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いまどき「本」はオワコン……じゃない!? ——『本を出したい』刊行記念バディ対談
3月22日、「著者になること」についてとことん考え、著者とブックライターの経験と知見をすべて注ぎ込んだ本、『本を出したい』が発売となりました。なぜ本を出すための本を書いたのか、どうすれば本を出せるのか、そもそも本とはなんなのか。前著『書く仕事がしたい』に引き続き、担当編集の田中里枝さん(通称:りり子さん)と著者である私、佐藤友美がいろんなトピックでおしゃべりします。聴き手は、ブックライターの友人、田中裕子さんです。
著者になろうぜ、という本ではなくて。
——『本を出したい』、今までにない本でした。著者になるまでのロードマップが子細に描かれる中、出版にまつわるエモーショナルなエピソードが挟み込まれたかと思えば、「なぜ本を出すのか」「本とは何か」といった問いに対するさとゆみさんの考えが語られ……。
さとゆみ:ありがとうございます。著者としてライターとして、見たこと、聞いたこと、考えたこと、てんこ盛りしました。
——まずタイトルが印象的ですよね。本を「書きたい」ではないんだな、と。
さとゆみ:この本を書いた動機のひとつに、著者に取材して代わりに本を執筆する「ブックライター」の存在を知ってほしい、という思いもあったんです。まだまだ一般には知られていない仕事だから、「自分で書かなくていいんですよ」「ブックライターが入るとこんなにいいことがありますよ」と伝えたくて。
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さとゆみ:だから今回、過去のベストセラーにどれくらいブックライターが携わっているか分析してみたんだけども、その存在の大きさを再認識しました。著者になりたいからといって、文章力を磨く必要はないんですよね。
りり子:優れたブックライターさんは思考を深める問いを投げかけてくれるし、著者の考えを見事に言語化してくれる。私自身はあんまりライターさんと仕事をしないのですが、知り合いの編集者に聞いても「ライターが入る割合は7割から8割くらい」と答える人が多かったですね。
——もうひとつ意外かなと思うのが、本のつくり方。本って著者が培ってきたスキルや思考の蓄積、つまり「すでにある答え」をまとめるイメージが強いと思うんです。でもこの『本を出したい』では、「書く前には知り得なかったことを、新たに考えること」が本づくりであると強調されています。
さとゆみ:もちろん、自分のスキルや思考を紹介しようとはするのだけれど、それを本にしようとする過程ではほんっとうにいろいろな問いが浮かんできます。「なぜ?」「本当に?」「言い換えると?」……自分で書きながら、もしくはライターや編集者と対話を重ねながら、解をさぐっていく。思考をうねらせて、いま現在の暫定解を残す。
本を出すことで思いもよらなかった結論にたどり着けるのが著者の醍醐味だし、本を読むことでその過程を共有できるのが、読者の醍醐味なんじゃないかなあ。
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——節タイトル(Think)が全部「?」、つまり問いのかたちで統一されているのはさとゆみさんの頭の中そのままなんですね。ちなみに、考えるのがいちばん楽しかったのはどこですか?
CHAPTER1 こんな私に本は出せるのか?
Think1 なぜ本を出したいのか
Think2 あの人はどうやって著者になったのか?
CHAPTER2 本を出せる人、出せない人
Think3本を出せるのはどんな人か?
Think4私が本を出すチャンスはどこにある?
CHAPTER3 本を出すには企画が10割
Think5企画書に必要な要素は何か?
Think6どうやって企画を立てるのか?
Think7企画はどこに持ち込めばよいのか?
CHAPTER4 本をつくるとき私が変わる
Think8書くとどうなるのか?
Think9本づくりは誰とする?
Think10本ができるまでの道のりは?
CHAPTER5 読まれる本にする工夫
Think11構成案の立て方は?
Think12「はじめに」はどう書くか?
Think13読ませるためのプロの工夫とは?
