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サツダイの授業紹介 #4

札幌大学の「Intercultural Study(担当教員:小笠原はるの教授)」では、教員と学生の橋渡し役として「学生ファシリテーター」が授業運営をサポートします。学生ファシリテーターは、学生の相談役となるだけでなく、時には先生役となり教壇に立つことも。責任を伴う役割にも関わらず、何度も継続して参加したいと手を上げる学生が多いという「学生ファシリテーター」。

▲写真左から山本さん、加藤さん、浦崎さん

その魅力を探るべく、2022年度秋学期に学生ファシリテーターを務めた山本瑞輝さん(リベラルアーツ専攻4年)、加藤紫さん(英語専攻4年)、浦崎瑚乃美さん(英語専攻4年)の3名にお話を伺いました。

「Intercultural Study」、和訳すると異文化間研究となりますが

シラバスによると、この科目のテーマは「社会のシステムや価値観が大きく変化しつつある今、異なる文化を理解するための手法とコミュニケーションの技法について考察する。さまざまな文化の価値観や偏見・差別の問題を知り、探求することで、地域共創学群が目指す共生社会に向けて、言語、文化、思考の垣根を越えて新しい視点を生み出せるようになる。」とあります。実際にはどのようなことを学ぶ時間なのでしょうか?

▲加藤紫さん(英語専攻4年)

加藤:ざっくりした表現になりますが「異文化を理解するための授業」です。もう少し説明を加えると、例えば韓国の徴兵制度やLGBTQなど、ニュースで見聞きするような事柄を取り上げ、自分ごととして考えます。

山本:授業では、差別問題や戦争など、目を背けたくなるような映像が流れることもあります。そこには意図があり「それを知った上であなたはどう考えるの?」ということを直球で投げかけられます。各自が「問い」を持ち、自分なりの答えを見つけることがこの授業の目的の一つです。

浦崎:「Intercultural Study」は国際的な視点になりますが、その根本にある考え方は地域でも応用できます。サツダイは「地域共創」を学群の理念として掲げているので、そういう意味でもすごく大事な授業だと思います。
 
私には韓国人の仲の良い友達がいるのですが、自分はどう頑張っても韓国人留学生という立場にはなれません。その人と仲良くなりたいと思った時「どうすればその人の考え方に近づけるか」と考えます。韓国のことを勉強したり、少し恥ずかしいですが韓国語で話しかけてみたり。相手も同じで、日本の文化を調べたり日本語を勉強したりしてくれます。
 
お互いに近づいていこうという部分、そこを学ぶのがこの授業なのかなとも思います。それが新しい価値観を身につけることにつながります。

早速ですが「学生ファシリテーター」について教えてください

具体的にはどんな存在で、どんな役割があるのでしょうか?

▲浦崎瑚乃美さん(英語専攻4年)

浦崎:私たち学生にとっての教授という存在は、目標にするには高すぎるし遠すぎます。その距離感を埋めてくれるのが「学生ファシリテーター」の存在です。「自分たちも目指せそう」と思える身近な目標というのが、春学期授業を受けていた際の「学生ファシリテーター」の印象です。
 
まずは授業を担当するという役割があります。秋学期では学生ファシリテーターは9人いたので、みんなそれぞれ一コマずつ担当しました。

山本:先生の助手として、授業内で困っている学生を助けるという役割もあります。また、毎回の授業の最後に学生に授業の感想を書いてもらうのですが、その用紙を回収し、全てに目を通した上で、「いいな」と思ったコメントを何件か切り取って貼り合わせ、次回の授業の冒頭10分くらいを使ってフィードバックするという仕事もあります。これが一番大きな仕事です。学生のコメントに対して私たちもコメントも付け加えたりして。それによって授業への意識を高めてくれる学生もいます。
 
加藤:その用紙(リアクションペーパーと言います)を書く時に「わからないところはない?」と学生に聞いたり。時間に余裕がある回では、リアクションペーパーを書き終えた学生に「マイクを渡すから良かったら発表してくれない?」とお願いしたり。

「リアクションペーパー」が肝なのですね

加藤:基本的には授業の感想を書いてもらいます。A4用紙に設問が3~4問用意されているので、その問いに対してたくさん書いてもいいし1行でもいいし。設問は、その授業を担当するファシリテーターが作り、最終的に小笠原先生の了承を得てリアクションペーパーの形にします。
 
