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全国自然博物館の旅㉖東北大学理学部自然史標本館

東北大学に憧れる人は、東北地方のみならず日本全国にいるのではないでしょうか。ものすごい研究実績はもちろん、アカデミズム漂う学舎も魅力的です。
大学選びを考えている理系高校生の方は、ぜひ理学部の標本館を訪れてみてください。きっと、輝かしい自然科学への道が拓かれるはずです。


東北大の国際評価は東大を凌ぐ?

旧帝大である時点で東北大はとてもすごいですが、国際的な評価も圧倒的です。なんと、世界大学ランキング日本版において、東北大は4年連続で日本No.1に輝いています。ちなみに、このランキング、国際性と教育性に重点を置かれています。
大学は研究機関であり教育機関。ずっと科学の夢があふれる場所であってほしいですね。

いざ、東北大へ。学生さんたちと同じように、筆者は地下鉄東西線の仙台駅から、大学の最寄りの青葉山駅へ向かいました。青葉山駅はほぼ東北大のための駅と言っても過言ではなく、北1出口の先の階段を上がれば、街のような大学のキャンパスエリアへと出ます。

地下鉄東西線・青葉山駅の北1出口。東北大に通うたくさんの学生さんが利用されています。
会社のビル? ではなく、東北大の未来産業情報館です。この一帯は、東北大の施設が街のごとく立ち並んでいます。
目指す理学部はこちらのビル。すごい研究機材がたくさんありそう!

北1出口を出たら、左の坂を下って理学部の方へと歩いて行きましょう。案内表示が見えてきますので、指示通りに左に曲がれば、標本館はすぐそこです。
大学の標本を見られるってなると、マニアは心の底から興奮します。楽しみが止まりません!

坂を下ると案内表示が見えてきます。古生物マニアなので、下部に描かれたステゴサウルスに反応してしまいました(笑)。
標本館の入り口前に展示されているのは、3億7000万年前の海洋生物化石を宿す石灰岩。尖った白い三角形は、オウムガイの仲間の化石です。
標本館への入口。東北大の自然科学研究の成果、とても気になります。

大学の自然科学研究の粋を集めた教導展示施設

恐竜たちと宮城県のスター古生物が共演

大学博物館とは、決してカタい施設ではありません。古生物学を極めし東北大らしく、強くてかっこいい恐竜たちの展示で魅せてくれます。
最初に来館者の視線を釘づけにするのは、超有名なスター恐竜。ジュラ紀の勇者ステゴサウルスです。

人気の高い植物食恐竜ステゴサウルス。背中の骨の板と尻尾の突起が特徴です。
後ろから見ても、ステゴサウルスは超かっこいい。尻尾の突起を振って攻撃すれば、肉食動物に大ダメージを与えることができます。

東北大の中での地球史の学習が始まります。壁面には地球の地質年代ごとに区画が設けられ
ており、生命の進化を順序立てて学べます。
大きな展示ケースの中には、様々な種類の古生物の化石標本がいっぱい。わかりやすく知識満載のキャプションと合わせて、各時代の特色を体系的に理解することができます。
標本の展示数はあまりにも多く、この記事ではほんの一部しか紹介できないので、ぜひ現地で全ての貴重な化石たちをご覧ください。

古生代から中生代まで、地球史の各時代を1つずつ区画にして詳細に解説。キャプションと化石標本が1つのケースに入っています。
こちらはデボン紀の展示ケース。1点1点が貴重な標本なので、じっくりと見ましょう。
シルル紀のオウムガイの仲間。長い殻を背負ったイカのような姿であったと考えられています。
コッコステウス。デボン紀に生きていた甲冑魚類の一種です。
宮城県の武将と言えば、伊達政宗。なんと、伊達政宗の名前がつけられた古代の貝類がいます。トリゴニア・ダテマサムネイというフルネームに近い種少名が使われています。

そして、古生物マニアの皆様、お待たせしました。ここで宮城県が誇る海洋爬虫類ウタツサウルスの登場です。
中生代の海には、魚竜という魚やイルカそっくりの爬虫類が生きていて、なんと世界最古の魚竜の化石が宮城県南三陸町の歌津地域にて発見されたのです。その化石こそ、歌津の名を関する小型海洋爬虫類ウタツサウルスなのです。

