「ライターさとゆみの深夜のラブレター」 第1話〜第50話
ライターのさとゆみです。
書くことや表現することについて、毎晩23時にRadiotalkさんで話をしている『深夜のラブレター』ですが、「音声ではなく、テキストで読みたい」という声をよくいただいていました。
私自身も、ポッドキャストとかラジオとかが全然聴けないタイプで、テキストで読むほうが楽なので、すごくよく、気持ちわかります。
そこで、テープ起こししてもらって整えた内容を、50話ずつnote で販売させていただくことにしました。毎晩5分程度話している内容なのですが、50話分だと、内容的に、5万字弱になりました(笑)。書籍でいうと、1冊の半分くらいです。
50話分の簡単なサマリーと、第1話と第2話までは無料で置いておきます。ご興味もっていただけたら、続きをお買い求めいただけると嬉しいです。
基本的に、めちゃくちゃ「ライティング」と「ライター」の話です。
・ライターになりたいけど、どうすればいいかわからない。
・ライターってどんな生活をしているのか知りたい。
・日々、どんなことに悩みながら書いているのか、知りたい。
みたいな方におすすめです。
あとは、私のこのあたりのnoteとかを好きでいてくださる方には楽しんでもらえるかなとと思います。
【目次】
第1夜 ゴーストライターって言わないで
自己紹介をかねて、私の仕事について。書籍のライターってこんな仕事です。ゴースト、ではないんです。
第2夜 そんなに沈黙を怖がらないで
インタビューしているとき、人と話をしている時、沈黙よりも、むしろ怖いのは……。
第3夜 犯人しか知らない証拠を見逃さないで
ライターとして、絶対に落としてはいけない情報。書かなくてはならない情報。
第4夜 徹子で触ってタモリで脱がせて
人から話を聞き出す方法は、大きく分けて2つ。徹子式と、タモリ式です。この2つを組み合わせてインタビューします。
第5夜 そんなに私を信用しないで
書くときは、30分ごとにアラームを鳴らして、そのつど、書けた文字数をカウントしています。1日の仕事を終えるときは、必ず、キリの”悪い”ところでやめるようにしています。
第6夜 ライターとブロガーは別物だって
ライターになりたいという人とお話をさせていただいていると、それ、「ライター」ではなく別の職業じゃないかな?って思うことがあります。
第7夜 こっそり印税の話などして
ぶっちゃけ、書籍のライターって、印税いくらもらえるの?
第8夜 40文字も書かないで(質問へのお答え)
リスナーさんからの質問にお答えしました Q人目に触れる文章を書くときに意識するべきことは?
第9夜 disに心を折られないで(Q & A)
Q disコメントや批判的な感想にどう対処していますか?心が折れませんか?
にお答えしました。じつは、本当に怖いのは、disコメントではなく、褒められることの方だとも思っています。
第10夜 大好きな人に囚われないで
褒められることって結構怖い。とくに好きな人からかけられる言葉は、救いにもなるし、囚われたりもするという話。
第11夜 だから音楽が聴けなくて
「上手な人の文章を書き写す訓練をしたことはありますか?」「好きな書き手は誰ですか?」という質問にお答えしました。
第12夜 個性とか気にしなくたって
作家には個性やオリジナリティが必要。では、ライターの仕事には、個性は不要なの?
