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全国水族館の旅【39】アクアマリンいなわしろカワセミ水族館

淡水生態系の水族館と聞くと、多くの人の中では「主役は淡水魚」というイメージが先行すると思います。ですが、水生昆虫や水鳥も立派な淡水生物水族館のスターだと思います
多種多様な清水の生命と出会い、その実像を学べる学術展示施設。それは、福島県の幽玄なる湖の近くに立っています。


生命あふれる猪苗代湖の秘密に迫ってみよう!

今回の舞台となる猪苗代湖いなわしろこは、福島県の中央部に位置する淡水生物の宝庫。なんと日本で4番目に大きな湖です。内陸部に位置する大湖にはどのような生命が棲んでいて、どのような生態系が築かれているのか、とても気になります。

水族館にて猪苗代湖の秘密を学ぶべく、筆者は郡山市にてレンタカーを借りて出発進行。1時間ほどのゆったりドライブで、壮美なる神秘の湖に到着です。あまりの美しさに、一瞬息が止まりそうになりました!

郡山市からレンタカーで約1時間。緑の大地に囲まれた風光明媚な猪苗代湖に到着です。
猪苗代湖は沿岸部の各所で植生が異なっており、多様な生態系を有しています。生物観察にはもってこいのビッグスポットですね。
山側へ振り向くと、広大な水田地帯が視界に飛び込んできます。豊富な清流の水資源を活かし、稲作が盛んに行われているのです。

水族館の観覧前後で、ぜひ猪苗代水環境センターにも訪れてみてください。猪苗代湖の水質や生き物についての調査保全を実施されている県の施設であり、建屋の中では猪苗代湖の環境について学ぶことができます。
猪苗代湖の秘密を知ってから水族館へ行くと、素晴らしい発見の気づきがあるかもしれません。

猪苗代水環境センター。猪苗代湖の水質や生態系の調査に加えて、一般の方々に向けた環境教育活動の拠点となっています。
施設内には、猪苗代湖の自然環境に関する資料がいっぱい! 湖の生態系や地理を解説してくれるドキュメンタリー映像の上映もあります。
奥の水槽には、猪苗代湖に棲む淡水魚たちが飼育されています。日本で第4位の大きさを誇る湖には、たくさんの生命が息づいているのです。

猪苗代湖を存分に眺めたら、湖畔から少し離れて水族館へ向かいましょう。アクアマリンいなわしろは、磐梯山の麓に位置する野外観光スポット「猪苗代緑の村」の中にあります。
ここには焼き物の体験学習工房に加えて、旧駅舎を改装したレストランもあります。水族館と合わせて、猪苗代だけの特別体験を楽しんでみてはいかがでしょうか。

緑の村のレストラン「翁島駅」。かつての駅舎を改装した店舗であり、ゆったりとおいしいランチが味わえます。
かつて沼尻鉄道を走っていたディーゼル機関車。後方の客車に入ることができますので、記念の写真撮影にはぴったりの場所ですね。

緑の村の駐車場から北へと歩いていくと、アクアマリンいなわしろが見えてきます。飼育技術において非常に高い評価を受けている本館では、どのような生き物たちと出会えるのでしょうか。とっても楽しみです!

緑の村の奥に、アクアマリンいなわしろカワセミ水族館が立っています。様々な淡水生物が展示されているうえに、水生昆虫の飼育において素晴らしい実績を誇る施設です。

発見と感動の嵐! 卓越した展示・飼育技術を誇る淡水系水族館

個性派揃いの生命が教えてくれる淡水域の美しさ

観覧の始まりは1号館の1階。広大なホールに水族展示・学習コーナー・ミュージアムショップが詰め込まれています。特に、当地が誇る猪苗代湖や磐梯山の自然環境の解説は極めて興味深いです。ここで基礎情報をしっかりと学べば、福島県の淡水生物展示の観覧はさらに濃密なものとなります。

1号館のエントランスホールには、展示生物を模したトーテムポールが立っています。奥に見えるのは特別展のセットです。
情報コーナーでは、猪苗代湖について学ぶことができます。なお、猪苗代湖の水は日本海と太平洋の両方に流れ出ています
猪苗代に棲む生き物たちの紹介。雄大な湖と山林を有する当地は、たくさんの生命を育む楽園なのです。

1号館の奥に進むと、ユーラシアカワウソの展示区画が見えてきます。本館では、カワウソへの給餌タイムが1日2回あります。
勇ましい彼らのアグレッシブな食事シーンが見られる貴重な機会。カワウソたちの一挙手一投足をじっくり観察していると、きっと新鮮な発見があると思います。

