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2023年5月 短歌まとめ

連作

ベンジャミン・帰郷

茜さす空の裾野にふるさとが、私の帰るふるさとがある。

まもなく2番ホームから列車が 規則正しく発車いたします

夜だから何も見えないと知っててそれでも座りたかった海側

慣性の法則:時速100キロの空気のうちで赤ちゃんになる

トンネルを通る音は又三郎に出会ったあの教室の朝

20連休くらいになってから「大型連休」を名乗れ ばかたれ

記憶の海に

台風の次の日 臨海学校で先生たちに 殺されかけた

「流されたとき、お母さんのこと考えたがやって。」 が忘れられない

海は大人でも間違った選択をすることまで教えてくれた

白浜に踵をさらす ほら南風をふくんだ白いTシャツ

二十三の皮膚は瞳はどうですか。太陽に聞くまでもないか。

この波じゃ泳げないのに遊ぶ子ら 命のゆらめきそっと見ていた

スペース

SEIKOをつけた大谷はつま先から時計仕掛けの摩天楼

金曜の夜しか好きじゃないもんで太陽系を滅ぼしておく

月に住んでいた時在来線で土星へ行って花をさがした

大事なものばかり見落とす私は小さくて宇宙は大きくて

そばかすが消える乳液を塗っても友だちでいてひとり聴くYUKI

おとぎのくに

あの男は二十五になる、この男は三十八になる 不思議と

「マイナンバー」スピリチュアルな響きにも聞こえてくるよケロケロケロケロ

ビルの窓 まだ働いているんだね きらきらひかる ぼくらの星よ

予報では猫と犬とがいっぺんに話しかけてくるような雨

髪の毛が伸びたら切りたくなるように 叶った恋は覚えておかない

連作でないもの

無題

16時26分の産声 ちょうど今日みたいな金曜

昔よりちょっと健康になったし 前髪を眉より上で切る

担当をいちばん理解してるのは私!←なんだこの生き物は

何年も同じかさぶた剥がすため 眠る 治りが早い年頃

急な雨に降られて私も誰か彼かの屋根に入ってみたし

変化する気持ちを型にはめること 誰のために生きていたっけな

動き出す指やつま先 あの夏の前田敦子より年上に

シンクには果てたドリップコーヒーがくたりとすわる日付が変わる

コラム

自分の詠んだ詩歌、
今月何があったかぶわっと思い出せるから好きだ。

ふるさとの海、大好きだったあの人。
いろんなものが懐かしく感じる五月に
また十二ヶ月もお別れなんて。

来年の自分は、何を詠むだろう?
何が詠めなくなっているだろう?


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