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【対談】「文章が上手くなってから書こう」ではデビューできない!――『書く仕事がしたい』が生まれるまで(前編)

病まずに健やかに、ちゃんと生計を立てながら「書く」仕事を続けていくことについて考えた書籍、『書く仕事がしたい』が本日、発売になりました。この本がどのようにして生まれたのか、担当編集者の田中里枝さん(通称・りり子さん)と私、著者の佐藤友美(さとゆみ)が対談しました。聞き手は、一足早く本を読んでくれたライター仲間のちえみです。


大事なのは「てにをは」だけじゃない。「disコメントとどう向き合う?」

――本の帯の「書いて生きるには 文章力“以外”の技術が8割」という言葉、すごいインパクトですよね。「文章を上手く書きたい、と悩む前に、やれることがこんなにあるんだ」と衝撃を受けています。そもそも、なぜ書く“以外”のことを、本として伝えたいと思われたのでしょうか。

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さとゆみ:
たとえば、TOEICの点数が900点台だからといって、外資系の企業で活躍し出世できるかというと、必ずしもそうではないですよね。書く仕事もそれに似ていると思うんです。たしかに一定レベルの文章力が必要なのだけど、文章力が高い”だけ”で、書いて生活していけるのかと言われると、ちょっと違うような気がする。では、どうしたら仕事の途切れない書き手になれるのか。そういうことを考える本にしたかったんです。
……といっても、実は、最初は文章術の本をつくろうと言っていたんですよね。

りり子:
そうそう。最初は「書くことについて、一緒に本をつくろう」とだけ話していたんです。で、文章術の本になるだろうなあ、と。でも、さとゆみから途中で「切り口を変えたい」という話があって。

――企画が途中で変わったんですか?

さとゆみ:
5年くらい前から宣伝会議をはじめとするライター講座で、講師を務めるようになったんですけど、思えば講座生の方からよく聞かれるのは「どうやって企画を持ち込むのか?」「年収を安定させるには?」「子育てをしながら書き続けられるか?」といった質問ばかり

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さとゆみ:
みんな「書いて生きていく」ことについて知りたいし、本当に書くことで生計を立てていけるのか、病まずに健やかに仕事を続けられるのか、が切実な問題なんだと気づきました。

りり子:
さとゆみからこの話を聞いて、おもろいなあ、と思いました。この書籍の前に私が『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』(近藤康太郎著)を担当していたこともあって、別の切り口で「書くこと」の本をつくってみたかった。健やかに書いて生きていくには?という問いはとてもさとゆみらしい。そして「物書きとして稼ぎ、生きていくための実践書」は、これまでありそうでなかった本の切り口です。

過去に類書がないということは、売り方が難しいと考えることもできます。でもきっと、さとゆみの話は多くの人の役に立つんちゃうかなと確信がありました。「私は文章が上手くないのかもしれない…」なんて、ひとりで悩んでしまうのはもったいないから。

さとゆみ:
本に書くことを洗い出すために、私が「文章」について普段何を考えているのかを棚卸してみようと、ラジオトークで音声配信を始めたんですよね。『ライターさとゆみの深夜のラブレター』と題し、毎晩数分、書くことについて話してみた。ところがラジオトークを200日続けたあたりで、話したことを振り返ってみたら、「編集者さんとどう付き合っていくか?」とか、「アンチやdisコメントにどう向き合うか?」とか、文章以外のテーマが意外と多くて。文章を書くことだけではなくて、私は「書いて生きていく」ことを考えていたんだ、と自分にとっても発見でした。