ユーラシアカワウソは休憩所の中にいることが多いです。給餌タイムになると外に出て活発に動き回るので、ぜひ餌やりの時間帯に来館されることをオススメします。
ユーラシアカワウソの給餌タイム。飼育員さんが新鮮な魚の切り身をカワウソたちに与えます。
餌をプールに投げ込むと、カワウソもダイブ。可愛く見える彼らですが、自然界では多くの水棲生物を捕食する強力なハンターなのです
泳ぎながら餌を食べるユーラシアカワウソ。動きの1つ1つをくまなく観察してみましょう。

陽光の差す窓際には、金魚の展示水槽がたくさん並んでいます。多彩な品種が咲き乱れる様は、究極の風流です。多くの人々が長年手をかけて生み出した観賞魚の美、心ゆくまで見て感じましょう。

1号館の窓側に設置されているのは、金魚たちの展示水槽。数多くの品種を見ることができます。
京錦きょうにしき。体型と模様で楽しませてくれるのが金魚の魅力ですね。
頭部が特徴的な頂天眼ちょうてんがん水泡眼すいほうがん。泳いでる姿はとっても可愛いです!

1号館で最高潮にテンションを高めたら、いよいよ福島県の淡水生態系を学ぶため2号館へ突撃しましょう。
2号館では多種多様な淡水生物の水族展示が見られるうえに、本館のスターであるカワセミにも出会えます。入口から長く続く通路には世界のカワセミ類の写真が展示されており、彼らの美しさを改めて実感できます。

2号館へ続く道は湖底の通路のようです。福島県の淡水生態系の秘密を学ぶ旅に出発です。
2号館の入口から続く長い回廊には、カワセミの写真が展示されています。翡翠色の体は、まさに川辺のサファイアですね。
世界のカワセミ類の写真。カワセミの仲間は世界中に分布しており、なんとギリシャ神話にもカワセミが登場しています

本館の強みの1つは、超ハイレベルな水生昆虫の飼育技術です。そのノウハウな展示のみならず保全活動に活かされており、南西諸島に棲む絶滅危惧種の水生昆虫たちの域外保全に力を注いでおられます。
2号館の水族展示では希少種の水生昆虫と出会うことができ、保全施設としての水族館の存在意義を強く感じさせてくれます。懸命に生きる水生昆虫たちの姿を観察しながら、絶滅危惧種問題について考えてみましょう。

南西諸島産の希少種フチトリゲンゴロウ。絶滅の危機に瀕しているので、域外保全を目的として本館で飼育されています。
オキナワマツモムシ。アジアに広く分布しており、日本では沖縄本島に棲んでいます。
奄美以南の南西諸島に分布するヒメフチトリゲンゴロウ。超希少種ですので、奄美諸島に行って見つけてもそっとしておきましょう。

在来種の減少と密接に関わっているのが外来種問題。猪苗代湖を含めた福島県全体の淡水生態系においても、強力な外来種の影響は在来種にとって大きな脅威となっています。
外来種も被害者であり、決して外来種の生き物たちは悪くありません。ただ、日本固有の生態系を守るために、どうしても駆除活動が必要となります。
本館に展示されている数多くの外来淡水生物たち。力強く美しい彼らの姿を、ぜひとも目に焼きつけてください。彼らもまた、我々と同じ地球に生まれたかけがえのない仲間であることを感じていただきたいと思います。

コクチバス。オオクチバスと比べて、冷水や流水への適応性が高い魚です。
有名なブルーギル。たくましい適応力を有しており、過酷な環境下でも力強く繁殖することができます。
外来魚カラドジョウ。同定が難しいので、国産ドジョウに混じって各地に放流されている可能性があります
会津地方の外来種駆除の解説展示。外来種たちに罪はありませんが、国内の生態系を守るためには、駆除が必要となってきます。不幸な生命を増やさないためにも、放流や飼育放棄は絶対にいけません
外来種の影響をイラストで解説。生態的地位が近い種類同士ならば、餌や産卵場所を求めて資源競争が起こります。

お待たせしました! いよいよここからが、福島県の淡水生態系の水族展示スタートです。渓流・湧水域・止水域などに暮らす美しい生き物たちが大集合します。
かっこよく勇ましい展示生物に筆者は終始メロメロ(笑)。彼らの多くは自然界において個体数が減少傾向にあり、福島県では保全対策が進められています。気高く生きる淡水生物の姿を拝みながら、筆者も自分にできる環境保全対策を続けていこうと思いました。

太平洋系陸封型のイトヨ。とても希少な魚であり、福島県では会津地域にのみ生息しています。
シナイモツゴ。外来種による捕食や環境開発によって個体数が減少しています。
ヒガシシマドジョウ。福島県のレッドリストでは、準絶滅危惧種に指定されています。
ウグイ類の展示水槽。本館で飼育されている3種類のウグイは、みんな福島県に棲んでいます。
複数個体で並んで泳ぐゲンゴロウ。あまりのかっこよさと力強さに、昆虫マニアは大感激!