CHAPTER6 本を出した私のそれから
Think14本は誰が売るのか?
Think15本は人生を変えるか?
さとゆみ:(即答で)CHAPTER4。の、Think 8。「書くとどうなるのか?」の問いは、こういう解に辿り着くんだって、自分でもおどろきました。あとCHAPER6のThink15「本は人生を変えるか?」も。考えて考えて考えたすえの結論がふたつあって、その流れがあったからこそ、そのあとの「おわりに」につながったかな、と。本をつくる前には見えてなかった景色でした。本、書いてよかったー。
——著者になる人がみんなその境地に至れると素敵ですね。とはいえ、タイトルと相反してただ著者になることをすすめる本ではないのもおもしろいなと思いました。むしろ、安易な本づくりや「名刺代わりの一冊」に一石を投じていて……。
さとゆみ:あわよくば本を出したいと思っている人に、「ここまでやるんだよ」と伝える魂胆はありました。ここまで読者ファーストなんだ、ここまで考えるんだって。前作の『書く仕事がしたい』では「ライター最高! みんな、ライターになろうぜ!」って旗をぶんぶん振り回していたけれど、今回はそれとはちょっと違うテンションです。
半端な気持ちの人には、本気になってほしいし、そうでなければあきらめてほしい。ちゃんと手をかけられたいい本だけが出版される世の中になりますように、という願いを密かに込めました。
りり子:著者になる覚悟みたいなものを問うてるやんね。そもそも、「名刺代わりの本」って読者にバレるんですよ。はっきりと認識せずとも、本からにじみ出るムード、娑婆っ気みたいなもので避けられる。
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さとゆみ:もちろん、「有名になりたい」とか「夢の印税生活!」とか、いまギラギラした気持ちで「本を出したい」と思っている人を否定するつもりはないんです。はじめから純度100%で読者のためを考えるべし、なんて無理な話というのもわかっているので。
りり子:そうそう。本をつくる過程でそこのピュア度が上がっていったり、考える喜びを感じてもらえたりしたらいいなと思います。さとゆみ自身も、書くなかで「役に立ちたい」って徳が高まった感じやよね。
自分は著者に相応しいのかどうか問題
——本書はさとゆみさんの9冊目の自著となります。CHAPTER1と2では「あなたは本を出せる人間かどうか」についてたっぷり語られていましたが、確信を持つのがむずかしいところですよね。
さとゆみ:そうですね。だからまずは、自分の存在価値を洗い出すことが大切かな。自分はどんなことで役立ってきて、どんな本を出せば喜ばれるか。そうそう、最近、著者とは「行列のできる人」だと言語化できたんですけど。
——行列のできる人?
さとゆみ:大人気セミナー講師もそうだし、「あの人が新人研修すると離職率が下がる、毎年お願いしたい!」って思われるのもそう。なぜ求められるのか、自分の行列の本質を理解して言語化するのが、スタートラインになるのでは。
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さとゆみ:たとえば前作『書く仕事がしたい』の場合、佐藤友美という人間は、王道の文章術より「ライターとして食っていく方法」を書くほうが喜ばれるだろうな、と考えて企画を立てました。「私の講座の満足度が高いのはなぜだろう?」と考えたときに、文章力はいらないと豪語して、お金まわりや仕事の取り方を赤裸々に話すからだと気づいて。
りり子:今回の『本を出したい』も、著者として単著があって、ブックライターでもあるさとゆみは、この企画にめちゃ相応しい著者やなと思ってましたね。いろんな出版社や編集者と仕事をして、自分でも企画を持ち込みまくってる強みが生かせるなと。
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——たしかに、さまざまな事例や編集者さんの声、出版スクールの様子まで描けるのはさとゆみさんが著者だからこそですね。いま「行列」の話がありましたが、ほかに「著者性」なるものがあるとしたら何だと思いますか?