宮城県産の魚竜ウタツサウルスの展示コーナー。繰り返しますが、魚ではなく爬虫類です。
貴重なウタツサウルスの完模式標本。三畳紀の地層より発見された世界最古の魚竜化石です。
古代の海洋爬虫類・魚竜の解説キャプション。ウタツサウルスのような小型種から、大型のクジラほどもあるショニサウルスまで、実に多様な種類がいました。

実は、ウタツサウルスに続くすごい発見がすでに宮城県で成し遂げられています。1967年に気仙沼大島で発掘され、2022年に東北大に寄贈された1体の化石。それは、殻の直径130 cmにも及ぶ日本最大級のアンモナイトです!
化石になる前は触手などの軟体部があったはずですので、さらに巨大な怪物のように見えたことでしょう。中生代の宮城県の海は、生命豊かで賑やかな世界だったと思われます。

殻の直径が約130 cmもある日本最大級のアンモナイト化石。白亜紀の日本の海を悠々と泳ぎ回っていたことでしょう。
殻の中の構造も化石に残されています。標本の内部構造の分析は、生き物の解剖学的特徴を知るうえで極めて重要です。

ここまで中生代の大物ラッシュが続くと、やはり恐竜にも期待したくなります。予想の通り、裏手に回れば、ステゴサウルスに続くスター登場。恐竜王国・福井県の名ハンターであるフクイラプトルです。
その隣には、ジュラ紀の魚竜ステノプテリギウスの骨格が展示されています。ウタツサウルスの標本と見比べてみて、海洋爬虫類の進化に想いを馳せてみましょう。

豪華なセットを背景に飾られたフクイラプトルの全身骨格。復元画の中には、フクイティタンやフクイヴェナトルなどの福井県産恐竜が描かれています。
白亜紀後期に生きていた恐竜の卵の化石。肉食恐竜オヴィラプトルはこのように卵を1ヶ所に集め、鳥のごとく羽毛で卵を温めていたと考えられています。
ジュラ紀の魚竜ステノプテリギウス。ウタツサウルスよりも後の時代の海洋爬虫類であり、遊泳能力はとても高かったと思われます。

大きくてかっこいい古生物をたっぷり観覧したら、次はミクロの生命についての学びが待っています。化石マニアの方々なら、よくご存じの有孔虫(炭酸塩の殻を備えてるプランクトン)たちです。有孔虫の種類は環境によって異なっており、種同定をすることで、化石の産出地が当時どのような場所であったのかがわかります。
本館の強力な工夫として、有孔虫たちの拡大3D模型展示があげられます。有孔虫の大半は大きさが米粒の10分の1以下なので、大型立体物を見られるのはとてもありがたいです。小さなタイムマシンの秘密、しっかりと理解したいですね。

展示ケースの中で吊り下げられている謎の物体。これらは、有孔虫の拡大3D模型です。
不思議な形をした有孔虫たち。プランクトンには奇抜な形をしたものが多いですが、有孔虫たちの奇抜さとバリエーションの豊かさには本当に驚かされます。
生息環境によって、有孔虫の形は様々。彼らの存在は、古代の環境を知る手かがりなのです。

古生物マニアの皆様、有孔虫ときましたら、もちろん放散虫ですね。有孔虫が炭酸塩の殻の持ち主なのに対し、放散虫は珪酸質のボディを備えるプランクトンです。
放散虫は先カンブリア時代から現代にまで生息しており、我々にとって生命の大先輩です。有孔虫に負けず劣らず不思議な姿をしているので、とてもファンが多い生き物なのです。
有孔虫と同様、放散虫の拡大模型は強烈なインパクト。きっと誰もが放散虫に関心を持つことでしょう。

放散虫たちも、展示ケースの中に拡大模型がたくさんあります。彼らの体は珪酸質なので、ガラスっぽい外観で作成されていますね。
放散虫も、種類によって形態は違ってきます。ちょっと無機的なフォルムに味わいがあります。
放散虫の姿は本当に楽しいですね。このような形の生き物がミクロの世界にはたくさん存在しているのです。

