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全国自然博物館の旅⑥我孫子市鳥の博物館

人と鳥の共存をテーマにして開催される、日本最大級の鳥類系イベント「ジャパンバードフェスティバル2023」。フェスティバルが千葉県我孫子市で開催される理由は、野鳥が数多く訪れる手賀沼と、鳥類を専門とする博物館があるからです。
ジャパンバードフェスティバルで盛り上がった我孫子の街より、鳥類の研究展示の超エキスパートと言うべき「我孫子市鳥の博物館」を紹介します。


全国の鳥好きが集結! 人と鳥の未来を考える祭典

「鳥博」の名で知られる本館は、日本唯一の鳥を専門的かつ総合的に研究展示する博物館です。つまり、鳥類学の超プロフェッショナルであり、鳥についての多大な知識を本館から得ることができます。
博物館は手賀沼という湖に面していて、水辺に生息する鳥たちに関する知見も膨大です。鳥の生態や進化の秘密、手賀沼の自然環境、人と鳥の共存への道ーー非常に魅力的で考えさせられるテーマを展示から受け取ることができますので、老若男女問わずたくさんの人に来館して見ていただきたいです。

JR我孫子駅に到着すると、街全体がジャパンバードフェスティバルで活気づいているのがわかります。博物館への期待も一気に高まりますね。
フェスティバルのポスター。いろいろな種類の鳥たちが編隊のごとく飛んでいる様は、めちゃめちゃかっこいい!

筆者が訪れたときは、ジャパンバードフェスティバル2023の真っ最中! 国内各地のNPOや地方自治体をはじめとした鳥の保護団体が我孫子市に集結し、それぞれの保全活動について一般の方々に教示してくれます。また、街の公共施設は鳥に関する催し物であふれ、手賀沼には大勢のバードウォッチャーが訪れます。

つまり、鳥を愛する人たちが全国から集まってくるのです!
この期間中は博物館も入館無料になるので、来館者には嬉しいですね(笑)。

博物館へ向かう道中では、ジャパンバードフェスティバルの催しをしっかりと満喫しました。
まずは駅前の坂を下り、手賀沼の畔のアビスタへと向かいます。

JR我孫子駅から10分弱ほど歩くと、手賀沼が見えてきます。湖面に水鳥が浮かんでいる光景は穏やかで、水辺の公園は我孫子市民の憩いの場となっています。
ジャパンバードフェスティバルの会場その1・アビスタ。我孫子市民の生涯学習センターや図書館を有しています。建物のすぐ手前には手賀沼が広がっています。
アビスタ施設内では環境NPOによる鳥の保護活動報告の他、首都圏の大学生による催し物、バードウォッチャーの方々の写真展を見ることができました。

手賀沼沿いの道を歩くこと約10分、ジャパンバードフェスティバルのメインエリアである手賀沼親水広場に到着。フェスティバルの期間中、本施設の駐車場は鳥の保護団体の出展会場へと変わります。
全国各地で鳥の保護を行われている団体の活動報告について、展示と解説で学ぶことができます。環境保全活動の現場の最前線を知るために、こういった機会はとても貴重だと思います。

ジャパンバードフェスティバルの会場その2・手賀沼親水広場。地元農産物の直売所があるだけでなく、手賀沼の環境が学べる展示コーナーも施設内に設置されています。
鳥類の保護団体の出展ブースエリア。鳥を愛する人々がこれだけ集まり、成果の情報を交換するのは本当に素晴らしいと思います。
可愛いマスコットキャラ・メグロンとご対面。子供から大人気でした。

各ブースで興味深い時間を堪能したら、親水広場から道路を挟んで反対側へ。

お待たせしました! 我孫子市鳥の博物館へと到着です!!

鳥博に到着。こちらが今回の記事でレポートする博物館です。ジャパンバードフェスティバル開催中の2日間は入館料が無料となります。
自動販売機も鳥博仕様です。アオサギ可愛いですね(笑)。

国内唯一! 鳥類学の専門博物館!!

