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10001個目のシュークリーム


月曜の朝



どれほど憂鬱な人がいるのだろうか。毎日同じ曲で自分のテンションを上げながらそう思う。
これだけ人が多くて多様化最先端の東京ですら、
自分の出勤コースには
顔馴染みが多くいる。

俺が地元の高校に通ってる時、毎朝乗るバスの面子がほぼ同じだったことを思い出す。

周りを見ると、
笑顔な人なんて朝帰りの若者以外いないわけだが、みんな月曜はやっぱり嫌なもんなのかな?
月曜の朝に駅でテンション高めで調子どうですかー!?
てインタビューするyoutuberいたらおもろい気がする。

そんなくだらんことを思いながら、仕事めんどくさい気持ちと、
そういや今月祝日ねーじゃんっていうカスみたいな事実を抱えながら
俺は会社へと向かった。

ガチャリ

「おはようございます。」

「おう、
お前元気ないなぁ。
出だしが肝心なんだよ。
月曜の朝だぞ、
もっとちゃんと言えよ。」

「すいません。」

このやりとりも一体どれほどしただろうか。
まだ会社に入りたての頃、
俺はあいさつを注意され次の日からは気をつけようと思い、
はっきり大きな声であいさつしたら
その元気があればと、その日の仕事を増やされた。
何事もぼちぼちが肝心なんだな、と学び
今ではそれなりのあいさつをしている。

俺は入社した当時は自分で頑張っていると思っていた。
でも頑張りなんて人それぞれだし、
もし俺が本当に頑張っていたら、結果が出てる筈。
今の俺は結果なんて何も出しちゃいない。

結局どうしようが、
同じなんだよ。

俺は今では罵倒さえされなきゃいい、
と思うようになった。
仕事ができたらできたで無責任に期待されるし、
でかいミスさえしなきゃ十分なんだよ。

あたりさわりなく生きることが精一杯、
いや、立派

生きてるだけで丸儲け。
それでいいだろ、
幸せなんて結局本人がどこに価値を持ってくかなんだよ。


それでも、俺は自分の人生に違和感を感じていた。

人生って別におもしろくねーなぁ、、


「なぁ、人生っておもしろくねーよな?」

「どうっすかね?
僕は割と飲みに行くし、それなりには楽しめてますよ?」

「まじかー、お前まじリア充じゃん。
まー、お前パリピだもんな?」

「パリピではないっすよー。
まぁ陽キャ寄りにはなりますかね。」

「うざっ。だったら陰キャの俺より結果出せんだろっ笑」

「会社では僕も陰キャなんで。笑」



俺は親父からの影響が大きい。

親父は別に今思うと肩書きがすごいわけではなかったが、
子供のころに見た父は立派な大人だった。

朝はきちっと起きるし、髪型はビチっとキメるし、弁当箱も自分で洗うし、
行ってきます、ただいまもちゃんと言う。

子供の頃の俺は全部がだらしなかった。
別に親父みたいになりたいとは思わなかったが、
子供と大人はこんなにも違いがあるのか。。
と、大人になりたくないなぁと呆然と思っていた。

ただ、だからこそ大人の言葉には俺には重みがあった。

「続けることが大事なんだよ」

サラッと親父が言った一言が俺の中でずっと残った。親父は生涯一つの会社でずっと働いていた。

今では転職なんて当たり前だろうが、
俺はいくら今の会社が嫌だろうが転職する方がもったいないという意識がなぜか強い。

それはやっぱり続けることが大事だと、自分は思い続けているのだろう。

そして、その言葉には小さな確信があった。

俺が学生の頃、バイト先で新人が入ってきたが、全く使えず、まじ辞めた方がいいよとみんなに言われていた。

しかし、そいつもなんだかんだ3年たつと職場で欠かせない存在になっていた。

そして、俺はなんだかんだこの会社に6年いる。
続けていると言っても、
自分を騙し騙し続けているわけで、
そんな奴に結果なんてもちろんついてこないとは思う。


俺は単純に器用に続けることができる大人になっていた。


そんなある日、俺は今までにない契約を取ることができたのだ。


俺は、単純に仕事に夢中になった。



それは俺自身に今までにない
自信と喜びを与えてると同時に
周りの反応があからさまに変わったことが最も驚きだった。


後から気づいたが、俺はぼちぼちと仕事していた時は、ぼちぼちと周りが見えていたのだ。


いつの間にか唯一気さくに話せていた後輩も
失っていた。


「お前な、やりすぎなんだよ。自分のことしか見えてない」





俺は完全に思考がバグった。



気づいた時には会社から近くの公園にいた。

俺は自社で生産してるシュークリームが入った営業用のクーラーボックスを抱えていた。


なんだよ、、この、クソ、シュークリームがッ!!!!


俺は全力でそれをブチまけようとしたが、
側で遊んでる小学生数人が目に入った。

「何が入ってるのー?」

「、、、
シュークリーム、別に有名じゃないやつ、」


「おいしくないのー?」


「どうなんだろ、
何個かあるからあげるよ」


・・・


「え。、おいしーじゃん!
どこで売ってるやつ??」

「そんなおいしーかな??
おいしいって言ってくれてありがとね、」


気づくと俺は入社8年目で自社のシュークリームを初めて味わいながら食べていた。





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