山本:人によっては裏面まで書いてくれる学生もいて、「切り取れないよー!」となります(笑)。大変ですが醍醐味でもあります。最後の回では「この授業どうでしたか?」という質問をしましたが「何回か(リアクションペーパーに)取り上げてもらえてすごく嬉しかった」と書いてくれる人もいました。しかし、何回も同じく取り上げる人がいる一方で、そうではない人もいます。「同じ人ばかり取り上げるのはどうなのか」という声も聞きます。人を選んでいるわけではなく、そこに書いてある意見を取り上げているのでそうなってしまいます。先生からも「それは(良いコメントなら)仕方がないよね」とお話がありました。取り上げられるのがある種のステータスのようにもなっていて、期待されている分、私たちも慎重に選んでいます。
 
浦崎:「選ばさる」というか。まず字が読みやすく、尚且つ内容もしっかりしているという基準で私は選んでいました。「多様性を謳う授業なのに毎回同じ人の意見じゃないか」という指摘も確かにありました。ただ、(山本さんと重なりますが)私たちは同じ「人」を選んでいたわけではなく、「内容」を読んで選んでいました。授業の中でもう少し丁寧に多様性について学ぶ時間が必要だったかもしれません。

そもそも「学生ファシリテーター」になろうと思ったきっかけは?

▲山本瑞輝さん(リベラルアーツ専攻4年)

山本:私はリベラルアーツ専攻ということもあり、小笠原先生が担当される他の講義でも異文化間研究をテーマに学ぶ機会が多くありました。そういった経験から、先生に「やってみない?」と声をかけていただきました。「学生ファシリテーター」という形では今回が初と聞いていますが、小笠原先生の講義ではこれまでも学生が助手のような立場で授業運営に携わることは多かったようです。私は、春学期にも学生ファシリテーターとして授業に参加していたので、この秋学期で2回目です。

加藤:春学期に「Intercultural Study」を履修したのは必修科目だったからです。ですが、授業の名前を見た時から面白そうだなと思っていました。私たち英語専攻は、発音や文法、TOEICなどの実用的な科目が多いので、「文化を学ぶ」というところに魅力を感じました。実際授業を受けてみて本当に楽しかったし、知らなかった知識をたくさん学べたので良かったです。

春学期に、先生から「学生の視点で発表しないか」とプリントが配られました。私は地方出身ということもあり、大学ではとにかく輪を広げ、色々なことにチャレンジしようと決めていたので、やってみたいと思いました。これだけの大人数(90人くらい)を前にプレゼンテーションをする機会はなかなかありません。春学期に初めてプレゼンテーションをした時はとても緊張しましたが、周りのサポートのおかげでやり遂げることができました。事前に小笠原先生とやり取りしながら授業の進め方を考えるのですが、そのやり取りも楽しいし、スライドを作るのも楽しいし、全部が楽しかったです。
 
浦崎:私は教職課程という教員を目指すコースを取っていて、これから教育実習も控えています。そのような中で、大学にいながら授業を作り上げる経験ができるという点も魅力的でした。教職課程ではこの1年、常に「教師の目線で考えよう」と言われ続けていました。「受け身の授業より能動的にやった方が良い」ということも学んでいたので、チャンスがあるならやってみようと思いました。

一番印象的だった授業を教えてください

山本:私のアルバイト先の同期で、LGBTQに該当するXジェンダーという性別を持った方がいて、その方をゲストとして招いてLGBTQについての授業をしたことがありました。授業内容も素晴らしかったのですが、授業の後、リアクションペーパーに「私も実は当事者です」とカミングアウトしてくれた学生が何十名もいて驚きました。自分のことをオープンにするというのはすごく難しいことですよね。そのことに感動しましたし、信頼関係が築けたのかなと感じました。
 
授業は、まずLGBTQの歴史などについて紹介した後、当事者として普段考えていることなどを話してもらいました。私は授業の企画と構成を行い、ゲストを呼びました。実際にパワーポイントで資料を作って授業を進めたのは加藤さんです。LGBTQのドキュメンタリー映画を見てもらったり、事前に学生から集めた質問(例えば「化粧品は何を使っているのか」など)に答えてもらったりしました。

マイノリティーかどうかに関わらず「自分らしく生きられない」と感じる人はいますよね。そういう人に向けて「自分らしく生きて良いんだよ、もうちょっと楽しもうよ」というメッセージを発信してもらいました。

加藤:私もLGBTQの回です。私はLGBTQのことを全然知らなくて、調べるところから始めました。私と同じ状況の人が多いだろうと思ったので、分かりやすいように伝えるにはどう授業を展開すれば良いかと悩みました。
 