さとゆみ:強い言葉を持っていることです。本にも書きましたが、売れっ子著者さんは必ず強い言葉を持っています。同じセオリーでも、オリジナルの言葉で表現できると人の記憶に残りますもんね。
りり子:私は「なんかわからんけど人を惹きつける人」がええなと思う。強烈に嫌われてるでもいい。耳目を集める人は、著者の素質があります。
さとゆみ:ああ、ある編集者さんも、「ノウハウよりも、著者のキャラが大事」とおっしゃってました。あとは、人に火を点けられる人も強いと感じます。リアルで人を焚きつけられる人って、不思議と本でもそれができるから。
りり子:たしかに。スキルの再現性も大事やけど、せめて試してみようとモチベートされたらそれだけでもう、読書体験としてはじゅうぶんな価値があると思いますね。
無駄と行間が魅力の、本のこれから
——では、「自分は著者になれる!」と思えたとして……ちょっと現実的な話をすると、本の初版部数(発売時に刷られる冊数)は減少の一途を辿っているし、ベストセラーにならなければ大儲けできるわけではありませんよね。
さとゆみ:うん。本づくりは時間がかかるから、時給換算するとひどいもんです(笑)。
——そんな状況で、これから本はどんなポジションを取っていくと思いますか?
さとゆみ:ちょっと前に、有名メディアの編集長が「ウェブ、雑誌、本の中でいちばんのオワコンはウェブだ」っておっしゃってたんです。意外に思う人もいるかもしれないけど、私もそう思います。……いや、みんな薄々気づいてるんじゃないかな。
だって今、ひとつの記事を読むのに何回広告の×(バツ)をクリックしなきゃいけないのって話じゃないですか。こちとら句読点の位置まで考え抜いて流れを作っているのに、隙あらばおっぱい広告が出てくるし。
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——(笑)。読む気力も失せますよね。
さとゆみ:これは広告単価がうんと下がって、広告を増やさなきゃいけなくなったから起こっている現象ですけれど、いまのところ打ち手がないんですよね。ほとんどのウェブメディアは、広告主からお金をもらわないと成立しない構造だから。
りり子:その点、書籍はビジネスモデルがシンプルで、読者から直接お金をもらえます。だから部数が小さくなっていくとしても、読みたい人がいるかぎり成立はする。そもそも娯楽が多岐に渡る現代において、書籍ってもはやマスな存在じゃないんですよ。初版4000部とか5000部が当たり前で、めちゃニッチです。まあバルザックの小説ですら初版2000部程度のものもあったらしいから、そっちに回帰していくんちゃうかなという。
さとゆみ:『源氏物語』は初版1部ですもんね。でもそれが時空を超えてこんなことになってるわけで、おもしろいなあと思います。
——どれくらいの部数を狙うかは、著者や編集者によっても捉え方がずいぶん違いますよね。
さとゆみ:私は、ニッチな分野の最大パイを取りたい本に関わるのが好きです。ただ、メジャーなジャンル——たとえば「お金の本で30万部を狙いたい!」って人も当然いて、それはもう好みですよね。でも、自分が輝く企画の「サイズ感」はある気がするな。
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——「存在価値」に照らし合わせつつ、どんなサイズ感がフィットするか考える。
さとゆみ:ただ、どれだけ渾身の一冊をつくったとしても、結局のところ、本は読者のものだと思うんです。私、「さとゆみさんがこう書いてたところ、感動しました!」って言われて、「あれ、そうは書いてないけどな?」となることがしょっちゅうあるんですよ。でもそれはイヤなことじゃなくて、「あなたにはそう聞こえたんだね」と思うから、すごくうれしい。読み手が能動的に考えて、自分の言葉に翻訳する余白があるのは、本ならではですよね。
——ということは、『本を出したい』もウェブ連載にしていたら違う作品になっていた?
