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羽をもがれた妖精は復讐を謡う;小噺

 それは四人でパフェを食べに行った時に話した内容だった。
「アルカナでの幼少期ってどんな事してたんだ?」と言うルカの問いに、ナギが「普通に勉強したり遊んでいたかな」と答えた。
「教育カリキュラムの中に、たまに同年代が集まっての課題授業みたいのがあるんだよ」
その際、各支部にいる同世代達が本部に集まるのだ。そしてグループワークみたいな事をやらされた。
「その時に風見、日向と会ったんだよなぁ」
「だいたい半年に一回くらいの頻度で会っていたかしら」
半年に一回となると、お盆と正月に帰省する一人暮らしと同じだな。と、ルカはひっそり思った。
日向は最後の一つの白玉を食べながら、かつての事を思い出す。
「課題を出されて、チームで競わせられたよなぁ。ナギと風見が同じチームにいると必ず勝てたし、楽だった」
「ちなみにどんな事やらされたんだ?」
ルカの問いに、三人とも思い出そうとする。そして日向が「たしか……」と話し出した。
「三人1組にされて、白か黒の帽子を被せられたな。この時、自分の帽子の色は見えないが、他の二人の帽子は見れるから、自分の帽子の色を当てろって」
日向の言葉に、風見が頷く。
「もう少し詳しく言うと、帽子はランダムに被せられ、
1.パスする、2.自分は白い帽子を被っている、3.自分は黒い帽子を被っている
の中から回答するって言われたわね。あと、全員がパスと言う事は出来なかったはず」
つまり、少なくとも1人は必ず色を宣言すること。また、宣言した者全員が正解じゃなきゃいけないって事か。
俺は頭を捻った。よくある「四人の囚人問題」とは違う様だ。
風見は飾りのチョコレートを食べた。ポキポキっと板を割る様な音がする。
「これをチーム戦でやったから、たしか…九回やって、『回答ミスがなかった回の、回数』が多い組みが勝ちって事だった筈よ」
つまり正解者の人数ではなく、各回で不正解者がいない場合で一カウント。最高九回正解するって事か。
俺は中層の梨のシャーベットまで辿り着きながら、計算する。
「もし全員てきとうに回答したら、勝率としては1/8だよな」
「そうそう、だから殆どのチームは宣言する担当を決めてたな」
そうすると、確かに勝率は1/2になる。だが、それだとその課題をやる意味がない気がする。ーー勝率が五分五分と言う運任せのような事を、アルカナの教育部がやらせるだろうか?
俺は「うーん…」と考えていると、二人ーー風見と日向が意地の悪そうな笑みを浮かべていた。その様子から、やはり別の方法があるのだと確信する。
俺はチラッと、発言していない人物を見た。ナギはパフェを堪能しているのか、此方を見ない。ーーが、視線に気付いたのか、横目で俺と目が合った。
その目が「分かるでしょう?」と言っている様だった。少なくとも風見達とは違い、「分からないだろう?お前も引っかかるよな?」と底意地の悪い様な事は言っていない。
「分からないの?」と「分からないだろ?」と言われるの、どちらが腹立たしいか。
言ってくる相手による所が大きいと思うが、取り敢えず今は、優越感に浸っている二人にギャフンと言わせたいと思った。
ので、
「そうだな、俺なら3/4にまで勝率をあげられるけど」
と言ってやった。その言葉に、風見達は浮かべていた笑みを凍り付かせ、ナギはニヤリと笑ったのだった。
 パフェを完食後、店内がそう混んでいないと言う事もあり、少しだけまったりとした時間を過ごす。
ナギは「よく分かったな」と笑った。
俺は褒められて嬉しいと思う反面、答えられて当然とばかりに言ってきたのはお前だろ、と少しだけ恨めしく思う。
「"他の二人の帽子の色が同じだった場合のみ、それと逆の色を回答する"それが一番確率が高い筈だ」
俺の解説にナギは小さく拍手し、風見達はバツの悪そうな顔をした。ナギは解説と言わんばかりに、具体的な組み合わせを話す。
「帽子の組み合わせは白白白、白白黒、白黒黒、白黒白、黒黒黒、黒黒白、黒白白、黒白黒の8通り。"他の二人の帽子の色が同じだった場合のみ、それと逆の色を回答する"としたら、白白白と黒黒黒以外の場合は必ず正解出来る」
例えば白白黒の場合、白い帽子を被っている二人を見た者が"他の二人の帽子の色が同じだった場合のみ、それと逆の色を回答する"為「自分は黒い帽子を被っている」と回答出来る。そして残りの二人は「自分が見ている二人は別々の色を被っている為」パスをする。
必ず一人は回答する事。そしてその回答が正解である事。この二つをクリアしている。
ただし全員同じ色の帽子だった場合、つまり白白白または黒黒黒だと不正解となる為、勝率は6/8=3/4となるのだ。
「まぁ、勝率3/4を九回もやればーー他のチームに強運な奴がいなければ、大抵は勝てるよ」
と言うか、勝ったし。そうナギは付け加えたのだった。

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