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社長の始末書 33 枚目〜そんな自分を好きになる〜

あたたかな光に向かって

一途が作ってくれた楽曲「ひとつのあかり」のおかげで、沙織にも笑顔が戻りました。何より、私自身の使命を見つけることができました。

それから私たち夫婦は、美咲を大切に、特に自己肯定感を高めることを意識して育ててきたつもりです。

しかし美咲が8歳のとき、こんなことがありました。

ある休日の昼下がり。

家族で遅めのランチを食べていた時のことです。スプーンをもてあそぶばかりでご飯が進まない美咲に気づき、私は「美咲。ほら、遊んでないで食べなきゃ。」と促しました。

すると美咲が突然、ぽろぽろと大粒の涙を流しはじめたのです。

美咲はスプーンを持ったまま、涙を拭こうともせず、ただただ静かに、滝のような涙を流し続けています。

私は驚いて「どうしたの? 大丈夫?」とティッシュを渡すと、そこから美咲は大きな声で泣きじゃくりはじめました。

そして次の瞬間、思わぬ言葉を発したのです。

「なんで? なんで美咲だけ…アタマがわるいのーーっ!?」

私の全身に、何かに貫かれたような衝撃が走りました。

私は「大丈夫。大丈夫だよ。」と声をかけながら美咲の涙をティッシュでぬぐい、こう聞きました。

「そんなこと、誰かに言われたの?」

しかし美咲は泣くばかりで、答えは返ってきません。妻も心配そうな表情で美咲を見つめています。

私は体を美咲に向けて、ゆっくりとこう言いました。

「美咲の頭は悪くない。ただ、みんな苦手なことがあるだけなんだよ。パパだって苦手なことがいーっぱいある。それは普通のことなんだ。

みんな誰とも違うから、特別なんだよ。いい? 美咲の頭は絶対に悪くないよ。」

私は、美咲の頭を撫でながら、笑顔で、でも強くこう言いました。

「美咲はパパとママの宝物なんだからね。それだけは忘れないでね。」

美咲はようやく落ち着いたようで、小さく頷いてくれました。

その後、食卓を片付ける手伝いをしながら、私は思いました。

まだ小さい美咲が、なにかのきっかけで人との違いを明確に感じ、あるいは心無い言葉を浴びせられ、自信を失い、自分を責めている…どんなにつらいだろう。私は胸がギューッと締め付けられ、我慢していた涙が溢れてきました。

人より何倍も苦手なことを抱えて生まれてきた美咲。その分、苦労することも多いかもしれません。

ここで、この始末書を書いたふたつめの目的をお伝えします。

この書は、美咲へ送る私なりの「人生の参考書」でもあるのです。

私も美咲と同じく、幼い頃から失敗続きで、数え切れないほどの挫折を繰り返してきました。他人に迷惑をかけたことも星の数以上です。

その反省は今もこころの中にあります。

でもだからといって、私は不幸ではありません。

むしろ、生まれてこれて本当に良かった。心から感謝している自分がいます。

失敗続きの人生なのに、どうして幸せだと言えるのか? 

その謎をこのブログで解き明かすことで、美咲の人生もきっと楽になるはず。そう思ったのです。

美咲はまだ子どもですし、今すぐに理解はできないでしょう。しかし、いつかぜひ、この始末書を読んでほしいと思っています。

私の自慢は、周囲のひとたちです。私はなにより人に恵まれてきました。

まずは両親をはじめとした家族。そしてどんちゃん、くまさん、みっこちゃん、伊藤敦子、それからたくさんのスタッフや取引先のみなさん。

私は決してひとりぼっちではありませんでした。みんなが私を親身に支えてくれるからこそ、ここまで生きてこられました。

じゃあなぜ、みんなが私を支えてくれるのか。それはきっと、私が彼らのことを大好きだからです。

人を大好きになれば、自分を好きになってくれます。人を疑うと、疑われます。嫌うと、嫌われます。この単純な真理を、私は社長をする中で強く学ぶことができました。

じゃあ、どうすれば他人を好きになれるの? という美咲の質問が飛んできそうです。

その答えもカンタンです。他人を好きになる前に、そんな自分を好きになるのです。

どんちゃんも言う通り、完璧な人間なんて存在しません。完璧じゃない自分を認め、好きになりましょう。この宇宙からのおすそ分けをありがたく、いただいちゃえば良いのです。

苦労の連続も、また良いのです。美咲らしく、健気に頑張る自分も含めて愛すれば、他人のこともますます可愛く見えてきて、大好きになることができます。

美咲は必ず幸せになれます。

それを確信した出来事があります。

彼女が9 歳のとき、私はある質問をしました。

「今まで生きてきた中で、一番ありがとう、って思ったことはなに?」

これは当時、一途が児童によく質問していたことです。

そのとき私は、美咲から返ってくる答えが「送り迎えをしてくれて」とか、「ご飯を作ってくれて」という内容だと想像していたのですが、彼女はこう答えてくれました。

「生まれてきたこと。」

私は全く予想していなかった返答に驚きました。すると美咲は続けて、

「産んでくれてありがとう。」

と言ってくれたのです。

私は涙を抑えきれないまま、たまらず美咲を抱きしめました。

そして、

「こっちこそだよ。こちらこそ、生まれてきてくれて本当にありがとうね。」

と伝えました。

こうやって生まれてきたことに感謝している美咲だったら、なにがあっても大丈夫です。

きっと周りから愛される存在になります。

だから安心して。挑戦を怖がらず。自分を信じて。

美咲も決して、ひとりではありません。

一日一日を大切に、力強く生きていってほしいと思います。

さて、長きに渡ったこの「社長の始末書」も、次回でいよいよ最終話です。

いままで本当にありがとうございました。


〜つづく〜


最終話はこちらから⬇

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