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全国水族館の旅【43】多治見市土岐川観察館

生き物好きになれば、規模の大小に関係なく、地域の水族館に行くことが大好きになります。飼育スタッフの方々との距離が近く、貴重な話を伺いながら、現地の自然環境への理解を深めることができます。
一流の自然研究者・環境教育者との対話は、最高の勉強になります。水族館を楽しみながらプロとお話ができる、素敵な学習施設が岐阜県の多治見市にあります。


採集道具がなくてもOK! 土岐川の生物観察スタート!

岐阜県を流れ、伊勢湾へと注ぐ雄大な一級河川。その大河こそ、今回の舞台となる庄内川です。岐阜県内では「土岐川ときがわ」と呼ばれていて、現地の子供たちにとって重要な環境教育の場となっています。
生き物好きとしては、やはり土岐川の水棲生物を調べたくてたまりません。JR多治見駅から南へ移動し、念願の土岐川へとやってきました。

JR多治見駅からスタート。多治見市は名古屋にアクセスしやすい街であり、美しい郊外の街だなと感じました。
岐阜県民に「土岐川」として親しまれる庄内川。たくさんの支流があり、生物観察ポイントもいっぱいあります。

さて、旅行者にとってちょっとした問題は、「目の前に絶好の生物観察ポイントがあるのに、タモ網もケースも持ってきてねえ!」ということです。でも、ご安心ください。工夫次第で、いくらでも生き物たちと出会えます
まずは、安全も考慮して、障害物だらけの流れの緩やかなゾーンを探してみましょう。基本的に、多くの水棲生物は石などの障害物を好んで隠れ家にしています。手頃な川石を見つけあら、そーっとひっくり返してみてください。きっと、小さな水の住民たちが顔を覗かせるはずです。

大きな川でも、淵の方では植物や石だらけの場所があります。こういったスポットは流速が遅く、多くの生き物が隠れやすい環境が整っています。
石をひっくり返してみると、カゲロウ類の幼虫を発見! 水生昆虫は基本的に障害物の隙間に生息しています。
円盤状の物体が動いてる? 実はこの子、ヒラタドロムシの幼虫です!
ネバネバした糸でくっついた小石? これはトビケラの幼虫が石を集めて作った「巣」です。お家を壊さないように、そーっと水に戻しました。
岩場の隙間には、小魚がたくさん泳いでいます。天敵から身を守るために、小さな魚たちにとっても障害物の多い岸辺の水域は重要な場所なのです。

岸辺においても、生物の痕跡を見つけることができます。狙い目は土壌がぬかるんだ「泥地」です。
鳥や哺乳類が歩いた跡はしっかりと大地にスタンプされるので、歩行姿勢や行動を調べられるのです。また、足跡の形から動物の種類を特定可能です。ぜひとも、川に行ったら泥地にも目を向けてください。

岸辺の泥地には、生き物の痕跡がいっぱい。よく目を凝らして見てみましょう。
泥地に哺乳類の足跡を発見。爪の跡がないので、おそらくネコだと思われます。タヌキやハクビシンと違って、ネコは爪を収納できるのです。
3本指の足跡。サギ類の鳥だと考えられます。
足跡からは、動物の歩行パターンを知ることができます。ネコなどの肉食動物は前足の跡に後足を重ねる習性があるので、足跡が2重に連なって見えます。

いかがでしたか?
採集・観察道具がなくても、ちょっと工夫すれば生物観察を楽しめるのです。自然の中に飛び込んだら、創意工夫を凝らして生き物探索してみてください。

さて、それでは現地水域生態系を学習するために、土岐川観察館へと向かいます。本館は多治見市の河川環境保全のために設立された公共施設であり、プロスタッフの方々が調査研究と環境教育活動を実施されています。一般向けの観察会などのフィールドワークイベントも催されていて、子供たちに自然科学と河川環境の素晴らしさを説いておられます。
まさに土岐川の水域環境研究のプロフェッショナル。観察館での環境学習が本当に楽しみです。

土岐川観察館は多治見駅から近いため、レンタサイクルやバスで来館するのが良いと思います。車で来館される場合、少し離れた駐車場に停めることになりますのでご注意ください。
観察館に到着。地域の自然を学ぶのって本当にワクワクしますね。

プロから直に学べる地域密着の環境学習施設

生き物への理解を深めるプロスタッフの生解説

本館を訪ねて受付でご挨拶したところ、なんとスタッフさんから直々に土岐川の自然環境についてレクチャーしていただきました。展示生物に関して丁寧に教えてくださり、現地生態系の知識が一気に増えました。
ほとんどの水族館では、プロから直接解説していただく機会はそんなに多くありません。ぜひこのチャンスを活かそうと思い、筆者はスタッフさんと対話させていただきつつ観覧することにしました。

