の方々には、ぜひ一度来館してほしい博物館です。東京水産大学時代からの長きに渡る研究活動の記録を、貴重な学術標本と一緒に見ることができます。ありとあらゆる種類の海洋生物標本が展示されていますので、海の生態系を総合的に学ぶことができます。
ヒゲクジラ類の全身骨格や大型魚類の剥製もあるので、子供たちも大いに楽しめます。若い頃から大学の知に触れておけば、日々の勉強にもきっと力が入ると思います。

本館を訪れて探究心が高まったのなら、今度は大学主宰の学術イベントに積極的に参加してみましょう。高校生のうちからいろいろな学術機関を訪問することは、今後の勉強において重要な意味を持ってくると思います。
高校生の皆さん、ぜひ大学博物館を活用してください。

本館では水産学系の資料も展示されています。こちらはノリの養殖に使用される道具です。

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