さて、水棲生物好きの中には、サンショウウオのファンがとても多くいらっしゃると思います。特に小型種は抜群の可愛さを有しており、彼らを観察するためにマニアの方々はよく野外探索に出かけておられるでしょう。
福島県に棲むサンショウウオも、とってもキュートな子たちばかり。本館に展示されている個体は超絶的に可愛いらしく、観察していると骨抜きにされてしまいます(笑)。魅力的に満ちた福島県のアイドルたちを、とことん愛でて観察してください。

可愛いイワキサンショウウオ。かつてはトウキョウサンショウウオの一種と考えられていましたが、遺伝学的な研究により新種と判明し、2022年に命名されました。
福島県の只見町ただみまちの名を関するタダミハコネサンショウウオ。只見町周辺と新潟県の一部地域にしか生息していません。
バンダイハコネサンショウウオ。肺を備えておらず、皮膚呼吸のみで息をしています

本館は哺乳類の展示も充実しています。観覧を通して、我が国の自然界には可愛い小型哺乳類がたくさんいることを実感します。
その中でも、来館者の注目を強く集めているのは渓流に棲む半水棲哺乳類カワネズミ。水の中に飛び込み、小さな体を力いっぱい躍動させて泳ぐ姿は超かっこいいです。知られざる水辺のスーパースター、この機会にとことん観察しておきます。

泳ぎの得意な半水棲哺乳類カワネズミ。実はネズミではなくモグラの仲間です
お昼寝中のアカネズミ。彼らは自然界で生きるネズミであり、決して害獣ではありません。
日本最小のネズミであるカヤネズミ。クモザルのように長い尻尾を物体に巻きつけ、巧みに植物体の上を移動します。

大興奮必至! 水生昆虫と水鳥の特殊展示

展示の観覧も後半戦。ここでいよいよ待望のカワセミ登場です。渓流をイメージした展示エリアでは、上流域の淡水魚や水鳥が飼育展示されています。
カワセミは警戒心が強いので、近距離での接近観察はできません。静かにそっと目を凝らしながら、翡翠色の翼の美しさを存分にご堪能ください。なお、里山の水辺などで生物観察をしているとたまにカワセミと出会えますので、関心を持たれた方は、ぜひ野外のフィールドに繰り出していただきたいと思います。

渓流をイメージした展示エリア。ここではカワセミと出会うことができます。
いました、カワセミです! 警戒心が強いので、遠くからでしか撮影できません。
同じく水鳥のカワガラス。水中に潜って水棲生物を捕らえる渓流のハンターです。
水中にはニッコウイワナやヤマメが展示されています。おいしそうと思った来館者も絶対いるはず(笑)。

そして、次のエリアでは昆虫マニアが燃え上がる展示と出会えます。壁いっぱいに並ぶ膨大な水槽には、多様な水生昆虫たちが飼育展示されています。率直な意見として、これほどの数の水生昆虫を継続飼育する技術はすごすぎると思います
大小様々な多種の水生昆虫を観察できる貴重なチャンス。昆虫マニアの方々、夢の展示の世界を心のままにご覧ください。

立ち並ぶ多数のブロック型水槽。これらは全て水棲生物の展示水槽です
メススジゲンゴロウ。この模様、かっこよすぎる。水生昆虫マニア歓喜!
ヒメゲンゴロウ。日本各地の水域で見られるゲンゴロウです。
とっても小さなヒメケシゲンゴロウ。昆虫マニアの方ならご存じだと思いますが、ゲンゴロウの仲間にはミリ単位の大きさの種類がたくさんいます
オオコオイムシ。近縁種と比べてがっしりしていて、とってもかっこいいです。

水生昆虫に関して、アクアマリンいなわしろのすごいところはまだまだたくさんあります。本館のスタッフは、ヨーロッパ北部に棲むオウサマゲンゴロウモドキの域外保全に取り組んでおられ、日本国内初の生体展示を実現しました
今回の保全プロジェクトはラトビアと日本の学術機関が共同で実施されていて、我が国の複数の飼育施設でオウサマゲンゴロウモドキの域外保全が進められています。研究者が国を越えて希少生物の保全に取り組むことは、国際的な学問の発展となり、より多くの生命を救う礎になると思います。