上手くなる前に「最低限」必要な文章術を考える


――もともとお二人はお知り合いだったんですよね。

さとゆみ:
知り合ったのは6年前くらいだよね? 本作りについて話すセミナーに、一緒に登壇したのがきっかけでした。

りり子:
そうやんね。すぐに意気投合して、仕事は抜きで定期的にお酒を飲むようになって。

これまで、さとゆみの書くものをいろいろ読んできたけれど、私が特に好きなのは書籍紹介のコラム。書評って、普通は褒めるもの、という前提で考えてしまうことが多い。でも、さとゆみのコラムは「私はこの部分がわからなかった」とかも、率直に書いている。その上で「なぜ私はわからなかったのか」と考えていく過程も書くから、結果として、コラムを読み終えたときには、紹介された本をすごく読みたくなっている(笑)。「素晴らしかったです」とだけ言うのは、仕事だと割り切れば、できる。でも、さとゆみは自分の思考と書くことに対して誠実だし、嘘がない。その書き手としてのキャラクターが魅力的だなと思っていました。

さとゆみ:
そうなんだ。聞いてみたかったんだけど、なぜ今回、私に本の執筆をご依頼くださったんでしょう?

りり子:
飲んでいるときに、よく、書くことについて話をしていたやんね? 何かについて考える“深度”が人と違うと思った。多くの人は「売れるライターになりたい」「文章が上手くなりたい」くらいの抽象度で考えて、そこで止まってしまう。でも、さとゆみはそこから「では、まず、売れるライターって?」と具体的に考えていくし、その思考のプロセスを言語化しているから、さとゆみの思考を追いかけること自体が、面白い。

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りり子:
たとえば、本の中に出てくる「ライターに求められる文章力」の話もそうやんね。文章力のレベルを階層的に捉えて、最低限どのレベルまでいければ「書けるライター」と見てもらえるだろう?と考えている。物事をふんわりと考えるのではなく、具体的に思考し、自分が確実にできる打ち手を選んでいく人。だから、さとゆみの話すことは「誰でも実践できる技術」になっているんじゃないんかな。

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(『書く仕事がしたい』より)

さとゆみ:
たしかに「最低限、何ができれば」書くことで生きていけるんだろう、と私は考えてきたような気がする。世の中にすばらしい文章術の本はたくさんあるんだけど、「ここに書かれていることを、すべてできるようにならなきゃスタート地点には立てない」と思い込んでしまったら、いつまでたってもライターになれないんじゃないか、って。

りり子:
すぐに自分にできることを、まず考えているから即効性がある。たとえまだ書く仕事をしたことがない人でも「編集者はとりあえず、書いたものがあると判断しやすいだろう」と考えて、先に、noteやブログで書いたり、自分で発表媒体を作ってしまったりするとかね。

本を読むと、帯の「書いて生きるには 文章力“以外”の技術が8割」の説得力が増すと思いますよ。さとゆみがやってきた文章力“以外”の技術は、1冊の本になるくらいの量があるんやから。

さとゆみ:
むしろ書き過ぎて削ったくらいだよね(笑)。初校の19万2千字が、最終的には11万3千字になりました。

原稿のやりとりは、まるで音楽のセッション


――19万2千字を11万3千字にするとは、すごいですね。どんなふうに制作していたんですか? 原稿のやりとりとか……。

りり子:
さとゆみが、その日書いた原稿を、順番もばらばらに、送ってくれて。

さとゆみ:
書いた原稿に、りり子さんが感想や意見をくれて、原稿の順番や流れの構成を作ってくれました。それをもとに私が原稿を入れ替えながら、内容を削ったり、また書き直したりして。

――書くことと、構成することを、分担していたのですか。

りり子:
厳密に分担するというよりは、二人でアイデアを出し合いながら。音楽のセッションのようでした。さとゆみは書き始めたらすごいスピードやったよね。1冊分の原稿を出し終えるのに、1ヶ月かかっていないんじゃないか。

さとゆみ:
書きながらSlack上で、りり子さんと本の中のいろんなテーマを議論したよね。私が面白かったのは、ライターから見た「書く仕事」の図をつくるまでのやりとりかな。

――この図ですね。

前編3


さとゆみ:
書く仕事って、本当にいろいろな肩書きがある。ライターは、作家とは何が違うんだっけ? コラムニストやエッセイストと作家との関係はどうなの? 図にしたら階層が違うのか?……なんてことを、Slackでずっと話したね。

