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【ショートショート】オノマトペ変奏曲

 画期的な楽器「ノートブロウピアノ」が完成した。
 これは演奏される音楽の音符が立体映像となり、ピアノの上に吹き上がるように現れるという、一種のインスタレーション芸術のために開発された楽器だった。
 開発者のエンジニア呉蓮久留斗ぐれんくるどは、腕に覚えのある自らの演奏でお披露目となるコンサートを開催した。
 だが、ここに彼の知らない罠が待ち受けていた。
 呉蓮のライバルで嫉妬深いエンジニアの毛尾鳥栖蔵けおとすぞうが、ピアノに内蔵されたAIプログラムを、音楽専門のものから漫画専門のものに書き換えてしまったのだ。
 呉蓮は気付かぬまま演奏に臨み、演目の「ゴルドベルク変奏曲」を弾き始めた。
 この緩急織り混ざった32の変奏曲は、ノートブロウピアノの能力を活かすのにぴったりのはずだった。
 だが、ピアノの上に舞い上がったのは音符ではなく「タン、タン、タラランタ、タンタタタン…」というような音そのものの書き文字…すなわちオノマトペだった。
 ピアノの機能を疑わず、楽譜を見つめる呉蓮は観客のざわめきが、成功の証と信じてしまった。
 コンサート終了後、はじめて事態を知った呉蓮は真っ青になったが、興業主の
「先生!大成功でしたね!」
 という言葉にさらに驚いた。
 観客の多くが、招待された子供達であったことで、オノマトペを放つピアノは大いにウケたばかりか、音楽そのものにはじめて興味を持った子も多くいたというのだ。
 この結果に、毛尾はAIを差し替えたりせず、抜いておけばよかったのだと大いに後悔した。
 抜けていたのは彼自身だったのだが…


たはらかにさんの「#毎週ショートショートnote」企画参加作品です。
例によって字数オーバーでございます(649文字)。
もはや、確信犯的に字数納めは諦めてる自分がいたりしますが、よろしく…
😭

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