手賀沼の自然環境と多種多様な現生鳥類たち

本館の鳥の標本は剥製・骨格合わせて膨大な数にのぼり、とても見応えがあります。鳥は最も繁栄している陸上脊椎動物であり、サイズや形態には驚くほど多様なバリエーションがあります。鳥博の剥製展示を目の当たりにすれば、その驚異的な多様性がわかります。
地球スケールの展示へ繰り出す前に、まずは手賀沼の自然に根づく鳥類の生態を学びましょう。水辺に飛来する鳥たちの各季節の暮らし方を、ジオラマ展示によって知ることができます。我孫子市ではどの季節にどの鳥と出会えるのか、バードウォッチャーにはとても参考になりますね。

田植え時期になると、水田の生物を求めてシギやチドリが集まります。これは我孫子市だけでなく、全国各地で見られる光景ですね。
夏期の手賀沼では、鳥たちが子育てに励みます。大きなヨシ原は身を隠しやすく、鳥たちの巣作りにはうってつけの場所です。

そしてやはり圧倒されるのは、百花繚乱ーーそれ以上に壮観な世界中の鳥たちの剥製標本。2階と3階には大型の展示ケースが設けられており、2階では企画展の標本が展示され、3階には268点もの剥製が常設展示されています。
鳥たちのかっこよさ、美しさ、神々しさにはきっと息を呑むはずです。

企画展では猛禽類が特集されていました。ワシやタカといった典型的なフォルムの猛禽はもちろん、かっこよさと可愛さを併せ持つフクロウたちにもうっとりします。
どの猛禽類もかっこよさ抜群です。剥製の力強い風格とポージングに注目しましょう。

筆者来館時の企画展は猛禽類であり、空中最強のハンターたちの凛々しさと強さの秘密をしっかり目に焼きつけることができました。そして、他の鳥たちにもまた違った美しさがあり、その姿は常設展示で存分に味わえます。

こちらは常設展。陸上の大型鳥類レア、ヒクイドリ、エミューが立ち並ぶ様は壮観の一言に尽きます!
大きさならツルの仲間たちも負けていません。翼を広げたら、さらに雄大に見えることでしょう。
筆者の好きな鳥・ツバメケイ。ヒナの時期には翼に爪がついており、祖先である小型肉食恐竜に通じるものを感じさせます。

どの剥製標本からも気高さを感じられ、ぜひ1点ずつじっくり見ていただきたいと思います。近い種類同士の差異を見つけてみるのもおもしろいかもしれません。

さらに、剥製だけでなく、各種類ごとの卵や巣の展示もあります。卵・巣の形態的特徴は、鳥の種類を見分けるうえで重要なファクターです。こういった標本を詳細に研究することは、鳥たちの生態解明に大きく役立つのです。

鳥たちの卵と巣の展示。卵の色や形、巣の構造も種類によって様々です。プロの研究者は、こういった手がかりからも鳥を同定するのですね。

数百体の剥製標本を改めて眺めてみると、鳥たちの多様性には本当に驚かされます。空を飛べるだけでなく、どんな環境に適応していけるしたたかさが、現代の彼らの大繁栄へとつながったのでしょう。

ハシビロコウの存在感はすごかったです。大きな魚を食べるために、このような頑強なクチバシを備えています。本当に、鳥の形態は数えきれないほどバラエティに富んでいます。

過去から未来へ! 人と鳥の共存を目指して

鳥の進化の道程と古代種についても、本館には興味深い展示がたくさんあります。まず目につくのは、始祖鳥アルカエオプテリクスの実物大模型と化石の復元展示。最新研究で甦った繊細で美しい姿を、ぜひ堪能していただきたいです。

恐竜っぽさが滲み出る始祖鳥アルカエオプテリクスの復元模型。約1億5000万年前(ジュラ紀後期)のヨーロッパに生息していました。鋭い歯と爪を持っているのが特徴です。現生鳥類の直接の祖先ではなく、恐竜として扱われることもあります

巨大なジャイアントモアの骨格とディアトリマ(ガストルニス)の実物大模型でしょう。後者は約5000万年前の地上に君臨した陸上鳥類であり、哺乳類と競合関係にあったと考えられています。とっても大きくてかっこいい!

