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羽をもがれた妖精は復讐を謡う-過去編-[9]


 ルカは膨れていた。ここ最近、ずっと機嫌が悪い。
その理由は明確だった。
「風見、パフェ食べに行こう」
「駅前に出来たお店の?いいわね」
ナギが風見ばかりに構うのだ。この間までは自分があの隣にいたのに……。
隣で書類仕事をしていた日向は、ルカの様子にやれやれと首を振り、溜息をついた。
「仕方ないだろ、ルカ。別に恋人同士って訳でもないだろ?」
「そうだけど……」
分かってはいる。ナギに誘われてアルカナにきたとは言え、自分はナギの特別でも何でもない。
それに風見の様な全能でもない。
四大元素を全て扱える者はごく僅かだ。実際、自分が会った事のある全能者は、風見だけである。
別に、風見の事が嫌いな訳でも、憎い訳でもない。ただ嫉妬しているのだ。その自覚はある。
日向は半ば呆れつつも、ルカを慰める様に言った。
「お前の価値と、風見の価値は違うーーあとで必ず、ナギはお前を頼るさ」
空間支配系能力はとても貴重だ。扱える者が少ないのもそうだが、なにより需要が多い。たとえ風見が全能者であろうと、その立場が揺る筈がないのだ。
日向の言葉に、ルカは変わらず膨れっ面のまま手元の仕事へと視線を落とした。

で、結局。
「ルカは甘い物って平気だった?」
「あぁ、問題ない」
「ちょっと、何でナギの隣に座るのよ」
「俺だけ自分持ち?ケチだなぁ」
ナギ、ルカ、日向そして私の四人で来ていた。
いつも振り回しているルカと私に対して、お礼がしたいとナギが声をかけたのだ。ちなみに日向は勝手に付いてきたので、自分持ちである。
「仲間外れは辛いんだよ」
と言うが、それならまず、その性格を治したほうがいいと思う。性根が腐っているとまでは言わないが、人の不幸は蜜の味と言わんばかりに楽しむその癖を。
私の前にナギ、隣に日向そして斜めにルカが座った。
「アルカナに入ってから頻繁に連れ出しちゃってるけど、周囲とは慣れた?」
ナギがルカに訊ねる。ルカは「そうだな……」と少しばかり考えた。
「父さんと二人きりの生活が長かったから集団行動は苦手だけど、今のところ問題はない」
「それは良かった」
ホッとするナギに「なぁ、面談ぽくなってるぞ」と日向が茶化しながら言った。
「こーゆー時にしか、聞けないと思って」
「なら、俺たちを巻き込むな」
「あら、日向は自分で付いてきたんじゃない」
「……」
仲良く言い合う三人に、ルカは少しの疎外感を抱く。チラッとナギを盗み見れば、楽しそうにしていた。
少し荒れた気分で、ルカは呟く。
「お前ら、本当に仲良いよな……」
「はじめて会ったのは、年齢一桁の時だからね。気心はお互いに知れてるかな」
年齢一桁代と言う事は、10歳未満という事。つまり十何年間の付き合いという事だ。
私は少し勝ち誇った気分になる。どうやったって、付き合いの長さは負ける事はない。私の考えが分かったのか、日向は「馬鹿か…」とそっと呟いた。よし、後で仕事を押しつけてやろう。
ルカは「うーん?」と考え込む様に唸った。そして疑問を口にする。
「ナギと風見は同じ世界の生まれではないんだよな?」
「そうだよ、昔はよく双子に間違えられるけどね」
小さい頃は紅白と言われたっけ、とナギは待ちに待ったストロベリーパフェ〜甘酸っぱさは初恋の味〜を一口食べて、幸せそうな表情を浮かべた。
私のチョコレートパフェも一口いる?と訊ねれば「是非」と、仕事でもなかなか見せない真面目な顔をする。
そしてちゃっかりと、ルカの季節のフルーツパフェ〜梨と林檎のコンポート添え〜と、日向が頼んだ抹茶と白玉のあんみつパフェ〜和栗と共に〜も一口ずつナギは食したのだった。
この中で一番階級が高い奴が、何故か妹属性と言う。実はアルカナ内で最大の謎とされていたりする。
「アルカナって、実は平和なんだなぁ」
とルカの呟きに、
「他派閥とは仲悪いけどね」
と、ストロベリーパフェから目を離さずにナギが応えた。既にコーンフレークの所まで辿り着いている。ザクザクと音を立てながら、溶けたアイスと絡めていた。
「派閥?」
と首を傾げるルカに、
「アルカナ派と、ミネルバ派の事だよ」
と端的に答えるナギ。だが、余計に分からなくなりルカの頭にクエスチョンマークが現れた。
少し可哀想だと思い、私が補足説明をするーーーミルクとビターの二種類のチョコレートアイスを交互に食べながら。
「アルカナ派って言うのは、人工能力者を積極的に造ってアルカナの目的を達成しようとする奴等の事。そしてミネルバ派って言うのが、此方に座(おわ)すナギ様がお作りになった内部組織ーー人工能力者保護組織の事よ」
「……は?」
ルカの様子に私、ナギ、日向の三人は「あ、ショートした」と口を揃えた。
理解が追いつかないルカは、慌てふためく。
「ちょっと待て…まずアルカナって組織を理解していなかった」
「まぁ、一般的な認識だと分からなくなるよな」
「勘違いしている人の方が多いしね」
「アルカナ派に利用されたくないし、敢えて情報を流す必要はないよ」
「お願いだから、一から説明してくれ…」
切実なルカの声に、ナギは「帰ったら改めて説明するよ」と言う。
どうやら、溶けて底に溜まったアイスを掬おうと必死の様だった。

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