第13夜 憧れの文章がありまして
学生の頃から、こんな文章を書きたいなと、憧れていた文章があります。色やにおいや、手触りが、解析度高く立ち上がる。そんな、あの、文章です。
第14夜 「両立」なんて目指さないで
仕事とプライベート、どのように両立させていますか?自分の時間はちゃんと取れますか? そんな質問をよくされるのですが、この質問、なぜか違和感があります。両立、しなくていいんじゃないかなあ。
第15夜 お金じゃないところで決めたりして
仕事の選び方、についてお話ししました。ポイントは、「人」「テーマ」「お金」
第16夜 上手いと面白いは格が違うって
文章に対して「上手い」と感じる時、人は、感動していないような気がしています。一方で、「面白い」と感じるときは、もう少し身体が反応している気がする。
第17夜 ちょっとも、深くも、欲張りたくて
文章を書くときは、誰か一人の顔を思い浮かべて書きなさい、というアドバイスをよく聞くのですが、わたし、それ、何度やってもうまくいかなかったんですよね……。
第18夜 書けばいいってものでもなくて
毎日文章を書けば上手くなるか、というと、そういうものでもない気がします。
文章って、スポーツも似ていて、ある日突然、ぽんっと上手くなるもののような気がするからです。
第19夜 デビューの歳で泣かないで
40歳は、ライターになろうとするには、遅いですか? ライターを目指すに適した年齢はありますか?の、質問に答えます。この質問は、身につまされる。
第20夜 自分を騙すと辛くって
うまくいかなかった原稿に関して、1週間、もやもやいろいろ考えてた話を。
第21夜 クラウチングスタートでお待ちして
書くために準備している時間と、書く時間の割合は、8:2くらいです。じぶんをパンパンに吹く欄らせて風船を破るように、あるいはクラウチングスタートでずっと待機するように、ジリジリ待って、ぱんってなったら、一気に書く。
第22夜 小骨を抜いてさしあげて
良くも悪くも私の原稿は炎上しません。その理由のひとつは、推敲に時間をかけているから? 炎上しない原稿チェックについて。
第23夜 話すほうが断然、怖いって
話すことと書くこと、どんなふうに違いますか?の、質問に答えました。
第24夜 点がつながるエクスタシーって
今日、ドラえもんの映画を観て感動した件と、そういう瞬間を文章でも作りたいと思っていることについて話しました。
第25夜 こっそり共犯者になりたくって
文章の中で「私は~」と書いていたところを、読者の方にも(できれば)気づかれないうちに、「私たちは~」と、主語をずらしちゃう時がよくあります。読者の人と、共犯になりたいんです。telling,の書評コラム裏話でもあります。
第26夜 そんなに言葉を狩らないで
「子宮で理解する」「女性らしい髪型」。これらは修正したほうがいいと思いますか?思いませんか?まだ私も考えている最中です。
第27夜 愛してるって言えなくて
好きな人に、愛してるって言えますか?わたしは、言えないです。なぜ言えないかというと、その言葉が、わたしの身体の中にないからなんです。
第28夜 あの快感が忘れられなくて
原稿を書いていて、一度だけ、いわゆる「ゾーン」に入ったことがあります。
それまで味わったことのないような、ものすごいエクスタシーでした。
第29夜 てにをはなんか、何でもよくて
正しい日本語じゃなくても、結果的にその方が、その時の気持ちや心の動きが伝わることってあるなあと思っています。いまは、意図的にそういった「正しくはないけれど、気持ちが乗っている言葉」を使うようになりました。
第30夜 口グセ伝染って浮気がバレて
好きな人の口グセや話し方って、伝染るんですよ。だから、ああ、好きな人が変わったんだなぁとか、お、浮気してるなとか、わかっちゃったりします。
第31夜 言葉が増えると経験も増えるよね
言葉があるから、経験できることってある気がする。その経験を表せる言葉があるほど、経験の数が増える気がする。でもそれは、ほんとうに?