迫力満点のジャイアントモアの全身骨格。体重200〜300 kgもある巨大な陸上鳥類であり、数百年前までニュージーランドに生きていました。現地部族の乱獲により絶滅したと考えられています。
約5000万年前のアメリカ・ヨーロッパに生きていた肉食陸上鳥類ディアトリマの復元模型。現在では、ガストルニスという名前で呼ばれることが主流になりつつあります。

なお、鳥類絶滅の原因の多くは、私たち人類の影響によるものです。モアやドードー、エピオルニスは無作為な乱獲によって個体数が激減し、彼らの種族は地球上から永遠に失われてしまいました。人類のどのような活動が彼らを滅亡に追いやったのか、本館の展示から知ることができます。

『不思議の国のアリス』にも登場する絶滅種ドードーの復元模型。インド洋のモーリシャス島に生きてましたが、乱獲により17世紀に滅びました。
体重500 kgもあったという巨鳥エピオルニスの卵の化石。モアに似た陸棲の鳥類で、卵の大きさは給湯ポッドほどもあります。マダガスカル島に渡来してきた人類に狩られ、17世紀頃に絶滅したと考えられています。

本館の素晴らしいところは、鳥の形態や進化のみならず、飛行の秘密や生理学的特徴までも展示で解説してくれる点です。鳥に関する全般的な学習ができるので、鳥類学への関心を一気に高めてくれます。
鳥たちはなぜ長時間滑空できるのか、なぜ軽々と空高くへ舞い上がることができるのか、山よりも高く飛んでいる鳥たちはどうして酸欠にならないのか。鳥たちが持つ驚異的な能のメカニズムを、本館の展示でくまなく理解することができます。

いろいろな鳥たちの翼の比較。翼にも様々なタイプがあり、種類ごとに得意な飛び方があることを解説してくれます。
骨格標本に筋肉の位置を示したわかりやすい展示。空を飛ぶ鳥たちは、強靭な筋肉組織を備えています。彼らの羽ばたきのパワーがどのようにして発揮されるのかーーその秘密となるダイナミックな筋肉の仕組みを知ることができます。
鳥が体内に有する器官「気のう」についての展示。これもとてもわかりやすい展示だと思います。鳥たちは体内に特殊な酸素供給システムを持っているので、酸素の乏しい高度8000 m以上もの高空でも飛行できる種類がいるのです

展示の最後は、人と鳥の共存についての問題提起で締め括られています。
人類の活動によって滅んでいった鳥たちは数知れません。失われた種類を取り戻すことは現在の技術では非常に難しいですが、身近な鳥たちの保全ならば我々にもできることは必ずあります。
ジャパンバードフェスティバルで出会ったNPOや学生の方々が継続実施している鳥たちの保護活動は確実な成果を見せており、種の保全に大いなる貢献をしていると思います。人と鳥の共存を考えうえでも、このフェスティバルが持つ意義はとても大きいと感じました。

トキの剥製標本。かつては天を覆うほどたくさん飛んでいたようで、その美しい光景を日本の空に甦らせるための復活プロジェクトが佐渡島で進められています。
来館者に対する最後のメッセージは、とても印象に残りました。鳥の保護を含めた地球環境全体の保全活動について通じる理念だと思います。

我孫子市鳥の博物館 総合レビュー

所在地:千葉県我孫子市高野山234-3

強み:国内唯一無二の鳥類専門博物館ゆえの圧倒的な専門性の高さ、手賀沼での学術活動を含めた地域との強い連携、学術機関・NPO・鳥類ファンからの厚い支持

アクセス面:JR我孫子駅からバスを使用すれば容易にアクセスできます。徒歩でも行けなくはない距離ですので、道中の手賀沼公園や飲食店などで休憩しながら進めば、徒歩移動も苦にならないかもしれません。車を運転して向かうのが最も楽だと思われますが、年に1度のジャパンバードフェスティバル開催中は駐車場が制限されることもありますのでご注意ください。

本館は、鳥の専門の博物館として国内で唯一無二の地位を築いていて、そのブランド力はとても強いです。多種多様な鳥の剥製により、展示の視覚的な迫力は十二分にあります。なおかつ、鳥の生態や飛行のメカニズム、進化についても解説が充実しており、来館者は鳥類学の広範な分野に触れることができます。鳥に関する幅広い知識を一挙に習得できるので、観覧後には鳥への興味が倍増しているはずです。
我孫子市では年に1度ジャパンバードフェスティバルが催されますので、そちらの機会もぜひ活用していただきたいと思います。全国各地の環境保護団体の活動成果を見られるチャンスはなかなかないので、環境系の進路に進みたいと考えておられる学生さんには特にオススメです。

博物館の裏手には山階鳥類研究所があり、フェスティバル期間中は講演会場となります。多くの専門家から、鳥の保護活動についての講演を聴くことができるのです。私は整理券をゲットできず、映像展示だけ見てました(泣)。

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