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社長の始末書 31 枚目〜走れ! 愛に向かって〜

恐れず、大胆に!

「発達障害の究極の反対語。うーん、完全発達、とか?」

「あはは! いいね! 完全発達。造語だけど、気に入った。じゃあ聞くけど、人類はいまだに戦争、殺人、窃盗、詐欺とか、毎日のように問題行動を起こしていない?」

「起こしていますね…。」

「そんなに大きな問題じゃなくても、隣のヒトを羨んだり、万引したり、嘘ついたり、いじめをしたりして。これって『完全発達』を遂げた姿だって言えるだろうか?」

「いやあ、それは難しいと思います…。」

「ね。極論で申し訳ないけど、オレも含めて人類はきっとまだまだ未成熟なんだよ。

でもさ。考えてみれば、宇宙自体もそうなんだよね。だからこれが人類に対する、宇宙からのおすそ分け。」

…えっと、ちょっと意味が?

どんちゃんはニッコリ笑い、空を見上げながらこう続けます。

「実は今この瞬間も、宇宙はどんどん拡がり続けているのを知ってる? 138 億年前のビッグバン以降、ある意味宇宙もずっと不完全な状態なんだよ。人間も当然おなじ。不完全。

言い方を変えれば、『永遠に成長する存在』なんだよね。

でもいつか必ず死を迎えてしまうのが人生だし、宇宙の摂理じゃん?

で、オレは思ったんだ。

そうか、完璧じゃないのが完璧なんだって。」

「完璧じゃないのが、完璧…。」

「うん。オレたちは誰一人、完璧じゃない。だからこそ良いことがたくさんあって。

たとえば完璧じゃないがゆえに、ヒトは失敗をするよね。そうしたら、痛みを知ることができる。そうなると相手のことを思いやることができ、お互いに助け合える。

つまり完璧じゃないからこそ、人間は愛を与え合うことができるんだよ。これって素晴らしいことじゃない?」

なるほど…。なんだか胸がジーンとしてきましたが、私は思わずこう質問しました。

「でも、完璧じゃないって思うと、もう人生を諦めちゃうってことには繋がりませんか?」

「なるほど。でもそれはもったいないね。もちろん完璧を目指せば良いんだよ。でも、それがすべてではない。ってこと。重要なのは、成長することなんだよね。

だから失敗はね。成長のもとなんだよ。」

「成功のもとではなく?」

「そう。成功ではなく、成長することこそが宇宙の使命。それもたっぷりとおすそ分けいただきましょう!」

いただきます! 私は心の中で手を合わせました。

「孤独感に話を戻すと、それは自分が完璧じゃないということを忘れてしまい、愛の相互補完がうまくいっていない状態だという証拠でもあるんだね。だから『走れ! 愛に向かって』っていうサインなんだよ。」

「愛に向かって、まったく走ってなかったです私は…。」

「それも実体験からの貴重な勉強。いいんだよそれで。

ちなみにさ。サトシも僧侶時代とか特に『生かされている』って言葉、よく聞いてたじゃん? あれってすごくホッとする、良い言葉だよね。

なぜホッとするのかを考えたら、感謝と謙虚さに満ちている姿勢としての美しさもあるけれど、意味が孤独の反対だからだと思うんだ。

つまり生かされているのは、愛されているってこと。」

なるほどたしかに「生かされている」という概念には自分が全肯定されているような印象があります。

「オレ自身、振り返ってみれば数え切れない失敗をしてきたし、ヒトを傷付けてしまったこともある。中には人を裏切ったカタチになってしまったこともね。後悔だらけで、思い出しただけで泣きたくなるよ。

でも今、オレはまだこうして生きている。いや、生かされている。

だからもう、感謝しかないじゃん?

さらにサトシには家族もいるし、俺たちという長年の仲間もいる。それを忘れないように。

つまりサトシは決してひとりじゃない、ってことだね。

そしてサトシをはじめ、人類の孤独が減っていったら、それに比例して自殺という悲劇も減る。それこそ、世界が平和になっていくきっかけがそこにあると思うんだよ。

あ、もう時間だ。」

どんちゃんは時計を見て、急いでパソコンを片付け出しました。そして出口に向かって2、3 歩歩いてから振り返り、グーサインを出してこう言いました。

「うつ病はサトシの勲章! まあ適当にいこうぜ!」

どんちゃんの後ろ姿を見送りながら、私は心の底からわきあがる勇気、そして感謝を感じていました。

彼のおっしゃる通り、私は仲間がいたにも関わらず、長い間誰にも自分の不安や恐怖を打ち明けられず、ひとり悶々と悩み苦しんでいました。

しかし、それは私の心の病気を呼んでしまいました。どんちゃんの言うステルス孤独に捕まってしまったのです。

本当は虚勢を張らず、恥ずかしがらず、愛に向かって思いっきり走れば良かった。仲間に素直に助けを求めれば良かったのです。

しかも私は病気になった事実を、最大の理解者であるどんちゃんにまで隠し続けた。それを知ったどんちゃんは私を叱らず、受け入れてくれたばかりか「ひとりじゃない」と言ってくれました。

さて、私がこの「社長の始末書」を書いてきた理由のひとつをここでお伝えします。

そうです、心の病気にかかったことがきっかけです。

私は、私のような境遇に陥ってしまった人の力になりたいのです。そしてできれば、心の病気をきっかけとした自殺も減らせたら、こんなに嬉しいことはありません。

ですからどうか皆さんも、「ステルス孤独」にはじゅうじゅう気をつけていただきたいのです。

苦しい状態に陥ったとき、迷うことなく周囲に相談し、助けを求めてください。もし助けを断られたら、代わりに誰かを紹介してもらいましょう。めげずに、何度でも、孤独な状態からとにかく脱するのです。

もし、天涯孤独の身だという方は、助けを求める先はネット上かもしれません。バイト先でも、就職先でも、ひょっとするとNPOや福祉関係、あるいは行政の方かもしれません。

怖がらず、諦めず、心を通じあえる人と出会うまで、愛に向かって走り続けていただきたいのです。そして、素直に相談することをどうか恐れないでください。

逆に、苦しんでいる人が近くにいらっしゃる場合は、「あなたはひとりじゃないよ」ということをお伝えいただけたらと思います。

なお、すでに重いストレスを感じていて、つらい毎日を過ごされている方は、なるべく早めに心療内科を受診されることをおすすめします。私はそれでラクになりました。

あなたが今がどんなに辛くても、きっといつか、誰かと笑顔を交わしあえる日が来ると私は信じています。

あなたも決してひとりではないのです。

心から応援しています。

さて、私がこのブログを最後まで書き続けなければならない理由はまだあります。

それは他でもない、私の子どもたちのためです。

次回から、いよいよこの物語も最終章に入っていきます。

もう少しだけ、お付き合いいただけたら幸いです。

〜つづく〜


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