ミクロの生命から巨大な恐竜まで、古生物学の研究対象となる生き物は無限に存在します。東北大の学舎では、きっと今日も学生さんや教職員の方々が太古の世界の実像に迫っていることでしょう。

偉大なる化石の特大産地・宮城県

1階の濃密な展示に引き続き、2階エリアでも超濃密な自然科学の探究ができます。
トップバッターはかなりの大物。頭上を仰ぎつつ階段を上がれば、宮城県産イワシクジラの全身骨格の迫力に圧倒されます。観覧のワクワク度がさらに上がりますね。

ホールに吊り下げられたイワシクジラの全身骨格。オープンな展示空間なので、あらゆる角度から骨格を眺めることができます。
下から見ると、大きさがよくわかります。このイワシクジラは全長14 mほどもあり、1915年に宮城県の石巻市(当時は鮎川町という名前)にて水揚げされた個体です。

宮城県のクジラがすごいのは現生種だけではありません。県内では約500万年前(鮮新世界前期)のクジラの化石が発見されており、仙台の青葉城の南側にある谷から多くの骨が掘り出されました。
このクジラこそ、ウタツサウルスや巨大アンモナイトと並ぶ宮城県の宝「センダイミズホクジラ」なのです。

超貴重なセンダイミズホクジラの実物化石。これこぞ宮城県の宝です!
センダイミズホクジラの全身骨格写真。ミズホクジラの仲間は、ケトテリウム類という小型クジラのグループに属します。
センダイミズホクジラの耳骨。各部位を現生種と比較することは、クジラの進化や生態の秘密を解き明かすきっかけとなるのです。

センダイミズホクジラに続いて、ここからは新生代の化石標本の展示へと移行します。2階エリアでも貴重な化石標本のオンパレードに酔いしれること必至です。その中には、センダイミズホクジラと同等の宮城県産種もいます
あまりにも贅沢すぎて、化石マニアの人は最高に幸せですね(笑)。

1階の展示エリアと同様、大きなケースの中に化石がいっぱい。ややレトロな復元イラストも、大人の古生物ファンにはしっくりくると思います。
センダイゾウ。約500万年前の仙台に生息していたゾウの歯の化石です。1966年、マンションの造成工事の最中に発見されました。
「仙台の化石の女王」であるタカハシホタテ。肉厚なホタテガイだったと考えられていて、とてもおいしそうに見えます(笑)。
亘理町にて発見されたメガロドンの歯。全長14 mにも及ぶ巨大なサメであり、当時の海では最強のハンターでした。この大きな歯牙を使って、センダイミズホクジラを襲っていたことでしょう。
海外産の古生物標本も充実。こちらは、約4700万年前のドイツに生きてきたアイルラヴス。リスのように見えますが、実は原始的なネズミの仲間です。

宮城県のご当地ご自慢の化石展示は、さらにパワーアップしていきます。次々と現れる固有種や新種のインパクトによって、化石マニアの方々は「宮城県で掘りに行きたい!」と考えているのではないでしょうか。

仙台の化石コーナー。できるならば、全て1つ1つ紹介したいほど素晴らしい標本ばかり。ぜひ現地でゆっくりとご覧ください。
古代のイルカの仲間、デイルフィヌス・リクゼネンシスの耳の骨。とても多種多様な生物化石が産出しているので、仙台の地層ってすごいなと改めて思います。
歌津町で発見された嚢頭類(古代の節足動物)の化石と復元模型。新種のキタカミカリス・ウタツエンシスをはじめ、宮城県で嚢頭類の大発見が次々と成し遂げられてきます。
シオガマゾウの顎の化石。1920年代に宮城県の塩竈市にて出土されました。福井県や富山県でも、同種の発見報告があります。
シオガマゾウの頭骨模型。牙の形態など、現生のゾウとは外観が大きく異なっています。

どうして、これほど素晴らしい発見が東北地方で続々と続いているのでしょうか?
もちろん化石の産出環境がいいという事実もありますが、それにも増して大きな理由は、東北大に偉大な研究者が大勢いらっしゃるからです
2階エリアでは、宮城県の古生物学に偉大なる発展をもたらした研究者の方々の業績が紹介されています。研究対象の標本も添えられて展示されているので、各偉人がどんな分野で活躍した人なのかをイメージしやすくなっています。

