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【SFショートショート】侵略のポッキーゲーム(または半笑いのポッキーゲーム)

 宇宙は暗黒の森林……
 いつ、どこに潜んだ狩人たちが、他の星に襲いかかるかわからない。
 そして、ついに地球にも恐るべき狩人の魔手が伸びてきた。
 地表に落下したカプセルから現れたその不定形生物は、飛び交う電波から情報を収集し、この惑星の住民に近づいてその生命エネルギーを吸い尽くす手段をつかんだ。
 すなわち、セクシーで美しい女性に変身し、その魅力で誘惑した男たちからエネルギーを吸い尽くすのだ。

 帰宅途中だった一人の男子学生の前に、宇宙から来た美女が立ちはだかった。
「ネエ、ワタシトキスシテ……」
 妖艶な微笑みで迫られた学生は、ドギマギしながらあたりを見まわした。
「えっと……僕とですかあ? 誰かと間違えてませんか?」
 学生はキスはおろか、ろくに女性とつきあったこともないウブな青年だった。
 しかも、恋愛は段階を踏んでプラトニックに進めたいという保守的な価値観の主だったので、いきなり美女に迫られてホイホイと乗るタイプではなかった。
「あの……お申し出は大変うれしいのですが……いきなり見ず知らずの男女がキスすると言うのはやっぱり、その、あの……」
 そんな言葉を意に介さず、近づいてきた美女は学生の首に手を伸ばしてきた。
 学生は思わず飛び退くと、思いつきを口にした。
「そ!そうだ!キスするなら、まずポッキーゲームからにしましょう!それで偶然キスしちゃったら、そこから始まるのもありじゃないですか!」
 何が始まるのか自分でもわからないまま、学生は偶然さっき買って来ていたポッキーを取り出して開封し、一本を口にくわえた。
「はあ、ほうぼ(さあ、どうぞ)」
 美女はちょっと首をひねったが、すぐに学生の背中に手を伸ばし、豊満な胸を押し付けてきた。
 ああ、すごい……こんな美女とキスしちゃったら、そのあとどうなっちゃうんだろ……
 学生は、ポッキーをくわえた自分の口が、半笑いになるのをおさえきれなかった。
 いかん、いかん。変な顔したら逃げられてしまうかも……
 そして、両者はポキポキとポッキーを食べ始め……
 唇が触れ合いそうになる一瞬前、今度は美女の方が目を見開いて飛び退いた。
 学生は焦った。やっぱり、半笑いの表情を気味悪がられたか…… 
「コレハ……ナンダ……」
「え? 何って、ポッキーですよね?」
「ポッキー……コンナウマイモノハハジメテタベタ。コレハドコデテニハイル!」
「どこって……その辺のコンビニとかスーパーとかどこでも…」
 次の瞬間、美女の姿がどろっと溶けたように崩れ、あっという間に学生の前から消えた。
 残された学生はポッキーをくわえたままぼんやりと立ち尽くした。
 白日夢でも見ていたのだろうか……僕は欲求不満なのかもしれない……帰って昼寝でもしよう……
 学生は自分が地球を救った英雄となったことにも気付かず、トボトボと帰路についた。

 暗黒森林の宇宙で、地球はなんとか生きながらえた。
 だが、恐るべき来訪者を迎える前と、全く同じでというわけにはいかなかった。
 この星のありとあらゆる地域から……

 ポッキーという商品が消え失せたのだ。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「半笑いのポッキーゲーム」。
実は、ポッキーゲームってなんだっけ?というところから調べました。
😅
「三体」とか「スペースバンパイア(観てませんが)」とか、いろんなものが混じってる変な話になっちゃいましたがよろしく。

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