本館のかっこよくて美しいオウサマゲンゴロウモドキたちは、国家を越えた愛情によって育まれた子たちです。世界最大級のゲンゴロウ類の勇姿、ここでたっぷりと記憶に刻みつけましょう。

国内初展示となるオウサマゲンゴロウモドキの水槽。卓越した飼育技術を誇る本館にて、域外保全が実行されています。
世界最大クラスのゲンゴロウ類・オウサマゲンゴロウモドキ。めちゃくちゃかっこいい。海外のゲンゴロウが見られるとは、大感激です!
オウサマゲンゴロウモドキの解説。彼らを保全するために、ラトビアと日本の研究者が協力して活動されています。

アクアマリンいなわしろには、さらに昆虫についての大きな実績があります。なんとなんと、本館は新種の昆虫を2種類も発見されているのです。福島県で新種の昆虫が続々と発表されるのはすさまじい快挙であり、アクアマリンいなわしろの学術的貢献は計り知れません。
本館の展示では、神秘的で独特な姿の生体と標本、そして詳細な解説資料によって新種昆虫についてわかりやすく学べます。福島県が誇る大発見、我々生物マニアは自分のことのように喜ばしく思います。

福島県で発見された新種・ヒワサワツブゲンゴロウの解説。本館のスタッフの名前を冠する小型のゲンゴロウ類です。
全長3 mmほどの小さなヒラサワツブゲンゴロウの生体展示。微小な水生昆虫ですので、彼らの真の魅力を知るためにも、ぜひ現地で遊泳する姿を拝んでいただきたいと思います。
ヒラサワツブゲンゴロウの標本。ツブゲンゴロウ類は本当に小さいので、よく目を凝らして見ておきましょう。
同じく福島県産の新種・バンダイホソガムシ。国内でのホソガムシ科の新種記載は59年ぶりとなります
バンダイホソガムシの標本。かなり小型の昆虫であり、近縁種のチュウブホソガムシが同じ場所で生息確認されています。

生き物たちの魅力的な展示と学習界への多大なる貢献。博物館施設として素晴らしすぎる力を持つ水族館であり、多くの学びと感動を得ることができました。
生き物好きな子供たちはもちろん、筋金入りの水生昆虫マニアまで誰もが感激できる素敵な水族展示施設。本館を訪れれば、淡水生物と環境保全問題への関心が大きく向上することでしょう。

水生昆虫の生態についてのポスター展示。彼らの生活史や生息環境について、詳しくわかりやすく学べます。

アクアマリンいなわしろカワセミ水族館 総合レビュー

所在地:福島県耶麻郡猪苗代町大字長田字東中丸3447-4

強み:膨大な種類の水生昆虫を継続展示する超高度な飼育技術、水生昆虫の域外保全や新種の記載など数々の驚異的な学術的功績、カワセミやカワネズミなど視覚的インパクトの強い水域生物の生体展示

アクセス面:とにかく車です。立地の関係上、車がほぼ唯一のアクセス手段です。周辺の環境学習施設や道の駅を回ろうと思ったら、なおさら車が必要になってきます。福島県の内陸西部ですので、東北地方だけでなく関東地方の人も自家用車でのアクセスが可能です。遠方からお越しの方は、郡山駅前でレンタカーを借りて、ゆったりドライブしながら向かいましょう。

魅力的で個性たっぷりの生き物たちが展示されている学術施設であり、中でも水生昆虫の飼育技術で極めて高い評価を受けている水族館です。生き物好きの方ーー特に昆虫マニアならば絶対訪れておきたい施設です。
本館は非常に多種多様な水生昆虫を飼育展示しているうえに、国内外の水生昆虫の域外保全活動、新種の昆虫の発見という数々の偉業を成し遂げられています。展示クオリティの高さも素晴らしく、活き活きと躍動する水生昆虫の姿を存分に味わえます。間違いなく、昆虫に関しては超プロ中の超プロと呼べる水族館です!
カワセミ・カワネズミ・サンショウウオ類など、来館者の目を引くインパクトの強い生き物の生体展示も魅力的で、楽しさと学術性がハイレベルと融合した水族館だと感じました。本館で福島県の淡水域の生態系と環境問題に深く学び、猪苗代での素敵なメモリアルを作っていただきたいと思います。

猪苗代湖の周辺には、飲食店・物産店・博物館などがたくさんあります。1~2泊の旅行を計画して、湖を車で一周しながら観光してみてはいかがでしょうか。

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