りり子:
人によって同じ「ライター」という言葉でも、イメージする仕事が違う。だから、この本における職業の定義や、それぞれの「書く仕事」同士の関係を最初に示す必要があると思ったんよね。でも、その会話の中で「ライターの仕事と翻訳家は似ている。ライターは日本語を日本語に翻訳する仕事」といったさとゆみの考えを聞くことができておもしろかった。

さとゆみ:
「さとゆみの考えるライター像と、三島由紀夫が翻訳家について書いた文章には、共通するところがある」なんて、りり子さんが書籍の一節を送ってくれたりして(笑)。

――そんなふうにして、本がつくられていったんですね。たしかに本を読んでいても、冒頭で「いつまでに、どんな書き手になりたいですか?」という問いが出てきて、そのあと、この図を見たときに、自分も「書く仕事」をすごく曖昧に捉えていたと気づかされました。

さとゆみ:
「書き手になりたい」と思っても、その書き手がライターなのか、作家なのかで、やるべきことは随分違う。だから最初に「どんな書き手になりたいのか」、それは書く仕事の中でもどの肩書きにあたるのか、という話を書いたんですよね。


ライターと作家は「なり方」が違う。あなたはどんな書き手を目指す?


――ひょっとしたら「書く仕事がしたい」人たちの中には、自分の思う「書く仕事」がライターにあたるのか、作家にあたるのか、などがよくわからなくて、ぼんやりと混じっている、という人も多いんじゃないでしょうか。

さとゆみ:
そうかもしれないですね。たとえば「何か書く仕事がしたいけれど、自分には書く才能があるかわからない」と思っている人もいるかも。何から始めたらいいのかわからず「いつかブログやnoteがバズればいいな」と思っているとか。

りり子:
何かしら自分のことを表現したい、とかなら文章以外の表現もあるかもしれないし。インフルエンサーのような存在をイメージしている人もいるかもしれませんし。

さとゆみ:
書くことが好きな人ほど「書く仕事は、選ばれた才能の持ち主でないとできない」と思ってしまいがちなんだと思う。だから「どんな書き手になりたいのか」の前に「自分には書く才能があるか?」と考えてしまう。でも、少なくともライターの仕事に必要なのは、才能ではなくて技術だと思うから、まずは才能について考えるよりも先に、「書くことを仕事にする」と決めて書き始めてみてもいいんじゃないかな。

私自身は、ライターの仕事を続けながらも、自分が書く場所と肩書きを、“移動”してきました。ファッション誌のライターから、書籍ライターへ。そして著者へ。今ではライターの仕事をしながら、コラムやエッセイの連載を7本持っています。ライターの技術をいかして作家的な仕事をすることもできる。本の中では、どうすれば「書く舞台」を移すことができるのかについても書いています。

ゴールが違えば、道筋も変わります。この本では私が気づいてやってみたことを書いているけれど、それを読んで「私のやり方は違う」と気づかれることもたくさんあるはずです。ぜひ、その気づいたことを、私にも、「書く仕事がしたい」仲間たちにも、シェアしてほしい。

りり子:
「書く仕事」って世の中にたくさんあるもんね。本の中に「編集者はいつもライターを探している」という話が出てきますが、それはもう、ほんまにそう!

さとゆみ:
そうだよね。仕事を奪い合う必要はないんだよね。「書く仕事がしたい」人たち、みんなで幸せになりたい。だから私も、ちょっと恥ずかしいんですが、本の中で、21年間試行錯誤してきた頭の中を思い切って全公開しています。

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(さとゆみさんが仕事を増やすために考えたこととは? 悩みがちな「編集者との付き合い」、どうすればうまくいく?――インタビュー後編へ続く)
聞き手・構成/塚田智恵美

ただいま、『はじめに』をcccメディアハウス書籍編集部のnoteで、全文公開しています。


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