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殺人企業:第1話【週刊少年マガジン原作大賞】



このままだと誰か死ぬかもしれない………

私はそこまで堕ちたくなかった………


名ばかりな社長かもしれなかったけれど………


人として最低限の心は守りたかった………


お水を卒業後…数年間、ブラック企業の社長をしていた私の話です。


この作品は作者の失敗を元にこれ以上、被害者を出さない為に執筆しております。


人を陥れる方法、裏切り…


ブラックな話を織り交ぜながらつづらせて頂きます。


それが私の社長として…人としての贖罪です。


少しでも、あの場所で被害が起きない為にも………


*この小説は作者の実話を元に書いていますが登場人物・団体などは仮名とさせて頂きます。



第一章:伝説 /引退



2013年ー。


私はお水人生で最高の最後を迎えていた。


全グループで断トツの歴代記録を達成。


中には、最終日お店に入れなかった指名のお客様がシャンパン代やドリンク代を置いて行ってくれた。


それ以外にも他の女の子のお客様から花束やプレゼントを貰って指名客だけでなく女の子達からも惜しまれながらの引退。


本当に充実した最後だった。


お店で妹の様に可愛がっていた美咲ちゃんは一番淋しがってくれていたと思う。


最後に「大切な人と使ってください」と美咲ちゃんから貰ったティファニーのペアカップは勿体無くて数年経った今でも使えないよ。


あの頃は女の子からも慕われて…


記録も達成し…


今思うと、人生で一番輝いていた瞬間だったと思う。


だけど、それも全て幻想だったのかな………


最初はやる気のなかった仕事。

父親のガンをキッカケにこの世界で生きていくと腹を括った。


毎日、綺麗なドレスを着てヘアメイクをして、ランキングの上位にいる事は毎日、頑張った証。


風邪の悪化で声が出なくなっても出勤した。


声が出ない時は指名客と筆談で会話した。


何がそんなに私を奮い立たせていたのか……


今思うとプライドだったのかもしれない。



大学を卒業して…

大学のゼミの同期は大手や、ちゃんとした企業に就職していた。


私は就職活動で100社落ちて、所謂いわゆる、ゼミで言うと落ちこぼれだった。


だからかな……

世の中を見返したかったのかも………


こんな私でも大金を稼いでいるって。


起業するに至るまで…

正直、私の人生は負け犬人生だった。


とある市で有名な進学校に行ったものの学校に馴染めなくて中退。


その後はバイトをしつつ、大検を取って遅れて大学に入った。


大学に入学した後は、友人に恵まれて、そこらにいる大学生と変わらない生活を送っていたと思う。


だけど、就職活動で全敗するまで。


就職活動の時期は運悪く不景気に入った時で、中々思う様に面接が進まなくて気が滅入っていた。


落とされる度に自分がダメ人間な気がしていた。


そもそも、夜のお店に入ったのは就職活動費用を稼ぐ為だった。


中々、就職が決まらない事から父親に迷惑を掛けたくなかったから。


父親は私が小さい時に母親を亡くしてからずっと私を守ってくれて、何よりも私の理解者だった。


だからこそ、負担は掛けたくなかった。なるべく自分の力で出来る範囲、頑張ろうって思っていた。



だけど、そんな気持ちで入ったお店で知り合った人達とその後、あんな事になるなんて……


その当時、子供だった私は知る由もなかった。




第二章:起業



第一節:久我さん


就職活動を全滅した私の運命を変えた人…


恩人、師匠…今となっては一言で言い表わせない人。


お店で一番信頼していた久我さん。


この人には現役当時、一番信頼していたからこそ…家族、仕事の話とありとあらゆる話をしていた。



久我さんは、白髪の天然パーマの短髪に身長が185cm以上ある大柄な体。