入館すると、すぐさま大型水槽が出現。挨拶の後、受付のスタッフさんが展示解説をしてくださり、とても貴重で素敵な学習ができました。
本館は調査研究施設であり、教育施設でもあります。自然観察会が地元小学生を対象に実施されており、子供たちから感謝のメッセージが届いています。

スタッフさんと生物トークをしながら、生き物がたくさんいる自然展示室へと向かいます。本区画で最も目立っているのは、大型水槽で展示されているオオサンショウウオ(外来種との交雑個体)。
筆者が訪れたとき、本館の個体はかなりアグレッシブに動いていました。ここまで躍動的に舞うオオサンショウウオを見たのは初めてであり、夢中で食い入るように見つめました。

自然展示室。土岐川流域に生息する多種多様な水棲生物が展示されています。
めちゃくちゃ活発に泳ぐオオサンショウウオ(交雑個体)! たくさんの水族館を訪れてきましたが、ここまで活動的な個体は初めて見ました
正面からも接写。他の水族館のオオサンショウウオは水底でじっとしているイメージが強いですが、本館の個体は本当によく動きます!

飼育生物についてスタッフさんに質問しながら、自然展示室の観覧をさらに進めていきます。
とにかく土岐川には魚たちがたくさん! 中には、タニガワナマズのように東海地方にだけ生息る淡水魚もいます。それぞれの魚がどのような特徴を有しているのか、採集するときにどのようなエピソードがあったのか、スタッフさんから丁寧に教えていただきました。

筒の中に隠れているのはタニガワナマズ。東海地方だけに棲むナマズです!
トウカイコガタスジシマドジョウ。その名の通り、東海地方にのみ生息するドジョウです!
ニホンウナギ。言わずもがな、日本人の食文化には重要な魚ですね。
どアップで迫るドンコ。人間を怯ませる迫力があります(笑)。
ゴクラクハゼ。川の中・下流域に生息しています。

自然展示室の中央部では、淡水カメ類の水槽があります。外来種のカメたちであり、どの子も可愛くてかっこいい!
これほど美しい爬虫類たちが駆除の対象にされてしまう原因は、人間の身勝手な行いに他なりません。これ以上の悲劇を生まないために、「どんな生き物でも、最後まで責任を持って世話する」という決意を我々1人1人が心に刻みつけなくてはなりません。

カブトニオイガメ。肉食性で噛む力が強いので、野外で見つけても迂闊に手を近づけてはいけません。
ミシシッピアカミミガメ。かつて「ミドリガメ」という愛称でペット販売されていました。

本館では、水槽に生物観察の独特な工夫が施されています。その1つが、ヤゴの羽化をさせるための水槽内レイアウトです。
水槽の上面をオープンとし、さらに水面上に突き出た木をセットします。これによって、ヤゴは木に登って羽化することが可能となります。やがて、飛翔したトンボは本館の手を離れ、自然界の空へと飛び立っていくのです。

ヤゴの飼育水槽。実は、トンボへスムーズに羽化するための工夫が施されています。
上部オープン水槽。水面から木が突き出ており、ヤゴが登って羽化できます。すでに今年もヤゴがトンボへと羽化したようです。
コヤマトンボのヤゴを発見。きっと元気に羽化してくれるはずです。
土岐川のトンボたちの資料。スタッフさんの調査によって得られた成果を学び、土岐川の自然をどんどん好きになってください。

地域自然を楽しく学び、生命の尊さを知る!

本館の生体展示は本当に素晴らしく、吸い込まれるように見入ってしまいます。加えて、多様な生き物の各種標本も大きな見どころです。
液浸標本、剥製標本、巣の標本など種類は様々であり、標本1つ1つに濃いストーリーがあります。ここでもスタッフさんに質問しながら、それぞれの個体が持つエピソードを聞かせていただきました。

ネコギギの液浸標本。ちなみに天然記念物の魚です
コイの喉頭歯。彼らは喉にも歯を備えているのです。
多治見市で採集されたゴホントゲザトウムシの標本。かなりのサイズであり、大型のクモにも負けません。
オオスズメバチの巣。人家に営巣したハチの駆除の後、本館に寄贈された標本もあるそうです。
割り箸を支柱にして、鳥の剥製を設置。今にも飛び出してそうな見ごたえ抜群の展示であり、本館の素晴らしい創意工夫の1つです。

スタッフさんの遊び心あふれる展示の工夫も、観察館の大きな魅力です。その好例が両生類コーナーのニホンアマガエルの水槽。素敵なことに、ミニチュアの玩具の家が水槽内に置かれています。
小さなお家に隠れるカエルたちを探すのはとてと楽しく、子供たちも嬉々として観察にハマるのではないでしょうか。来館者の喜びと好奇心を鼓舞し、自然科学の世界へと誘っていく創意工夫。改めて、本館は愛と知恵にあふれた施設だと感じました。