春学期と秋学期の両方でプレゼンテーションを担当しましたが、秋学期は企画段階からほぼ全部自分で担当したので、より思い入れがありました。また、春は肯定的なコメントが多かったのに対し、秋学期はネガティブなコメントも結構多く、反応や意見の違いというものを強烈に感じたという点で大変印象に残っています。

浦崎:私も春学期のLGBTQの授業が衝撃的でした。授業としても楽しいし、伝えたいことが全員にしっかり伝わっていたし。目指すべき授業で、私は「神」授業と呼んでいます(笑)。ゲストスピーカーの方が言っていた「私は私」というメッセージがとても印象的で、「当事者かそうではないか」は関係なく幸せになれる考え方だなと思いました。
 
自分が担当した授業の中では、「ロシア・ウクライナ」を取り上げた回です。遠い異国の話ではなく、身近に感じるために何ができるかということを、ボランティア活動を絡めて発表しました。「そういう関わり方ができることを知らなかったからやってみたい」「募金とかでも良いよね」「ニュースを見るだけでも身近になるよね」などの肯定的なコメントをもらえた一方で、「そんなことをしても何かが変わるわけじゃない」という否定的なコメントもあり。結果だけでなく、その過程を結び付けて考えてもらいたいと感じました。
 
授業では、小笠原先生が見つけてきてくれた難民支援の動画(難民の当事者が、別の難民の人々を応援するために作ったプロモーション映像のような作品)も流しました。「自分なんて何もできない」と思いがちですが、その動画を見ることによって、「そんなことはない。誰だって行動できるよ」ということが伝わったかなと感じました。

最後に

「Intercultural Study」の授業で貢献できたことや学んだことは?

山本:小笠原先生とは異なる考え方を持つ人が助手となり、フィードバックを行うことによって、世の中には多様な考え方があるのだという実感を持って学んでもらいたいというのが、小笠原先生が学生ファシリテーターを設けた目的だと私は理解しています。

授業に多様性をもたらすという点で役に立てたと思いたいです。私なりの価値観や考えをこの授業で主張することはできました。これからファシリテーターになる人たちには、自分の考えを主張することが大切だと伝えたいです。ありのままの自分の考えを話すということが大切です。

加藤:「世界にこんな習慣があったのか」「世界ではこんなことが起こっているのか」というような知識が増えたのはもちろんですが、それに対して本当に様々な見方や考え方を知ることができました。「こんなに意見が違ってどうしよう」と思いつつも面白いです。

またファシリテーターと言っても授業内容も進め方も一人ひとり違うので、他の方の発表を見て学ぶこともありました。

(ファシリテーターを経験した後)アルバイト先の店長に「人の動きを見るようになったね」と言われたのは嬉しかったです。実はファシリテーターをやっていた時期は、留学生歓迎会の運営や就職活動なども重なり、忙しくてアルバイトを半年間休んでいたのです。その後、落ち着いたので復帰させてもらった時に言われました。自分ではとくに行動を変えたという意識はなかったのですが、提案するようになったとも言われました。「その間にいろんなものを吸収したんだね」って。

浦崎:学生の書いたリアクションペーパーを見せてもらい、自分以外の考え方、90人分の多様な意見を一度に知ることができて、自分自身も進化しました!学生ファシリテーターをやっていなければ分からなかったことなので、この活動に参加して本当に良かったです。

授業をひとことで表すと?

山本:まさに「Rainbow(虹)」!虹の中には七色あり、七色それぞれに特徴があります。この授業でもファシリテーターや学生一人ひとりの特徴が出ていました。偏見を持たずに一人の人間をどう捉えるかということを、ファシリテーターの活動を通して学ぶことができました。そして広い視野を持てるようになったと感じています。

加藤:「視野を広げる」でしょうか。小笠原先生の授業は、以前からみんなが意見を言ってみんなで授業を作っていくというスタイルだと聞いています。この授業は約90人いるので全員が意見を言うということは難しいですが、自分たちファシリテーターが関わることによって(先生に対してではなくても)みんなが自分の意見を言えるようになれば良いなと思っています。

浦崎:「共創」。インターナショナルな視点なので、「地域共創」とは違う部分もありますが、「共に創り上げる」ための力を身につけるには、とてもためになる授業です。誰かと一緒に何かを創り上げるという経験は、社会人になっても必要ですよね。サツダイ生は全員受けたら良いのにと感じています!

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