恋するガムてーぷ
”これで最後にしよう”
いつも、そう思って開ける、ドアがある
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彼は知り合いの知り合い
ある飲み会で出会い、そのまま一緒に帰った。不健全な出会い。
飲み会終わりの朝。彼の家のベッドで目を覚ます。先に目を覚ましてしまった。朝一番、ノールックで他人の日常が気になるほどにインスタに支配されている。友人の旅行の風景。カップルでのディナー。昨日の飲み会。次々と流れてくるストーリー。どの物語も薄っぺらかった。彼が目を覚ます
「おはよう」
「あ、うん」
”うん”って、”おはよう”って意味だったっけ
生ぬるい空気が流れる
お互いが目を覚ました時の、あの
”初めまして”感
何とかして欲しい。
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それでも、出会ってしまったのだから仕方がない。彼はずるい人で、一緒にいると楽しいし、優しいし、抜け出すことができない。
初めて二人で花見に出かけた。散り際の桜は綺麗だった。淡い思いが芽生え始める。彼との距離が縮まった気がして、少し嬉しかった。
二人で浴衣を着た花火大会。真っ暗な夜空に堂々と咲いた、赤と青のコントラスト。二人で夜空を眺めているこの時間がずっと続く気がした。初めて彼が手を握ってくれた。期待に胸が高まる。
「離さない」
そう言って、彼はいつも私を抱きしめる。
私も
「離れたくない」
そう言って、お互いを求め合っている。
木枯らしに吹かれた散歩道。カフェで過ごした後、二人で歩くのがルーティンだった。寂しさと自惚れ。
冬は二人でこたつに包まった。熱の温度とは別の暖かさを感じた気がした。寂しさは諦めに変わった。
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”これで最後にしよう”
いつもそう思いながら、彼との時間から抜け出せずにいた。
彼はいつも「またね」という。その言葉に私は応えてしまう。
恋とか愛とか、そんな淡い言葉は似合わない関係。
彼の部屋には、長さの違う髪の毛が、色の違う髪の毛が散らばっている。
月の中で彼に会えない日が何日かある。
私は彼に
”遊ばれている”
彼はいつも、
「離さない」
そう言って、私を抱きしめる。
私も
「離れたくない」
そう言って、お互いを求め合っている。
熱がこもっていると、想いが貼り付いていると、どうしても気づくことができない。彼が離したくないのは私ではなく、お互いの関係だというのに。
彼から”好き”という言葉を聞いたことはなかった。
どうしてもその言葉が聞きたくて、寝転んだ彼の背中に言葉をぶつけてみる
「スキ」
彼からの二文字は
「...うん」
「...」
「...」
”うん”って”好き”って意味だったっけ
その二文字に、諦めろと言われている気がした。出会ったあの日から、一線を越えているのに、二人でもっと大事な線を跨ぐことはできない。
越えてしまった線を引きなおすために、ベッドから立ち上がった。
「どうしたの?」
自分の中で我慢していたものが、抑え込んできたものが溢れ出てくる。
「私、あなたの玩具じゃないから。都合の良い女じゃないから...!」(彼の都合に合わせていたのは私だ)
気づいてるくせに。気づいてたくせに...!(私も気づいてたよ)
ずるいよ。どうせ私に対して何の思い入れもないんでしょ。都合よく遊べればいんでしょ...!(離さないで)
付き合ってもないくせにお互いの位置情報確認しあったりしてさ...!それで落ち込んで見たり。バカみたい。(君も落ち込んだりしたのかな)
メンヘラとか思われてもいいから!メンヘラが悪いとか、メンヘラにさせる男が悪いとか、そんなのどーだっていいから!(無茶苦茶だ)
乱れた。
言いたいだけ言って、彼の部屋を飛び出した。私もずるいな。自分の思いだけぶつけて、彼と向き合う勇気も持ち合わせていなかった。わかっていた。彼が本気じゃないって。それでも離れることができない自分が嫌いで、粘り強く待ち続けたあの季節は苦くて
彼のことが好きだった。
冷たい雨が興奮した想いを冷ます。ずぶ濡れ。走った。追いかけてくる彼の声が聞こえなくなるところまで行きたくて。この程度の雨でははがれ落ちないほど、私の粘度は強い。
きっとまた、彼の心に貼り付いてしまう。
手首を掴まれる。私は足が遅い。
沈黙が流れる。このまま二人で濡れていられたら、どんなに幸せだろう。
「ごめん」
そう言って、彼が私を抱きしめた。
なんだ
お互い
べったりじゃないか
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