目が二重でクリっとしていて森のくまさんみたいな愛嬌のある顔だ。


その特徴からか、すごく目立つ存在だった。


また、頭の回転も速く、いつもユーモアに長けていて…


何故か、久我さんは、お店の店長でもないのに発言力があって、お客さんも含め、女の子達からも絶大な信頼を集めていた。



お客さんにいたっては久我さんの事を店長だと勘違いしている人も多くて、


「えっ!?あの人、店長じゃないの??」


「店長は瀬名君だって!」


久我さんが店長じゃない事実に驚くお客さんに私が何度か突っ込みを入れる事もあった。


私が大学生だった当時…


久我さんは30代半ばだったにも関わらず白髪だった。


若い頃、親が多額の借金を背負って、それを返すのに寝ないで働いていた結果、髪が真っ白になったと言っていた。


最初は家業があるのに、何で夜のお店で働いているのだろうなんて疑問に思っていたが…


いつも親身に仕事や身内の相談を聞いてくれていた事から、私は自然と久我さんに心を開いていった。


久我さんに相談していたのもあって、私は父が病気になってから5年間ナンバーから落ちた事がなかった。


自分でもこの仕事が楽しくて如何にお客さんの話を盛り上げるか、新しい知識を増やしたりと努力や自己投資は惜しまなかった。



いつも締め日になると…


「久我さん!!どうにか今月も達成できたー!!」と久我さんに報告するのが当たり前になっていた。


時には「あのお客さん、超ムカつくんですけど!!」と愚痴を言い…


「じゃあ、こうやって仕返ししてやりましょ」と久我さんと笑いながら作戦を練るのも楽しかった。


だけど、私も年齢的にあまり長い事、夜の仕事をしている訳にもいかなくなっていた。



この仕事をやって5年ー。


父の病気も良くなっていたのもそうだが、毎年毎年、自己記録との追いかけっこにも疲れを感じていた。


正直、毎日来る指名客の顔ぶれにも疲れていた。


同じ事の繰り返しにも飽きていたのかもしれない。


私は貯金もちゃんとしていたので、卒業したら、その資金を元手に投資など何かしようとも考えていた。


だからかな?あっさり年収何千万と言う給料と地位を捨てる事が出来たのかも。



この頃は記録を達成して、簡単に指名も取れる事から調子に乗っていて、何でも出来る気になっていたのかもしれない。


あらゆる逆境をバネにして自分は稼いで成り上がった。


有名大に落ちて、就職活動もダメだった自分。


だけど、将来この仕事をずっと続けていくのは何とも言えなかった。



華の命にも限界がある。


一応、私も女だし結婚や出産の事も考えていた。


そんな悩みを抱えていた私はお店を辞める1年前ぐらいに久我さんの送りの車の中で話していた。



「系列の社長の椅子が空いているから手塚さんに言って推薦して貰える様にしときますよ!凛華さんならいけますよ!」

まさに、逆境の中で頑張って来たからこそ、白羽の矢が立ったと言う状況に私の心は躍った。



「凛華さんはナンバー上位ですし、歴代のナンバーを作り上げて来た手塚さんですから出来ますよ!!」

力強く久我さんに言われた。



手塚さんとは、私のいた店舗の元社長でありグループの専務だ。


私が現役時代の時、手塚さんはお店の中にはいなくて基本的に外の車の中で待機して漫画を読んでいるイメージがあった。


また、性格は基本クール。日焼けした肌にイケメン。
長身からか近寄りにくく従業員に対しては厳しかったが女の子には優しかった。



「ただ、その為には記録を作らないといけないので、そこを目指しましょう」

久我さんに力強く言われた、その言葉が私の脳裏に刻まれた。



アルバイトだけど頭の回転が速く、アイディア性などに優れた久我さんを信頼していたので、まずは記録を塗り替える事だけに集中する事にした。


そんな彼が別の顔を持っているなんて………



最初の1年は別として…