ニホンアマガエルの展示水槽。なんと、女児向け玩具の小さなお家が設置されています。
お家の至るところにニホンアマガエルがいます。シルバニアファミリーの汎用性、恐るべし。
シルバニアファミリーの家のアマガエル探し、思わず夢中になってしまいます(笑)。小型で登坂能力の高い種類にはぴったりのセットと言えます。
小さなカエルを見た後は、大きなカエルにも会いたくなります(笑)。アズマヒキガエルの威厳には惚れ惚れしますね。
本館では多治見市におけるカエルの生息域を調べ、種類ごとに地図にプロットしています。両生類を研究している理系の方は、「このデータほしい!」と思ったのではないでしょうか。

観察館の奥にあるニホンイシガメの水槽でも、見せ方に工夫が見られます。水中と陸上それぞれの場所でのカメたちの過ごし方が観察できるように、水槽の半分には水を張り、もう半分には陸地となっています。見せ方1つ1つに、生き物の魅力を余すところなく伝えたいというスタッフさんの想いが垣間見られます。

在来種ニホンイシガメの展示水槽。こちらでは、人工物で水槽内に陸地と水辺が作られています。
ヒートグローで日向ぼっこするニホンイシガメ。淡水カメ類が陸上にいるとき、どんな目的でどんな行動をしているのか、じっくり観察してみましょう。
水槽の片側では、ニホンイシガメの水中での行動を見ることができます。半水棲生物の展示スタイルとして、この水槽の見せ方はとても理にかなっていると思います。

実は、観察館の屋外にも展示エリアがあります。水生昆虫や両生類のオアシスとなるビオトープ、そして淡水カメ類の展示場です。
生物マニアの中には、ビオトープを造ってみたいと思われている(あるいはもう造った)方も多いはず。自分で創出した環境にどのような生き物がやってくるのかを記録し、観察するのはとても楽しいはずです。ビオトープの製作と管理について疑問があれば、この機会に観察館のスタッフさんに質問してみてはいかがでしょうか。

屋外に造られたビオトープ。生き物好きの中には、オリジナルのビオトープを製作した方も多いのではないでしょうか。たくさんの昆虫や両生類が集まってくる過程は、本当に楽しいですね!
ビオトープの隣に築かれたカメたちの屋外展示場。思い思いに過ごす彼らの姿は、とても可愛いですね。
爬虫類は変温動物ですので、体温調節のために太陽熱を利用します。水辺で日向ぼっこをしているカメたちは、日光浴して体を温めているのです。

数々の展示工夫と教育性に満ちた土岐川観察館は、地域の理想的な学術施設だと思います。何より、自然調査のプロから直接お話を伺えるのがとても嬉しく、筆者にとって本館はとても思い入れの深い環境学習の場となりました。
自然に直に触れて、一流の環境教育技術者から現地自然の秘密を教わるーーつまり、極上の学習体験が土岐川で体感できるのです。自然と生命に対する探究心と、環境保全の意識を育む観察館。ぜひとも多くの方々に訪れていただきたいと思います!

多治見市土岐川観察館 総合レビュー

所在地:岐阜県多治見市平和町6-84-3

強み:プロの環境保全スタッフによる土岐川生態系の専門的レクチャー、土岐川流域に暮らす多種多様な生き物たちの生体・標本展示、生き物への好奇心と探究心を刺激する工夫満載の生体展示スタイル

アクセス面:観察館は土岐川の近くに位置しており、JR多治見駅が最寄り駅となります。駅から徒歩で行くことも十分可能ですが、夏期や冬期の徒歩移動はなかなかつらいので、レンタサイクルなどのサービスの活用をオススメします。自転車ならば、途中で川辺に立ち寄って、土岐川で生物観察を楽しめます。また、観察館の手前までは、ききょうバスの坂上ルートでアクセスできますので、バス移動も選択肢に入ります。

土岐川流域のあらゆる生き物について学べるうえに、一流の環境保全スタッフと直接お話ができる素敵な環境学習施設。プロのマンツーマン講義から得られる情報は多大であり、生物調査や環境教育を仕事にしたい方にはきっと大いに参考になるはずです。土岐川流域の生態系や生き物の飼育方法について質問できる貴重なチャンスなので、この機会を積極的に活かしてください!
美しい生体展示・標本展示には現地自然の濃密な情報が満載で、飼育員さんからそれぞれの生き物にまつわるエピソードを聞くと、さらに土岐川の生態系への関心が増します。各種展示に込められた見せ方の工夫も特筆すべきであり、来館者の生物に対する好奇心を強く刺激してくれます。大人・子供の両方の視点から見て、学術性と教育性がとても高い施設だと思います。
生き物好きならば、誰もが幸せな時間を過ごせる土岐川観察館。学びの場として、環境保全意識を高める場として、筆者が心から推す施設です。観覧を経て、土岐川の自然をもっと知りたいと思いました!

本館入口には、さかなクンの素敵な手描きイラストが飾られています。生物マニアならば、きっと誰もが土岐川観察館を好きになると思います。

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