さとゆみ:それは、全然違ったと思う。
りり子:まるまる落とさんとあかん項目も出てくるでしょうね。連載は1回ずつ役に立たないとあかんから、思考の紆余曲折を盛り込みにくいし、結論を早急に出しやすい。本の中に執筆期間を繭にたとえた箇所があるんですけど、あれは本じゃないと成立しないです。
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さとゆみ:そう思う。「本の素晴らしさは1行で済む結論を伝えるために、わざわざものすごく長い迂回をすることだ」と言った著者さんがいたのですけれど、遠くに迂回しながら読者を連れていく本だと、連載はむずかしいかも。1本ずつ切り出せないもん。迂回が見事な本、私、大好きです。
りり子:無駄と行間こそ本の魅力ですね。
出し惜しみせず出し切ったら、次につながる
——今日の掛けあいを見てもさとゆみさんとりり子さんは「バディ」という感じで、うらやましさすら感じます。
さとゆみ:あはは、そうですか? でも、たしかにこの本には、「著者になりたい人がみんな、真剣に本づくりしてくれる編集者と出会えますように」という思いと、ヤバい編集者と仕事をしちゃった人に対する「それはスタンダードじゃないよ」って気持ちとを込めてます。
りり子:発行点数ノルマに追われるあまり、編集者からほぼ手をかけられない著者さんがいるのはなんとなく知ってたけれど、企画が進んでから「著者が買い取りしないと出版できない」と言われることもあるそうで。それ商業出版ちゃうやん、という。
さとゆみ:本をつくっていて「これは明らかにおかしい」と思ったら、潔く撤退していいと思う。出版業界って本が出る直前まで契約書を結ばない慣習があって、それは悪い面もあるけど、「いつでも降りられる」ことでもあるんですよね。そして、原稿をどうするかの最終決定権は著者にある。これは知っておいてほしいなと思います。
りり子:おかしな人間にあたったら、迷わず逃げたほうがいいです。そう思うといい本って、著者と編集者の相性含め奇跡でできてますね。
さとゆみ:りり子さんとは、原稿を介して「今の時代、なんでわざわざ『本』なんだろうね」とか「でも、本にしかできないことあるよね……」っておしゃべりするのがすっごく楽しかったです。そこから、ぐんと思考が深まったり。
りり子:著者と編集者の本づくりって旅行に似てるなと思うんですよ。めっちゃ楽しい瞬間もふたりとも疲れてダレてる時間も、すべてを一緒に体験していく。
さとゆみ:お夕飯食べ過ぎて、次の日の朝、私はパス、みたいなこともあるもんね。
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りり子:一冊ずっと隙なくピークが詰めこまれてると、一緒に旅する読者も疲れるねんな。いい意味でダレる場所があったほうがいい。そのいろんな瞬間をパッケージして、それが本の抑揚にすらなる。……って、こういうふうに話ができるチームだと、本づくりはより楽しいですね。
——それもある種の「無駄」ですもんね。本をつくるって独特の営みだなと思います。
りり子:時代に逆行してて、ぜいたくですよね。
さとゆみ:これから本を出す人に伝えたいのは、とことん考えて頭の中を出し切ったほうがいいということ。出し惜しみしたら、絶対ダメ。1冊目が売れないと2冊目のチャンスもないし。すっからかんになると、また新しいものが入ってくると思うんですよね。
本って、これまでの集大成じゃなくてこれからの道しるべなんじゃないかなあ。一冊書きあげるたびに、心からそう思います。
——本の「読み方」も変わりそうなお話でした。この本の出版によって、世の中に本気の本が増えることを願っています。
撮影/深山徳幸
聞き手・構成/田中 裕子
【『本を出したい』関連イベント】
★4月5日 18:00-20:00(オンライン配信・アーカイブあり)
さとゆみの本づくりの師匠、タカトモさんこと、高橋朋宏さんとお話しさせていただきます。チケットはこちら
★4月10日(水) 21:00- (オンライン配信・アーカイブあり)
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