約4年、ほぼ毎日、顔を合わせていたのに彼の本当の顔を見抜けなかったのは自分の洞察力が無かったからなのか…



人を疑う事を知らなかったからなのか…



自分が子供だったのか…



それとも、彼が彼の中に秘めている凶暴性などを上手く隠していたからなのか…


だけど、あの最後に会った日、最後まで私は久我さんを信じていたかった。


一回りも離れた人が誰に対しても優しい人が、豹変する姿なんて見たくなかった。





あの瞬間、豹変した彼を見た時、私の中で彼に対して何かが音を立てて崩れた。




第二節:オープン初日


2014年7月ー。


他店からの妨害も無く無事にお店がオープンした。


私は今までお世話になったお客様に開店のお知らせメールをした。

「久我さん、頑張って500人ぐらいにメールしますね!!」


「いや、まずは30~50人ぐらいでいいよ。そんなに一気に来られても入れないだろうし」


「気合い入れようと思ったんですが」


そんな私と久我さんのやり取りを見ていた美咲ちゃんが「凛華さん、店前に行列出来ちゃいますよ!!」と笑っていた。


美咲ちゃんは前のお店でもナンバー上位で私は彼女とペアを組む事が多かった事からお店の女の子で一番良く話す子だった。


彼女は色が白くて目が大きいのが特徴で、とにかく笑いのツボが浅い。


何かにつけて大きな声で笑う子だ。


それだけに何かと思い入れが強い仲間の一人だ。



だからかな…


あの時、私の話を信じて欲しかった。


けれども、彼女にとっては私よりも久我さん達の方が信頼出来る存在だったんだろうね。


出来る限りサポートしてあげたかったけど、私の力量が足りなくてごめんね………。



キャバクラ「ピアニッシモ」オープン初日ー。


その日、私はピアニッシモで会計の仕事をしていた。


21時を過ぎた頃ー。


ダイニングバーにお客さんが来たと加賀見かがみから電話があった。

加賀見は4階のダイニンバーの店長だ。


加賀見はくだらないギャグと体毛が濃い事をネタにしている事から男性の客受けが良かった。


料理の腕は良いか別として使っている食材が良いのと彼の人柄で後々、お店は繁盛する事となる。



だけど、開店当初はスタートダッシュが重要だったので私は沢山のお客様に営業した。


美咲ちゃんも彼女の指名に呼び掛けてくれたおかげで4階はお客様で溢れ返っていた。


キャッシャーの仕事をしていたとは言え、私は手塚さんに会計をバトンタッチし4階へ。


正直、この日はキャバクラと4階にあるダイニングバーを非常階段で何往復したか覚えていない。


それだけ忙しかったのだ。


途中、あまりにも急ぎ過ぎて足をって、引きずりながらお客さんに挨拶したのは鮮明に覚えているけど。



その時ー。


2階のピアニッシモでは、瑠璃るりさんの神がかった営業によって瑠璃さんのお客さんでお店はパンク状態だった。

経営者・国家公務員・職人・ニートに至るまで様々なお客さんが瑠璃さんことヴィーナス移籍初日に駆けつけていた。


瑠璃さんは私が現役時代、共にナンバー1を競い合っていた。


私の一つ下でサーフィンが趣味だけあって日焼けした肌。

クールな顔立ちからクールビューティー系のお姉さんだ。


ただし、酔うと客席だろうが平気で客のひざを枕にして寝てしまう強者。


現役時代も彼女の営業の凄まじさを尊敬していたが、改めて私はヴィーナスとたたえられている瑠璃さんの実力を目の当たりにしていた。


今、振り返ってみるとお店のスタートダッシュとしては良いすべり出しだったと思う。



だけど、この時は問題が表面に出なかっただけだったのかもしれない。



伊能いのうぉ~!ヘルプばっかで疲れちゃうよぉ~」


問題児ゆいがぶりっこ口調で店長である伊能君に愚痴っていた。


確かに瑠璃さん、美咲ちゃんの御蔭でお客さんが殺到している分、指名を呼べない子はヘルプ回りになる。



それが、この世界では当たり前だった。


