見出し画像

琉球の薬草とぬちぐすいに触れる旅

毎年冬季休業中は、同行者を募り台湾や東南アジアで山岳民族の調査をしてきた。今年はそういうわけにも行かないので、2022年1月7日から24日まで、琉球の発酵と薬草を巡る旅に出ていた。

ちょうど沖縄で感染者が増え始めた関係で、同行者が誰も来られなくなってしまったのが残念だが、滞在先の北部は比較的落ち着いており、楽しいお話をたくさん聞かせていただくことができた。訪問記録は後述のE-BOOKにてまとめているが、その一部を抜粋してご紹介したい。

ぬちぐすいと食養

「ぬちぐすい」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。元気になるほどおいしい食べ物を表す命の薬だ。沖縄の食文化は、台湾や中国南方とよく似ている。琉球王朝時代の交易で、さんぴん茶を代表する発酵茶、黒砂糖、豆腐の製法、ゴーヤ、レイシ、うこん、さつまいもの栽培法に加え、漢方薬や養生食の考え方も入ってきている。

1832年、北京大学医院で食医学を学んだ琉球王家の侍医・渡嘉敷通寛は、『御膳本草』を記して王府時代の食医学を体系づけた。『御膳本草』では、ウジニー(補益)、クンチ (元気、根気)、ハッサングスイ(発散薬)、シンジグスイ(煎じ薬)など、 16項目308品目の食材が紹介されている。

シンジムン(煎じもの)は、滋養強壮のために飲む栄養ドリンクだ。チム(レバー)を塩と泡盛で揉み、島人参やヨモギ、二ガナとともに時間をかけてじっくり煎じてつくられる。そこには、「以類補類(類をもって類を補う)」という考えが基本にある。

例えば、泌尿器系の治療に豚の膵臓(タキー)と腎臓(マーミ)を煎じ、呼吸器系に問題のある人に肺(フク)を煎じる。足腰の悪いお年寄りには 豚足のお吸い物がよいとされる。このように、沖縄の養生には、随所に中医学の影響が見られる。

薬草農家の薬箱

沖縄の伝統的なおうちは田の字型になっていて、土間にキッチン、裏手には「豚便所」と言われるトイレと豚小屋が一緒になった建物があり、さらにそのうしろには「あたいぐあー」と呼ばれるキッチンガーデンが裏庭に広がる。やんばる(山原と書き、沖縄本島の北部にあたる地域)の冬は意外と寒いので、いろりがあるおうちもあった。

「これは、蚊よけのために植えている薬草で、これは、おばあのサロンパスの薬草、それから、こっちは薬酒に漬ける用で・・・。」

やんばるの薬草農家を訪ねると、次々とお庭の植物を案内してくれた。手作りジャムや薬草茶、薬酒、泡盛に漬け込んだ蚊よけや筋肉痛の時の塗り薬など、出てくる出てくる。お庭で即席のテーブルが出てきて、おばあの保存食やお庭の果物などいろいろ味見をさせてくれた。あたいぐあーは、食べ物を採集できるだけでなく、植物とともに生きる知恵に満ちている。

観光でいきなりこういうおばあに遭遇できる確率は低いかもしれないが、だれでも薬草が味わえ、学べる場所もたくさんあるので、少し紹介したい。

ぬちぐすいを味わえる場所

◉沖縄第一ホテル

国際通りからのアクセスも良く、牧志市場にも近い沖縄第一ホテルでは、約20種類の薬膳料理が楽しめる朝ごはんが人気。オオタニワタリや長命草、島らっきょう、うこん、アロエなど、沖縄ならではの食材が朝から食卓をうめつくす。泊まらなくても朝ごはんだけ注文することもできるのでぜひ一度は味わいたい。

住所:沖縄県那覇市牧志1-1-12

◉命果報(ぬちがふう)

壺屋やちむん通り沿いにある古民家で沖縄の郷土料理をいただけるお店。窓から登り窯が見える。食器も素敵。

住所:沖縄県那覇市壺屋1丁目28−32
bukubuku.okinawa

◉笑味の店

医食同源に基づいた沖縄の伝統的な料理を味わえる。 目の前にキッチン菜園「笑味の畑」が広がる。 お弁当のテイクアウトもできる。

住所:沖縄県国頭郡大宜味村大兼久61
https://eminomise.com/

薬草について学べる場所

長生薬草園

沖縄本島南部南城市にある薬草園。入り口には植物標本のように瓶に入った植物がずらりと並ぶ。きれいに手入れされた薬草園は、入場料300円で見学できる。植物園と違って、実際に製造加工される薬草の原料として栽培されている農園で、実用的な薬草の使い方を学ぶならここ。併設されたレストランでは実際に薬草が味わえる薬膳料理を満喫することができる。

住所:沖縄県南城市佐敷仲伊保116−1
http://okinawa.cho-sei.co.jp

野草茶やしみんやー

「すみっこの家」という意味のしみんやーは、沖縄北部本部に隠れ家のように佇む古民家茶屋。約30種類の野草から目の前でブレンドしてお茶を作ってくれる。晴れた日には縁側で野草たちが天日干しされている様子を垣間見ることができ、お母さんがひとつひとつ解説してくれる。

住所:沖縄県国頭郡本部町渡久地108


E-BOOK OKINAWA FOODGRAPHY 〜琉球食卓の民俗誌〜

以上の内容は、沖縄の薬草と発酵がテーマのE-Book・『OKINAWA FOODGRAPHY』の一部抜粋である。

このE-Bookでは、沖縄ならではの食材を用いた33種類の家庭料理レシピほか、琉球薬草、発酵、保存食、手仕事などをテーマに発見したおすすめのお店について紹介している。次回、沖縄に行く際のヒントになればと思う。

E-BOOKの詳細:
https://satoyamalibrary.stores.jp/items/61f28f2c423f6a49762732f0

PDFデータ(22.9MB) 48ページ

目次

  • 沖縄料理とは?

  • 薬膳と長寿食

  • 沖縄の食辞典

  • 野草文化

  • 豚とラード

  • 発酵食品

  • 泡盛

  • 調理方法

  • 調味料

  • 琉球料理レシピ集 (33種類)

  • おすすめのお店

よろしければサポートお願いします。いただいた費用は、出版準備費用として使わせていただきます。