全国自然博物館の旅【26】東北大学理学部自然史標本館
東北大学に憧れる人は、東北地方のみならず日本全国にいるのではないでしょうか。ものすごい研究実績はもちろん、アカデミズム漂う学舎も魅力的です。
大学選びを考えている理系高校生の方は、ぜひ理学部の標本館を訪れてみてください。きっと、輝かしい自然科学への道が拓かれるはずです。
東北大の国際評価は東大を凌ぐ?
旧帝大である時点で東北大はとてもすごいですが、国際的な評価も圧倒的です。なんと、世界大学ランキング日本版において、東北大は4年連続で日本No.1に輝いています。ちなみに、このランキング、国際性と教育性に重点を置かれています。
大学は研究機関であり教育機関。ずっと科学の夢があふれる場所であってほしいですね。
いざ、東北大へ。学生さんたちと同じように、筆者は地下鉄東西線の仙台駅から、大学の最寄りの青葉山駅へ向かいました。青葉山駅はほぼ東北大のための駅と言っても過言ではなく、北1出口の先の階段を上がれば、街のような大学のキャンパスエリアへと出ます。
北1出口を出たら、左の坂を下って理学部の方へと歩いて行きましょう。案内表示が見えてきますので、指示通りに左に曲がれば、標本館はすぐそこです。
大学の標本を見られるってなると、マニアは心の底から興奮します。楽しみが止まりません!
大学の自然科学研究の粋を集めた教導展示施設
恐竜たちと宮城県のスター古生物が共演
大学博物館とは、決してカタい施設ではありません。古生物学を極めし東北大らしく、強くてかっこいい恐竜たちの展示で魅せてくれます。
最初に来館者の視線を釘づけにするのは、超有名なスター恐竜。ジュラ紀の勇者ステゴサウルスです。
東北大の中での地球史の学習が始まります。壁面には地球の地質年代ごとに区画が設けられ
ており、生命の進化を順序立てて学べます。
大きな展示ケースの中には、様々な種類の古生物の化石標本がいっぱい。わかりやすく知識満載のキャプションと合わせて、各時代の特色を体系的に理解することができます。
標本の展示数はあまりにも多く、この記事ではほんの一部しか紹介できないので、ぜひ現地で全ての貴重な化石たちをご覧ください。
そして、古生物マニアの皆様、お待たせしました。ここで宮城県が誇る海洋爬虫類ウタツサウルスの登場です。
中生代の海には、魚竜という魚やイルカそっくりの爬虫類が生きていて、なんと世界最古の魚竜の化石が宮城県南三陸町の歌津地域にて発見されたのです。その化石こそ、歌津の名を関する小型海洋爬虫類ウタツサウルスなのです。
実は、ウタツサウルスに続くすごい発見がすでに宮城県で成し遂げられています。1967年に気仙沼大島で発掘され、2022年に東北大に寄贈された1体の化石。それは、殻の直径130 cmにも及ぶ日本最大級のアンモナイトです!
化石になる前は触手などの軟体部があったはずですので、さらに巨大な怪物のように見えたことでしょう。中生代の宮城県の海は、生命豊かで賑やかな世界だったと思われます。
ここまで中生代の大物ラッシュが続くと、やはり恐竜にも期待したくなります。予想の通り、裏手に回れば、ステゴサウルスに続くスター登場。恐竜王国・福井県の名ハンターであるフクイラプトルです。
その隣には、ジュラ紀の魚竜ステノプテリギウスの骨格が展示されています。ウタツサウルスの標本と見比べてみて、海洋爬虫類の進化に想いを馳せてみましょう。
大きくてかっこいい古生物をたっぷり観覧したら、次はミクロの生命についての学びが待っています。化石マニアの方々なら、よくご存じの有孔虫(炭酸塩の殻を備えてるプランクトン)たちです。有孔虫の種類は環境によって異なっており、種同定をすることで、化石の産出地が当時どのような場所であったのかがわかります。
本館の強力な工夫として、有孔虫たちの拡大3D模型展示があげられます。有孔虫の大半は大きさが米粒の10分の1以下なので、大型立体物を見られるのはとてもありがたいです。小さなタイムマシンの秘密、しっかりと理解したいですね。
古生物マニアの皆様、有孔虫ときましたら、もちろん放散虫ですね。有孔虫が炭酸塩の殻の持ち主なのに対し、放散虫は珪酸質のボディを備えるプランクトンです。
放散虫は先カンブリア時代から現代にまで生息しており、我々にとって生命の大先輩です。有孔虫に負けず劣らず不思議な姿をしているので、とてもファンが多い生き物なのです。
有孔虫と同様、放散虫の拡大模型は強烈なインパクト。きっと誰もが放散虫に関心を持つことでしょう。
ミクロの生命から巨大な恐竜まで、古生物学の研究対象となる生き物は無限に存在します。東北大の学舎では、きっと今日も学生さんや教職員の方々が太古の世界の実像に迫っていることでしょう。