私はヘルプも大事な仕事だと思うし、ヘルプもちゃんとやる事でお客さんに評価される事もあるから…



ゆい…彼女がそんな事を言ってしまう事が正直、理解出来なかった。



「稼げない子は売れている子を妬んだり悪い子になる」


「だけど、彼女達だって元々は良い子だったんですよ」

私は久我さんの言葉を思い出していた。


だから、自分を指名していたお客さんを紹介し、指名で入って貰う様にお願いした。


稼がせてあげれば、文句も出ないだろうし女の子が快適に仕事を出来るのかもしれないと思っていた。


だけど、現実はそんなに甘くはなかった。



実際、私の主要なお客さんはキャスト時代、良くペアを組んでいた美咲ちゃんの事を知っていた事から美咲ちゃんを指名で入る事が多かった。


それ以上に美咲ちゃんもメールなど、こまめにお客さんと連絡を取っていたのもあるのかもしれない。

そう言う努力をしていたからこそ、指名を貰えていたのもあるだろう。


だけど、それを快く思わない女の子もいた。


贔屓ひいきだと………



何にしても夜の世界は格差が生まれやすいもの。


売れている子は売れているなりの理由がある。


枕営業で体を張っている子もいれば…


自分の時間を犠牲にして長時間、お客さんの電話に付き合う子…


贈り物などの気配りを頑張る子…


整形して見た目を磨く子…


何かを犠牲にして、どの形であれ努力しているからこそ、成果が上げられるのだと思う。


けれど、周りのサポートによって、やる気が出て台頭して来る女の子もいるのも事実だ。


だからこそ、私は出来る限り公平に指名を振って来ていたつもりだったが、それでも皆が皆、それで満足している訳ではなかった。



ゆいもその一人であった。


ゆい…彼女に私は後々、大いに悩まされる事になる。



第三章:暗雲



第一節:災厄の始まり


昨年、良いスタートを切ったが、この年はそうはいかなかった。


年明け早々、一人のボーイが飛んだ事から、この年は多く問題が上がる年だった。


私にとって災厄の日々の始まり。



2月ー。

その日は営業前から慌ただしい日だった。


「何かあったんですか??」


将利まさとしが飛んだ」

手塚さんは私に言うと1階のお店に入って行った。


(とうとう…飛んだんだ)


将利が秋山に日常的に暴力を振るわれていた事は女の子達も知っていた。


1年前―。


杏樹あんじゅちゃんが1階で働いていた時、彼女は将利に警察に行けと言っていた。


だけど、将利は秋山に何をされるか分からなかった為に我慢していた。


まさに恐怖政治。


パワハラと言っても良かった。


店長の秋山はお客様の目があるから顔は殴らなかった。


だけど、将利の体にはいたる所にアザがあった。



ある日ー。

いつもの様に私達、経営陣は営業終了後にお店で話していた。

その時に久我さんが溜息ためいき交じりに愚痴りだした。


杏樹ちゃんが1階の女の子達と将利君で秋山の悪口大会と称して仕事終わりに飲みに出ていたからだ。


「杏樹も余計な事ばっかしやがって」


「あーやって、ここら辺で飲んで秋山の悪口を言うじゃん?それが回り回って秋山が聞いたら気分悪くなるのに」


「あいつはいつも余計な事ばっかするからな~デブのくせに」と続いて瀬名君も言い出した。



この頃の私は出来る限り管理側の目線で物事を見る様にしていた。


だから、瀬名君達が昔、女の子同士で飲みに行くのを快く思っていなかった事や秋山が女の子達に嫌われてまで何を優先しようとしていた事が何となく分かって来ていた。


だけど、元キャストだった事もあって女の子達の気持ちが分かる部分もあった。

それもあって経営側と女の子側で見方が違う事に戸惑いやジレンマも感じながら仕事をしていた。



だけど…暴力はどうしても認められなかった。


秋山だって…悪い奴じゃないのに何で、そんな事をするのだろう?


