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私がかわいかったら

 私がかわいかったら、きっともっとかわいい洋服を着ると思う。

 私がかわいかったら、あなたにかわいく上目遣いして見せるし、食事中だって顎マスクなんかじゃなくて、ちゃんと外して、にこっと笑うと思う。

 私がかわいかったら、もっと自信を持ってあなたに「どっか連れて行ってください」って言うと思う。


 私がブスで、あなたに申し訳ない。あなたみたいに思いやりがあって優しくて、人の気持ちがわかる人を、好きになって、良くしてもらって気にかけてもらって、申し訳なくて、仕方がない。せめてもうちょっと器量がよければなって思って、虚しいやら悲しいやら。あなたに「かわいい」と言われて、喜びよりも実は安心が先にきた。あなたの横にいても、私、大丈夫かな、と思う。優しくて素敵で格好いいあなたの横に私がいるだけで、あなたの価値が下がる気がして、あなたが周りにみっともなく見られてしまう気がして、苦しかった。だから、あなたからの「かわいい」に安心してしまう。

 合コンで連絡先を交換した男性から、一度でも連絡が来たことがなかった。飲みの席ではいい雰囲気だったのに、そう思っていたのは私だけだったのかな。『あなたと2回会う価値はない』と烙印を押された気分になって、笑い話にしていたけどやっぱり悲しかった。「楽しかったね」も「また行こうね」も全部嘘だったのかな。同年代が怖かった。いや男性が怖い。

 私がかわいかったら、もっと自分を大切にしてあげられていたかな。

 「私」ってどこにあるんだろう。「私」って「顔」なのかな。違うよな、きっと。あなたの「かわいい」は、「顔」じゃない「私」という存在そのものを可愛いって言ってくれたんだって私は思ってる。それって、本当にありがたくて、それだけで、23年が報われた気がする。

 私がかわいかったら、多分自分のこともう少し大切にしてあげられていたし、人から大切にされていたよ。私の顔はかわいくないけど、誰かが、「私」という存在の「かわいさ」を見つけてくれたら、嬉しいなと思う。私自身も、きっとその部分を死ぬときに持っていくんだから、綺麗にかわいくしておかなくちゃ。「顔じゃない」ってありきたりだけど、きっと顔じゃないね。顔は死ぬとき持って行かれない。だから、私は本当の意味で、かわいくなりたいな。

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