偉大なる化石の特大産地・宮城県
1階の濃密な展示に引き続き、2階エリアでも超濃密な自然科学の探究ができます。
トップバッターはかなりの大物。頭上を仰ぎつつ階段を上がれば、宮城県産イワシクジラの全身骨格の迫力に圧倒されます。観覧のワクワク度がさらに上がりますね。
宮城県のクジラがすごいのは現生種だけではありません。県内では約500万年前(鮮新世界前期)のクジラの化石が発見されており、仙台の青葉城の南側にある谷から多くの骨が掘り出されました。
このクジラこそ、ウタツサウルスや巨大アンモナイトと並ぶ宮城県の宝「センダイミズホクジラ」なのです。
センダイミズホクジラに続いて、ここからは新生代の化石標本の展示へと移行します。2階エリアでも貴重な化石標本のオンパレードに酔いしれること必至です。その中には、センダイミズホクジラと同等の宮城県産種もいます。
あまりにも贅沢すぎて、化石マニアの人は最高に幸せですね(笑)。
宮城県のご当地ご自慢の化石展示は、さらにパワーアップしていきます。次々と現れる固有種や新種のインパクトによって、化石マニアの方々は「宮城県で掘りに行きたい!」と考えているのではないでしょうか。
どうして、これほど素晴らしい発見が東北地方で続々と続いているのでしょうか?
もちろん化石の産出環境がいいという事実もありますが、それにも増して大きな理由は、東北大に偉大な研究者が大勢いらっしゃるからです。
2階エリアでは、宮城県の古生物学に偉大なる発展をもたらした研究者の方々の業績が紹介されています。研究対象の標本も添えられて展示されているので、各偉人がどんな分野で活躍した人なのかをイメージしやすくなっています。
本館は古生物学の比重が大きいですが、現生動物の展示も専門的で充実しています。
理学部の学生が経験するのは、フィールドワークで採集した生物の標本作り。東北地方には広いフィールドがありますので、とても楽しい時間を過ごせそうですね。生身の動物が好きな高校生の方にも、進学先として東北大を強くオススメできます。
さらに、2階エリアの手摺に沿うようにして、現生動物の骨格標本が配されています。展示エリアのスペースを効果的に活用する工夫、とても素晴らしいです。理学部で哺乳類系の研究をしようと思ったら、ほぼ確実に骨の勉強をするので、本展示で先取り学習しておきましょう。
東北大のアカデミズム、宮城県のフィールドの魅力が伝わってくる素敵な展示に超大満足です。宮城県に化石発掘の名スポットがあることは存じておりましたが、県庁所在地の仙台でも貴重な大発見が多数成し遂げられている事実には驚き感動いたしました。
この次は、発掘装備を携えて宮城県を訪れたいと思います。東北大に心から感謝!
東北大学理学部自然史標本館 総合レビュー
所在地:宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
強み:地球史のあらゆる時代をフォローする膨大な化石標本の展示点数、東北大ならではのアカデミズムと先進性を感じさせてくれる展示の工夫、ウタツサウルスをはじめとした多数の宮城県産古生物の実物化石
アクセス面:仙台市にある大学ですので、アクセスは良好です。最寄り駅は地下鉄東西線の青葉山駅であり、駅から徒歩10分もかからずに標本館へ辿り着けます。ただし、JR仙台駅と地下鉄東西線の仙台駅は少し距離が離れていますので、初見だと少し戸惑うかもしれません。東西線の場所がわからなければ、近くの駅員さんや警備員さんに尋ねてみましょう。
大学博物館としての専門性と、大人も子供も楽しめるワクワク感が両立した学術展示施設。世界の貴重な標本が展示されているだけでなく、ウタツサウルスやセンダイミズホクジラなど宮城県産の古生物化石をたくさん見ることができます。これほど多くの古代の固有種が宮城県に生息していたという事実に、来館者は上質な驚愕を受けるはずです。
もちろん、大学博物館ですので、学術性はMAXです。マニアが食い入るように見つめてしまうキャプションもさることながら、偉大な発見を成し遂げた自然科学者たちの研究紹介も素晴らしいです。学術的な好奇心・探究心が最大限に刺激されるので、理系の道を志す学生さんには最適だと思います。
高校生の方には、ぜひとも理系大学へのモチベーションを高めるために来館していただきたいです。もちろん、これから高校生になる人も、かつて高校生だった人にも強くオススメします。大学とは、万人の開かれた知の伝導所なのです。
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