私も短気な方だけど、上の人間は手を挙げたらダメだって思っていた。


けれど、水商売って…そういう業界なのかな?とも思っていた。


実際、この頃は何が常識で何が正しいのか、私は友達に相談していた。


社長である以上、女の子達には言えない事も多く、利害関係の無い友人に相談するのが一番、会社に影響がないと考えたからだ。



友人はこう言った。


「暴力はいけないけど、業界によるのかも?多分、水商売は職人気質が強いから暴力とかあるのだと思う」



それでも、私は久我さんのお店を入れてグループ全体で自分の理想としている組織じゃない事に頭を抱えてしまった。


理想論かもしれないけれど、誰かのせいだけにするのではなくて誰かが失敗したら、その問題解決に努め、システムの改善を行うのが上の役割なんじゃないかって思っていた。


だけど、それは理想であって現実は私の思う様にはいかなかった。


次の日、人事異動があって、私のお店でバイトしていた男の子が1階に異動となった。


私はお客さんの予定が入っていた事からお店の会計業務を手塚さんが見る事となった。



手塚さんが会計に入ってから3日後。


営業終了後に4階に上がって来るなり、開口一番に手塚さんは私と瀬名君にこう言った。


「明日から会計、交代制な!!」


どうやら、イケメンである手塚さんは女の子から人気が高い事から会計にいると、ゆいさんや杏樹ちゃんが常に裏に居座る様になったらしい。


手塚さんは彼女達に色々と店長の文句やら愚痴を聞かされ続けて、グッタリしている模様。


「モテる男の人は大変ですねー」と私が笑いながら言うと…


「本当にキツイ。あの狭い場所に、杏樹やゆいに張り付かれて…はぁ~」


「本当にホラーだもんな。杏樹なんか、また太ってマツコ・デラックス~!!杏樹・デラックス!!ギャハハ!!」


「瀬名君、言い過ぎだよ」

何にしても見た目の事で悪口は好きじゃない私は瀬名君を一言、注意した。



瀬名君は元ホストで容姿端麗である事から、他人の容姿の事をバカにする傾向があった。


それはお客さんから女の子まで多岐に渡っていた。


また、ゆい達へのストレスが溜まっていたのか手塚さんの愚痴は止まらない。


「ゆいなんか…しかも、俺の前で着替えたりするから…はぁ~」


「俺だったら目が潰れるな」と瀬名君は手塚さんに向かって他人事の様にゲラゲラ笑っている。


「ゆいとかセルライトがあるのにTバック穿いてて汚ねぇーし!!」


「よく、あんなケツでよく人様の目の前で着替えられるよな………」

そんな手塚さんと瀬名君のやり取りを見ていた久我さんが口を開いた。


「女の子募集の広告を打って。もし、いい子が現れたら、ゆいや杏樹は食べ飲み専」



(えっ…??)