第32夜 書くと世界は狭くなるよね
書くことで豊かになることもあるけれど、書くことで世界を狭めることもある。
父が亡くなった時、書くと、きっと、思い出が減ると思ったんだよなあ。
第33夜 人の執筆環境って気になるよね
執筆につなっているパソコンやモニター、アプリの話をしました。わたしも、人の執筆環境、気になります。
第34夜 人の執筆環境って気になるよね②
昨夜に引き続き、取材時に使っているアイテムについてお話しました。取材で使うもの、ノート・レコーダー編。
第35夜 文章にもおデブとおヤセがあるよね
ふわふわした文章、きりきりした文章。文章にも体脂肪率があるという話をしました。
第36夜 雑誌のライターって上手な方が多いよね
著者さんたちが集まった時、「雑誌出身のライターさんて、おしなべて原稿のクオリティが高い気がする」という話になりました。私は、その理由は、大きく2つあると思っています。
第37夜 みんな売り込みが苦手だよね
ライターは、売り込み営業はあまりしないほうが良いとおっしゃる方もいるし、売り込みは凹むから苦手という方もいるのですが、私自身は、めちゃくちゃ売り込み&持ち込みするタイプです。ポイントは自分ではなく企画を売り込みこと。企画は複数持って行って後だしすること。
第38夜 飲んで書いてもいいよね
みなさんはどこで書きますか? おうち?カフェ?コワーキング? 私は今日はちょびっとアルコール入れながら書いていました。飲んで書くと、文章が少しだらしなくなって、ふわっとするのが好きです。言い訳です。
第39夜 どうにもやる気が出ない日だってあるよね
一文字も書かないまま、気づけば夜になっていました。そんな、全然やる気の出ない日、皆さんはどうしていますか? ①寝る ②やる気のある人のそばに行く
第40夜 99%の仕事はクビになってるよね
ライター歴20年ですが、失客率は99%以上です。あらゆる仕事は、いつかどこかのタイミングでクビになっているわけです。
第41夜 失敗の話は成功のそれより救われるよね
どーも。失敗蒐集家です。人の失敗話って、成功話の何倍も面白いですよね。面白いだけじゃなくて、本当に、救われる。
第42夜 「僕」が「俺」になったらドキドキするね
取材中でもプライベートでも、相手の一人称が「僕」から「俺」になったら、ここぞとばかり、いきます笑。でも、本当にモテる人は、それを狙ってわざと主語を言い換えたりするからズルいです。
第43夜 くよくよくよくよするよね
落ち込みやすい人は、むしろ、フリーランスに向いている?という話です。
落ち込んでます。
第44夜 仕事のストレスって仕事以外で解消できないよね
昨夜、くよくよしてると言ったら、励ましのお便りをいただきました。くよくよは、一晩寝ると1/2になり、二晩寝ると1/4になり、三回寝ると1/16になると信じています。
第45夜 目で読む派と耳で読む派がいるよね
物事を認識するときに、視覚派と聴覚派がいるなって思っていまして、それぞれの人たちに、どんなコミュニケーションが届くだろうと考えています。
第46夜 風呂敷の包み方を文字だけで伝えるとね
ファッション誌のライターをやっていた時に、写真や映像を、できるだけ正確に文章にする訓練を受けました。これができないと、殺人現場も書けないみたいです。
第47夜 年々書くのが遅くなるよね
文章の解像度、について考えました。文章について理解が深まれば深まるほど、おいそれと、書けなくなっていく。
第48夜 そんなに私に興味ないよね
ダイヤモンド社の編集者、今野さんのTweetを読んで、考えたことなど。自意識が語尾の端に滲んだ文章について。
第49夜 専門分野と巨匠貧乏の関係ね
ライターとして専門分野をもちなさいと、よく言われますが、、、でも専門分野だけで立つのも結構怖いなと思います。
第50夜 あなた色に染まったり、ね
取材相手から、うまく話を引き出すには?について考えました。わたしの場合、ペーシングはかなり意識します。話すテンポも、LINEスタンプも、着ていくお洋服も。
第1夜と第2夜ぶんは、全文公開させていただきまーす。
第1夜 ゴーストライターって言わないで
エッセイ、コラム、ファッション誌、ビジネス媒体……と、いろんなタイプの原稿を書いているのですが、仕事の半分くらいは書籍のライティングです。
書籍ライターってどんな仕事? というと、著者さんに20時間〜30時間インタビュー、その内容を1冊の本にまとめる仕事です。
この仕事は、5年前くらいまでゴーストライターと呼ばれていました。けれども今は「書籍ライター」や「ブックライター」という言い方をされることが多いです。
今、世の中に出ている書籍、小説やエッセイ、コラムのようなものを除くと、実用書の6〜7割、ジャンルによって8割に、ライターが入っているのではないでしょうか。
