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国立奥多摩美術館館長の他の美術館に行ってきた!(Vol.09)国立新美術館『ルートヴィヒ美術館展 /20世紀美術の軌跡-市民が創った珠玉のコレクション』


他の美術館に行ってきた!(Vol.09)

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国立新美術館
『ルートヴィヒ美術館展 /20世紀美術の軌跡-市民が創った珠玉のコレクション』
会期:2022年6月29日~9月26日
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2022年7月2日(土)晴れ。六本木にある国立新美術館に行ってきた。美術館では時々、海外美術館のコレクションを紹介する「〇〇美術館展」というタイプの展覧会が行われる。今回もその類で、ドイツのケルン市が運営する「ルートヴィヒ美術館」を紹介する展覧会だった。この展覧会では、社会において美術館が担う役割について考えさせられた。美術館には、社会の中で価値を持つ作品を集め未来に届けるという使命がある。そのため、だいたいどの美術館でも常に、その地域や時代が反映された新しい作品の購入を検討している。しかし近年、美術館も財政難などで、作品の購入が難しくなってきている。なかなか価値の定まった高額な作品を購入する事が難しい。だが逆に、手ごろな金額であっても価値の定まっていない作品を美術館が購入する事も難しい。そんななか、このルートヴィヒ美術館では、市民コレクターたちが寄贈した作品を軸にコレクションが形成されてきたという。市民コレクターが、まだ価値の定まっていない作品を個人の裁量で購入する。そして時がたち、作品が社会的な価値を有してきた時に美術館に寄贈して、個人の所有物から、社会の共有財産にする。そんな文化的財産を社会に蓄積させていく仕組みが、ルートヴィヒ美術館を取り巻く状況の中には出来ているのだろう。そうやって市民によってつくられたコレクションを持つ社会は幸せだ。

そもそも、作品における価値とは何なのか。作品は、ピカピカ立派に存在し高額で取り引きされるという、それだけで価値を有しているわけではない。作品に寄せられる1人1人の思いが価値を創っている。本当は誰もが価値を創れて、美術館とはそんなみんなが創る価値を持ち寄り束ね、未来を創っていく場所なんだと思う。地方自治体が惰性でやっているような美術館も多くある。しかし本来、美術館が社会の中で担える役割はもっともっと大きいと私は信じている。財力に乏しい地方自治体美術館こそあえて、まだ価値の定まらない存命作家の作品を、確かな目で選び購入し、地域の中で価値を育てていく事をしてもらいたいと思う。正直、この展覧会を見ただけでルートヴィヒ美術館がパーフェクトな理想的美術館かはわからない。しかし、そんな理想的美術館に思いを馳せさせてくれる価値ある作品が並んでいる展覧会だった。【☆8.0】(佐塚真啓)
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「西の風新聞」2022年7月28日掲載

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