「いっぱい食べさせて太らせて、太った結果、クビで良いんじゃない?」


私は久我さんからその話を聞いた時、ぞっとした。



確かに水商売は成果主義だし、スタイルなど自己管理能力が求められるけど…家畜扱いって。


「女の子募集の広告を打って。もし、いい子が現れたら、ゆいや杏樹は食べ飲み専」


その言葉が私に警鐘を鳴らした。



今思うと、あくまで久我さんにとって女の子は駒の一つでしかなかったのかもしれない。


会議が終わり解散した後、私はタクシーで家に着いた。



家では父親が仕事に行く前だった為、朝食を用意していた。


「お父さん…売上がない女の子は食べさせまくって家畜にしてお払い箱って、どうなんだろう」


気がついたら、私は父親にお店の女の子をどうやって稼がせられる様にしたらいいか話していた。



父親はサラリーマンだったしお酒が飲めない事から夜の世界とは無縁の人だったが…


私は話す事で解決の糸口が見えて来る事もあると思い、父親が会社に出るまで、ひたすら話し続けた。



その時、私は自分がキャストでは無い事に安心しつつ、久我さんの裏の一面を見た気がした。



だけど、それは…まだまだ序の口だったのかもしれない。



第二節:事故


毎年、春先近くなると私は急性胃腸炎になる。


多分、年末の忙しさからストレスが蓄積された結果、ほっとした時に一気に病気を発症するのだろう。


この時もそうだった。


急性胃腸炎になった為、吐き気、熱、寒気など、ありとあらゆる最悪な症状を引き起こしていた。


結果、会社は休む事に。


その間に事件が起きていた事など私は知らなかった。



一週間後、お店に行くと…


莉愛りあが送りの車で事故に遭ったから」と久我さんから報告を受けた。



社長なのに、そんな話も知らなかった事も腑に落ちなかったが、それよりも体調を気遣って、久我さんや手塚さんは言わなかったのかとも思った。


今思うと、楽天的と言うか…


どれだけポジティブな奴なんだって飛び蹴りを自分に入れたくなる。


彼らからしたら私は社長として重要視されていた訳ではなかったので話を耳に入れておく必要がなかったのだと思う。



この頃からだろうか…。


久我さんが「女は口うるさくない方がいい」と会話にさり気なく入れて来る所があった。


それもあって、知らない内に私はマインドコントロールにかかっていたのかもしれない。


段々と自分の意見を言わなくなっていった。



彼らからしたら女である私はそんなに経営に口を出して欲しくなかったのかもしれない。


社長の椅子にちょこんと座ってお客に営業して売上さえ上げていっぱい働いてくれれば良かったのかもしれない。


今振り返ると、気遣いから教えなかったのか…莉愛が事故に遭った事すら教えてくれなかった。



正直、本当に分からない。


何にしても、この送りの事故を発端に新しい毒の芽がすくすく育っていく事となった。



送りで事故に遭った莉愛は元々、ボーイと付き合っていた。


けれど、そのボーイが久我さんにクビにされた事で事態は急変する。



「美咲、ヴィーナスの客しか来ないって、どういう事だよ」

私がお店の新規フリーの入客数を久我さん達に伝えると呆れながら答えた。


年明け、営業を再開したものの数字がかんばしくなかった。


本来なら12月にお客さんがいっぱい入る時期に指名客を捕まえて年明けは12月のお客が流れて来るものだが、その様な兆しが全く見られなかった。



莉愛の彼氏が辞めて数日ー。


その日、私は2階でキャッシャーの仕事をしていると…


指名客が帰って裏に煙草たばこを吸いに来た瑠璃さんが私に話かけて来た。


「凛華さん…今後、莉愛さんがゆいさんに色々やられる可能性ありますよ」



(周りも、けっこう気付いていたんだ………)


瑠璃さんも内心、ゆいのイジメに関して気に入らない様子。


だけど、ナンバー1である立場と周りと上手くやろうとする性格からか、あからさまに、ゆいへの苦言は言わなかった。


多分、瑠璃さん自身が被害を受けてないからとも言えるが…


それでも、私は瑠璃さんの忠告は受け止め、窓の外を見ながら、ぼんやりと今後の事を考えた。



私は不満があると直ぐにわめくゆいと比べて、明らかに言わないタイプである莉愛の事が心配だった。


莉愛自身が嫌がらせされている事実を持って来てくれれば対処のしようがあるのだが…


だけど、彼女はそれをしないだろう。


実際に私はキャスト時代も含めて、莉愛が切れたり喚いたり誰かの文句を言っている所を見た事がなかった。


人が良いと言うか…癒し系と言うか…


そんな彼女だから色々な女の子から「莉愛たん」と可愛がられていたのだろう。


ただ、一人…ゆいを除いて。


莉愛は、ゆいのイジメのターゲットであった。


ゆいからしたら、最初はボーイが自分の彼女である莉愛を贔屓ひいきしていたのが気に入らなかったのかもしれない。


だから、ゆいは客席で足を引っ張るやり方をしたのだろう。


客席の会話は目に届かない場所だから。


他の女の子の話から推測すると、ゆいは古典的な物を隠したりドレスを破くなどのイジメはしなかった。


多分、証拠が残るやり方はしないタイプなんだろう。


ゆいはナンバー1である瑠璃さん、ナンバー2である美咲ちゃんにはそんな事はしなかった。


圧倒的に差がある上位ランカーには手を出さない。


それだけ、彼女は狡猾こうかつだったのだろう。


むしろ手を出した場合、自分が干されるのを本能的に分かっていたのかもしれない。


実際に私もキャスト時代に彼女から嫌がらせをされた事は無かった。



私はこの仕事をビジネスとして見ていた為、男性スタッフと恋愛関係になった事は一度も無かった。


だけど…美咲ちゃん、莉愛の例を見ると…


経営側になって分かったのだが、この業界はキャストとボーイが出来ている率が高いと思う。


そして、ボーイは自分の女を稼がせる為に上客に女を付けたり、有利になる様にする。


実際に秋山は前のお店の時、美咲ちゃんが入店したばかりの頃は常連や延長率が良いお客さんに優先的に付けていた。


それが現彼女に乗り換えてから、尚更、顕著に現れていた。



正直、ボーイの給料は女の子に比べて安い。


だからこそ、彼らは売れている女に群がるか、自分の女を売れる様にするのだ。


全ては自分のポケットにお金が入る様に。


だから、付け回しなどで差が出る事が起きるのは必然だったのかもしれない。



この業界の女の子の出逢いもまた、客orボーイ。


莉愛は、ゆいから執拗にイジメに遭っていた事から彼氏を心の支えとしていたんだと思う。


そんな時に事故が起き、莉愛からしたらフェードアウトするのに絶好の機会だったのだろう。



私は頭を痛めた。


莉愛…彼女はお店のナンバー3だった。


本音としては、ゆいなど問題児が辞めてくれた方がよっぽど良かった。




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