著者さんは本業で活躍されている方ばかりです。そのお仕事をしながら、1冊10万字の原稿を書くのは並大抵のことではありません。ですから、その方のコンテンツを文章化するライターという職業が存在するのです。
例えば、多くの人が走ることはできたとしても、100m11秒台で走れる人や、マラソンを完走できる人がそんなに多くないように、
10万字の原稿を書くのは、誰もが文章を書けたとしても、なかなかできることではないです。書籍のライティングは、撮影することや、イラストを描くことなどと同様、ひとつの特殊技能だと思っています。
私は自分自身を
「著者さんが持っているコンテンツを世の中にわかりやすく届けることをお手伝いする、裏側のスタッフ」
だと考えています。
著者さんは、コンテンツホルダー。
ライターは、そのコンテンツをわかりやすく伝えるスタッフの中の文章担当。
だから、イラストレーターさんや、装丁家の方と同じような立ち位置だと思っています。
※
ゴーストライターという言葉を使わなくなったのは、ライター側から「私たちの仕事を日の当たる場所に出して欲しい」という働きかけがあったことも確かです。(ただ私自身は、書籍ライターをしたときに、自分が表に出たいとは全然思いません)
どちらかというと、ゴーストライターという言葉を使わなくなってよかったのは、著者さん側じゃないでしょうか。
「この書籍にはライターが入っています」と表立って伝えられることによって、著者さんも「自分はコンテンツを提供した著者である」といいやすくなりました。
それであれば、何冊も出してみよう、と思える人が増えたのではと思います。
書籍のライターは自分で文章を創作する存在ではありません。私は、自分の仕事を「翻訳家」に一番近いと思っています。
例えば翻訳家さんが、日本語を英語に、フランス語を日本語に翻訳しているように、私たち書籍のライターは、日本語を日本語に翻訳する仕事だと思っています。
次回からは、書くときに私が考えていること、文章を書くことって、どんな風に自分が生きていくことと関係しているのか、をお話ししていきます。
第2夜 そんなに沈黙を怖がらないで
今夜は、人の話を聞くことについてお話できたらと思います。
前回、ライターは翻訳家みたいなもの、とお話ししました。もっというと、「日本語を日本語に翻訳する仕事」だと、私は考えています。
ただし、翻訳家さんたちには原文にあたる原稿があって、それを元に翻訳をしています。
では、私たちライターにとって、原文は何かというと、それがインタビューです。インタビューで引き出せた言葉が、大事な原文になるのです。
ですから、ライターの仕事の9割は書くことではなく、聞くことです。
聞くことによって原文が手に入るのです。
書いた後の原稿の修正は、いくらでもできます。でも、インタビューの失敗は、取り返しがつかないですよね。
特にウェブの原稿や雑誌の取材は、1回30分から1時間くらいです。その時間内で相手から引き出せた言葉が原文になるので、その時間は真剣勝負、シビアな時間なのです。
※
では、どんなインタビューが「失敗」なのでしょうか。
私は、インタビュー相手がスラスラと質問に答えているときは、まずいな、インタビュー失敗してるかも、と感じています。
というのも、スラスラ答えられるのは、何度か聞かれてお話されていることである可能性が高いからなのです。
そういう言葉はどこかにすでに、書かれているのです。いろんな方が、目に、耳にしているものです。
もちろん、インタビュー時間内に、全て新しいことを聞けるわけではありません。
でも、せっかくインタビューさせていただくのだから、1つでも、2つでも、新しいことを読者にお届けできるのであれば、そのほうがいい原稿になるかな、と考えています。
こういう予定調和な会話を「クリシェ」という言い方をします。フランス語で、使い古された言葉、常套句という意味。このクリシェを超えた後にするインタビューが、実は、本当のインタビューなのではと感じています。
ライターさんたちと話していると、「沈黙が怖い」という人がいます。
でも私は、沈黙がある時の方が、インタビューがうまくいっている、と考えます。沈黙があるということは、その方にとって、初めて考える内容だった、ということだからです。インタビューする側にも、される側にも、新たな気づきがあります。
もしインタビュー内で沈黙が生まれてしまったら、出来るだけ待つようにしています。その後で話してくださった言葉は、原稿の中でかけがえのない言葉になることが多いからです。
とはいえ、クリシェを超えて、新しい言葉を引き出すこと、その方にとって新しい質問を繰り出すことは、全然簡単なことじゃないです。私も日々試行錯誤。このことについては、またお話できたらと思っています。
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