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羽をもがれた妖精は復讐を謡う:小噺

夜風に芒が揺れる。俺は縁側に座り、体は外に向けつつもチラリと隣の人物を見やった。
「すっかり秋だなぁ」
と言いながら、団子ーーーではなく、月餅に手を伸ばすナギ。
「月見と言えば、団子じゃないのか?」
「今、風見が用意してくれてるよ」
そうではなく、と俺はジト目を向けた。ナギは「ルカもいる?」と、首を傾げながらまだ口を付けていない月餅を差し出す。
俺が月餅を受け取ると、ナギは「十五夜の月見って言うのは」と話し始めた。
「中国から伝わったもので、中秋節と称し、月餅などのお菓子を備えて開く、観月の宴の事なんだ」
それが伝わり、旧暦の8月15日に月を鑑賞しながら、その年の収穫などに感謝をするのが日本の伝統行事なのである。
「中秋の名月って聞いた事ない?」
と、ナギは二つ目の月餅を手に取った。月餅って、かなり高カロリーで腹に溜まると思うのだが…。
そんな事はお構いなく、ナギは月餅を半分に割った。
「中秋って秋の真ん中って意味で、旧暦で秋に当たる7月〜9月の真ん中である8月15日を指すんだ」
「ちょっと待て、日付が決まっているのなら、必ず満月って事にはならないだろ」
俺の言葉に、ナギは「ルカが知らないとは、珍しいな」と少し目を見開いた。
「旧暦は月の満ち欠けが暦のベースとなっている為、原則として、新月の日をその月の一日(ついたち)として日付を数えるんだ。だから3日は三日月、15日は十五夜=満月と日付と月の満ち欠けに対する呼び名が一致する」
現在使われている新暦では、太陽の動きを基準にしている。故に現在の十五夜の日にちは、毎年異なるのだ。
「ちなみに、新月って意味を持つ"朔"と言う漢字が、ツイタチとも読むのは此処からきている…らしい」
珍しく自信がなさそうに言うナギ。へぇ、と俺は納得しながら、食べかけの月餅を口に含む。

ナギは半分に割った月餅を美味しそうに食べた。
少し風が出てくる。芒を揺らす秋風に、ナギは身震いした。
「…少し寒いな」
そう言って、俺の側には寄ってくる。ピタッと体を寄せて、少しだけ傾けてきた。俺は瞬間、身が固まる。
「春になったら、今度は夜桜で花見がしたいな」
上目遣いで笑うナギに、俺は表現し難い感情を抱いた。
これは誘ってる?
腕くらいは回してもいい?
……風見が来たら、ど突かれそうだ。
逡巡し意を決して、ぎこちなく腕を伸ばしたらーーーパッとナギが立ち上がった。
「風見!出来た!?」
と、そのまま部屋の奥へと行ってしまう。此方に近づいて来る足音に、気付いたのだろう。
「あぁ…」
おれは項垂れ、つい、嘆き声を出してしまったのだった。

数日遅れのネタですみません💦

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