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2024年 3月 短歌まとめ


連作

日々溺々(おぼおぼ)

暮らしから逃げたくなって走っては疲れて気づく 暮らしにいると

気がつけば頁をめくる時間すらなくて栞がちいさく眠る

血がにじむ 生きているからまた転ぶ 立ち上がるため今、息を吸う

ヘルジャパン産めと容易くいうけれど わたしのいのちはわたしのいのち

悪魔の実 食べたらただの悪者になるだけの人生な気がして

春らしさ

一年のインクの厚み「完了」と大きく躍るとめ、はね、はらい

陽射しから冬の終わりがこぼれたら昨日のニットもう着られない

恋よりもつよくやさしいしあわせを捜すてのひら皺が増えてく

師走には坊主が駆ける期末には部長が喚く 進捗いかが

春らしい詩を詠むほど春らしいことのできない会社の社会

星々のアンセム

その声の波形に触れに旅に出る三四〇メートル前へ

約束はしない「明日も愛してる」 なんて、言ってる場合じゃないし

正解じゃないとは思うただ君は不正解が少なすぎるね

これからもずっと笑っていてほしい 六人で手を繋げば星座

夜のあと 瞼のラメをぬぐったら 銀河の写し絵 ここにも宇宙

君のシュシュ

ファミレスで君のシュシュばかり見ていた溶けいるメロンソーダの氷

冬空のプラネタリウムを出ていけば 銀河になった傘の群れたち

春色のスカーフは胸にとまる蝶 プリズムパワーで僕を絶やして

怪獣のあしあとが耳に張りついた もうすぐあれがやってくるかも

ごくごくごくとくとくごくごくごくごくごくごくごくと喉鳴る昼間

コラム

年度末を駆け終わり、心から安心している。

昨年に詠んだものは、春の陽気を見たまま表したような、黄色や桃色の歌が多かった気がする。それと比べると本当に「忙しない人の呟き」の詩になったなあ……と。

一年も社会の荒波に揉まれるとこういうことになるのだなと痛感した。ブルーライトで照らされた居場所に、心地の悪さを感じないこともない。

とはいっても、街並みが鮮やかな花に染まったのは見ているし、暖かい風の香りを嗅いでいる。
極めて呑気に暁を忘れているし、食欲も恐ろしくある。快便。ほどよく落ち込む。散歩が大好き。

そういったことだけが、私を私でいさせてくれているような気がする。春。

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