東北大の偉大なる博士の皆様。近影写真と研究対象標本がセットで展示されています。
ヤベオオツノジカを記載された鹿間時夫しかまときお博士(写真右)。姓に「鹿」の字が入っていることは、素晴らしい偶然ですね。
どの研究者の方もすさまじく偉大な実績をあげられており、東北大のアカデミズムを感じさせてくれます。古生物好きな高校生の皆さんは、東北大に入りたくなったのではないでしょうか。

本館は古生物学の比重が大きいですが、現生動物の展示も専門的で充実しています。
理学部の学生が経験するのは、フィールドワークで採集した生物の標本作り。東北地方には広いフィールドがありますので、とても楽しい時間を過ごせそうですね。生身の動物が好きな高校生の方にも、進学先として東北大を強くオススメできます。

豊富な種類の生物標本を多数展示。東北大の収蔵庫には約2万点もの標本が収められています。
展翅されたシロチョウ類。植生豊かな東北地方での昆虫研究、とても楽しそうでワクワクしてきます。
小型水棲生物たちの液浸標本。いかにも理学部の資料といった感じが素敵。
標本の中には、多くの人々があまり馴染みのない生き物もいます。そこはちゃんとキャプションで補足されているので安心ですね。

さらに、2階エリアの手摺に沿うようにして、現生動物の骨格標本が配されています。展示エリアのスペースを効果的に活用する工夫、とても素晴らしいです。理学部で哺乳類系の研究をしようと思ったら、ほぼ確実に骨の勉強をするので、本展示で先取り学習しておきましょう。

手摺付近には、複数体の動物の骨格標本が配されています。各部位が種類ごとにどのように異なっているのか、自分の目で見て比較するのも楽しいですね。
ライオンの骨格。優れたハンターとしての資質を感じさせるフォルムです。
どっしりしたスマトラサイの骨格。トレードマークの角がないのは、サイの角とは骨ではなく皮膚の塊だからです

東北大のアカデミズム、宮城県のフィールドの魅力が伝わってくる素敵な展示に超大満足です。宮城県に化石発掘の名スポットがあることは存じておりましたが、県庁所在地の仙台でも貴重な大発見が多数成し遂げられている事実には驚き感動いたしました。
この次は、発掘装備を携えて宮城県を訪れたいと思います。東北大に心から感謝!

東北大学理学部自然史標本館 総合レビュー

所在地:宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3

強み:地球史のあらゆる時代をフォローする膨大な化石標本の展示点数、東北大ならではのアカデミズムと先進性を感じさせてくれる展示の工夫、ウタツサウルスをはじめとした多数の宮城県産古生物の実物化石

アクセス面:仙台市にある大学ですので、アクセスは良好です。最寄り駅は地下鉄東西線の青葉山駅であり、駅から徒歩10分もかからずに標本館へ辿り着けます。ただし、JR仙台駅と地下鉄東西線の仙台駅は少し距離が離れていますので、初見だと少し戸惑うかもしれません。東西線の場所がわからなければ、近くの駅員さんや警備員さんに尋ねてみましょう。

大学博物館としての専門性と、大人も子供も楽しめるワクワク感が両立した学術展示施設。世界の貴重な標本が展示されているだけでなく、ウタツサウルスやセンダイミズホクジラなど宮城県産の古生物化石をたくさん見ることができます。これほど多くの古代の固有種が宮城県に生息していたという事実に、来館者は上質な驚愕を受けるはずです。
もちろん、大学博物館ですので、学術性はMAXです。マニアが食い入るように見つめてしまうキャプションもさることながら、偉大な発見を成し遂げた自然科学者たちの研究紹介も素晴らしいです。学術的な好奇心・探究心が最大限に刺激されるので、理系の道を志す学生さんには最適だと思います。

高校生の方には、ぜひとも理系大学へのモチベーションを高めるために来館していただきたいです。もちろん、これから高校生になる人も、かつて高校生だった人にも強くオススメします。大学とは、万人の開かれた知の伝導所なのです。

東北大の学生さんが執筆された標本館の「みどころBOOK」。一般向けにわかりやすく書かれているので、スムーズに知識が身についていきます。

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